かばんの「野生開放」

@monokakinosaru

第1話 かばんの本性

 許せない―


 かばんは迷わなかった。


 この島のフレンズを暴走状態に、相棒のサーバルを暴走状態に陥らせたことに怒りを覚えていた。


 暴走状態に陥ったサーバルを治療し終え、サーバルが完全復活した直後だった。


 かばんは覚悟を決めた。

「ラッキーさん、他のフレンズさん達と連絡を取らさせてください」


「ワカッタヨ、デモジカンガナイカラ、デキルダケテミジカニネ」


「分かりました」


「ツウシンヲカイシスルヨ」


「皆さん聞こえていますか?」



 真っ先に返答したのは博士だった。


「―!!かばんなのですか!?無事なのですか!?サーバルは―」


「落ち着いてください博士、僕らは無事です。あと色々聞きたいことがあるのは分かりますが、時間がないので僕の方から簡潔に言います。今から”あれ”を使います。他の皆さんを集合させてください」


「言われなくても既に集合しているのです。早く言うのです」


「分かりました」

 かばんはスゥっと息を吸った。


「―全体ィィィ―気をつけ!!」


 その場にいたフレンズが一斉にビクッとし姿勢を咄嗟に直したのが映像の無い通信でもかばんに伝わった。



 そして次に言葉を話したのは博士だった。


「かばんより作戦の説明があります。静聴!!」


 かばんは先ほどの鳴り響いた声からいつも通りより少し大きめの声にまでトーンを下げて淡々と作戦を伝えていく。


「これより緊急プランαに則り―3グループに分かれ―最終戦争を行います!元より数少ないフレンズさんをさらに分けさせるのはしのばれますが、もう少しだけ僕の我がままに付き合ってください!」


 かばんのお願いに対して真剣に聞くフレンズ、笑いながら聞くフレンズ、ビクビクと怯える


 フレンズなど様々だが…


「はいっ!」「応っ!」「分かったよー」「のだ―!!」


 全員が何も言い返すことなく即座に返事をした。


 かばんもまたフレンズたちの団結力に改めて感心させられた。


「あとは博士にお任せして大丈夫ですか?もし、この作戦がダメになったら…もし―」


『…まったく―それでもかばんは1位ですか?この島の長がかばんを一目置いているのです。……どうか、あの黒かばんを…止めて…皆を―』


 ドン!

 かばんは自分の胸に拳を勢いよく当てた。


「――任せておいてください」


『…ええ、また!』



 これがパークの危機の最後の通信となった。




 …




 闘いながらかばんの声をラッキ-ビースト越しに聞いていた皆は通信が終わると博士をまじまじと見つめる。


「さぁ、我々もかばんばかりに任せていられ…ない…」


 そこまで言いかけたところで博士が皆から異常な注目を集めていることに気がついた。


「…みんな揃ってどうしたのですか?」


「いや…薄々は感じてはいたんだが―やはりパーク・ランキング1位ってかばんだったんだなって…」


 ヘラジカが苦笑いしながら博士に聞いた。


「そういえばまだ言っていませんでしたね。かばんの戦闘力はこのパーク内でも群を抜いているのです。恐らくライオンとヘラジカが2人掛かりでやっと五分五分な試合になると思うのですが…かばんについては底が知れないのです」


「…マジか…」


「マジです。因みにかばんはジャパリ・ランキングも1位なのです」


「…」








 …







『――やっと終わりましたカ?』




 黒かばんの声が外から聞こえてくる。


 サーバルはもちろん黒かばんも自分とほぼ同じ大きさ、高さの声で話しかけられてかばんも不気味さを感じ、背中に鳥肌を立たせた。






『大丈夫でス。今度は邪魔者がいないかラ、ゆっくりお話できそうですネ』







 ガチャリ、とドアを開け放ち。


 忌々しき存在――黒かばんは、警戒するかばんとサーバルとは対照的に、満面の笑みを浮かべてそこに立っていた。



『外で待ってまス。早く覚悟を決めて出てきてくださいネ』





 黒かばんの前では強気の姿勢でいたサーバルも視界から離れると怖気づいたような表情に一気に変わる。


 かばんはそんなサーバルの様子を見たからこそ覚悟が決めることができた。


「――…行こう、サーバルちゃん」





 サーバルの耳がその声に反応し、動くのを視界の端に捉えながら、かばんは立ち上がった。


 建物の中だと動きが制限される。



 辺りを見渡して、床に転がっていたステージで使っていたであろう演技用の剣を拾い上げる。


 グローブ越しでもひやりと冷たいそれは、細いものの非常に硬くて丈夫そうで、少なくとも中に入っているバネさえ取り除けば本物に近い剣になりそうだった。





 控えていたラッキービースト達が、ぴょこぴょこと集まってくる。





「皆さんはこの建物から出た後、あのボクが皆さんに危害を加える可能性もあるので、できるだけボク達から距離を取るようにしてください。離れた所から様子を記録して、外のフレンズさん達に伝えてほしいんです」





 かばんの指示に、ラッキービースト達はそれぞれ『ワカッタヨ』『マカセテ』など了解の返答をする。


 そんな中、ずっと行動を共にしてきたボスだけは何も言わずにじっとかばんを見上げていて。





『…カバン、ボクハ暫定パークガイド兼調査隊長兼ランキング1位デアル君ノ補佐役トシテ、君ノ側ニイルヨ。ソレデモ良イカナ』


「えっ…でも…」





 自分以上に身を守る術を持たないボス。


 そんな彼にとって、自分の側に付き添うということはかなり危険な行為である。


 だからこそかばんは、遠慮がちに口を開いた。が、





「ボクの側にいるのは、危険だと思うんですが――」


『エラー、エラー。指示ヲ聞キ取ルコトガデキマセンデシタ』





 かばんの言葉を遮るように、ボスは食い気味にそんな声をあげた。





「ラ、ラッキーさん…」


『…』





 ボスらしからぬ強情な態度に、思わずかばんもたじろぐ。


 しかし、その姿からは有無を言わせない決意のようなものも充分に伝わってきて。


 かばんは、困ったように苦笑いを浮かべると、ボスの耳の間に手を置いた。





「…わかりました。ラッキーさんが近くにいてくれると、ボクも安心するので…お願いします」


「ボスもかばんちゃんのことが守りたいんだね」





 にこっと笑うサーバルに、ボスは返事を返すことなく尻尾をふいふいと振りながら、開け放たれたままの扉の方へと歩き出す。






『急ゴウ。早クアノセルリアンヲ止メテ、パークヲ元ニ戻サナイトイケナイヨ』






 かばんは確かめるように武器の剣を握りなおし、サーバルを見た。


 まるでかばんがそうするのがわかっていたかのように、サーバルはかばんと目を合わせて柔らかく笑う。





「だいじょーぶ。かばんちゃんは、あのセルリアンよりも絶対にすっごいんだから。…絶対に、大丈夫だよ」





 はにかむように微笑むかばんにサーバルが寄り添い、二人はボスと共に扉をくぐって、決戦の地へと足を踏み出す――。











 …














『あレ、思った以上に早かったですネ、出てくるノ。怖じ気づいてもっとかかると思ってましタ』




「待たせましたね、黒かばんさん」



 ズボンのポケットに手を突っ込んで、平然とした顔で黒かばんは建物から少し離れた開けた場所に立っていた。


 しかし、その鞄からは、あの凶悪な四つの触手がうねうねと伸びていて。








 ――その内の二本は、先ほどまで自分たちを一生懸命監視していた翼のセルリアンを、バリバリと噛み砕いていた。


『これでいけるとおもったんだけド…うわァ、何か剣とか持ってるしまだ足りないかなァ…。仕方ないナ…』





 翼のセルリアンを喰らっていた触手の一本が、今度は黒かばんの横に控えていた牙のセルリアンにドッと食らいついた。





「…っ」


『ギヤ…!』


『うン、これでどうにかなりそウ。君たちはよく働いてくれたヨ。お疲れ様』





「―『これでどうにかなりそう』?出来もしない事を言わないで下さい」



 無視する黒かばん…。



『…さァ、それまでまたお話でもしましょうカ―いや…まずは自己紹介からですネ。改めましてボクは…好きに読んでくれて良いですガここでは皆さんが読んでいる通り“黒かばん”と名乗っておきまス』





 そう言葉を投げると同時に、黒かばんの背中に残った触手の一本がかばん目がけて伸ばされた――


「…っ!」





 かばんに襲いかからんとしていた触手に素早く反応したサーバルが、二人の間に割って入り、爪を振るう。


 切り裂かれ、軌道がぶれた触手は、かばんに食らいつくことなく見当違いの方向へ伸びて宙を噛んだ。





『チッ…鬱陶しいなァ…邪魔しないでヨ。その子にいろんなこと教えてあげなきゃいけないんだかラ』


「…かばんちゃんと勝負するならまずはあたしが相手だよ…」


『カバン、あなたハ本当にそれで良いんですカ?ズっとあなたノ相棒であったこの出来損ないヲ真っ先に失うかもしれませんが良いんですカ?」


 かばんは黒かばんの放った質問よりも『出来損ない』という言葉にビクッと体を震わせた。

 そしてフゥッと息を吐くと―


「分かりました、ごめんサーバルちゃん、黒かばんは僕を指名したから―」


「でも、かばんちゃん一人だと…」


 サーバルにとってかばんと出会ってから片時もなく共に過ごしてきたため、そのかばん一人で黒かばんとの対峙の心配は当然だった。


「もう一度言うよサーバルちゃん、黒かばんは僕を指名したんだ」


 先ほどのかばんの声よりもはっきりとした声で言った。

 強めの声になったかばんにサーバルは驚いたがかばんの真剣な顔を見て確信した。相棒かばんちゃんなら―と。


「サーバルちゃんはこのバリア内にまだセルリアンがいるかもしれないからその対処を頼んでもいいかな?」


「分かった、じゃあ行ってくるね。かばんちゃん、絶対に―」


 サーバルはその先を何と言わんとしているのか分かったかばんはその続きを言わせたくなくて。


「もちろん!行ってらっしゃい!!」



 そのままサーバルは走って茂みの中に入っていった。




 …




『覚悟ハ決まりましたカ?』


「ああ、待たせたな…黒かばん。『ジャパリ・ランキング』“1位”――

“フレンズの到達点バトルマスター”のかばんです。ぶち会いたかった」



 かばんはもはや黒かばんよりもにっこりと余裕の笑みを浮かべていた…。




「……でしょうや」

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