第17話 ノート page16

 短大を卒業した私は、ある化学繊維の会社の事務員として就職しました。

 入社した当初は、1日中机に向かって坐っているのが苦痛で仕方ありませんでした。

 しかし、仕事から解放されて会社を出ると、そんなこともいっぺんに忘れてしまい、暮れなずむ街の中に溶け込む毎日でした。

 会社の同僚と買い物に出かけたり、ショーウインドを覗いたり、アイスクリームを食べに喫茶店に入ったりする自由が、私を浮き立たせました。

 家に帰っても学生のときのように勉強するわけでもないし、かといって家のことを手伝う気にもなれなかったので、ついつい帰宅時間が遅くなる日が続きました。

 とうとう痺れを切らしたママは、「たまには台所の手伝いでもしなさい。

 そんなことではいいお嫁さんになれませんよ」と、目を三角にして言いました。

 でも私にはそんな気が全然起こらなかったのです。

 ママと一緒に台所で……、

 なんて想像するだけでも嫌でした。

 勤め出して半年も経った頃、私に好きな人ができました。

 でも彼には他に恋人がいました。

 2人の仲は社内でも有名でした。

 そんな2人の間に私が入り込む余地などない、と諦めかけたとき、

 偶然にも彼と話をする機会に恵まれたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る