基地襲撃 #5

 すぐさま基地内に警報が鳴り響く。だが、対空装備を失っている基地にできることは限られている。私は基地司令官と共に軽車両に飛び乗るとドライバーは待避壕たいひごうへと急ぐ。基地のゲートを抜ける際に司令官の表情を確認する。彼は表情こそ押し殺していたが目はせわしなく泳ぎ、姿勢よく座っているのも極度の緊張状態であるように見えてしまう。

 基地から離れて間もなく地響きのような音が聞こえ始める。おそらくこちらに接近する所属不明機のエンジン音だろう。音からして超音速で飛行可能なジェット機のものだ。機体によっては数分とかからず基地上空に到達するだろう。それは容易に想像できたのだが、すぐに基地から赤黒いナパーム弾特有の爆炎が上がったのには嫌な汗が全身から吹き出るのを自覚した。


「ドライバー!まだなのか!」

「橋を越えたらすぐです!」


 助手席に座る司令官補佐が叫ぶが、橋まではまだ距離がある。その間にも次々と基地でナパーム弾の爆炎が立ち上っていく。今は基地が狙われているが……

 轟音と共に基地を爆撃した機体が頭上を通過する。


「ファントム!?」


 頭上を通過した機体に驚きを隠せない。F4ファントムⅡ、アレは米軍製の機体だ。米軍のマークも機体にある。


「こちらは味方だぞ!誤爆している!」


 何が起こっているのか。救援のヘリ部隊が撃墜されたことで不明機はアメリカと対立する共産主義勢力の機体だと思い込んでいた。だが、現に米軍機が味方ヘリを撃墜したうえ米軍基地を爆撃している。まさか、極秘の基地ゆえに軍内部での情報伝達がうまく機能していない?あるいはこの基地を……


「そうか、亡霊ファントム!奴か!奴の仕業か!」突然、基地司令官が叫ぶ。

「亡霊?誰か心当たりが?」

「あるとも!奴ならば米軍の情報網に細工ができる。それで私たちを始末する気なんだ!」

「何者です?」

「生きた死体リビングデッドのような男だ。目玉が無事なのが不思議なくらいの顔だよ」


 その人物は顔を負傷している?「元軍人ですか?」という問いに対して司令官は否定する。


「違う。奴はアメリカ人ですらない」

「今なんと?」

「西側でも東側でもないんだ。そういう組織の一員だ」


 つまりはアメリカとソ連を結ぶパイプ役の裏切り?組織とは?


「世界的な諜報ネットワークだ。この基地はその組織の……」


 司令官の言葉が不意に途切れて車両前方に向き直る。前方を先行していた護衛車両が火だるまになりながら飛び上がっている。そして私たちの車両はそこに飛び込もうとしている。私は反射的に車から飛び降りたが、車両が爆発したのか体が派手に宙を舞い橋の上から放り出されて落ちてゆく。見ている風景とかつての思い出が脳内で同時に駆け巡っている気がする。これが走馬灯だろうか。

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