第16話 魔人の住処へ(前編)

 開拓の村に戻る。村では船に帰りの荷物を積む準備ができていた。

 中でも、目玉はヤシャシャの骨、血、肉だった。


 ミランダ村長が笑顔で貨物船を見送った。

「本国に成果を送れたわ。これで肩の荷が一つ下りたわ」


「よかったですね、ミランダ村長。俺も協力できて嬉しいよ」

 船が出た翌日には、出航した船が開拓の村に戻ってきた。


 ミラン村長から使いが来て村長宅に呼ばれた。

 ヒイロはパオネッタと共にミランダ村長の家に行く。


 ミランダ村長の家にはモモンがいた。

 ミランダ村長はヒイロとパオネッタをリビングに上げると、苦渋の表情で教えてくれた。


「船は襲われたわ。幽冥龍の素材が丸ごと盗むまれたわ」

「海賊はいないはずだけど、戻って来たのか? だとしたら問題だな」


「襲ったのは海賊じゃない。ボルベル族は魔人って呼んでいるわ」

(ほう、これはまた気になるキー・ワードだね。実績解除が絡むかな?)

「盗んだ奴は強いんだろう?」


 ミランダ村長が渋い顔で説明する。

「船員を全て眠らせて、荷物を持っていったわ」

「中々に手際が良いやつだな。頭もいいんだろうな」


 モモンが神妙な顔で説明する。

「実は魔人はこの大陸の北西部、つまりこの開拓の村の北側に住んでいると伝えられているっちゃ。でも、魔人の詳しい住み家は謎とされているっちゃ」


(来たね。これ実績の解除が関係しそうな仕事だよ。魔人の住み家の発見は実績にありそうだよ)


「ミランダ村長は魔人の住み家を見つけてヤシャシャの素材を取り返してほしい。そう頼むんですね?」


 ミランダ村長は弱った顔で依頼してきた。

「できれば素材の奪還をお願いしたいわ。でも、相手の実力も位置もわからないのでは、無闇に手を出すのは危険。とりあえず、魔人の住み家だけでも見つけてほしいの」


「いいでしょう。ヤシャシャは俺が倒したモンスター。その素材を横取りしようというなら、俺が動かねばならない」

「そう了承してくれると、助かるわ」


 酒場で地図を売っている男に村の北側の地図を売ってもらう。

 パオネッタと一緒に地図を見るが、魔人の住み家は記されていない。


「村から近い場所の地図はできつつあるか。でも、斥候からの報告はなしか」

 パオネッタが澄ました顔で意見する。

「もし、魔人が住む場所があるとしたら、海岸線沿いが怪しいわね」


「同意見だ。相手は船を襲っている、荷物を船で運ぶのなら、港が欲しいだろう。港があるなら海沿いだ。しかも船が襲われた翌日には船が戻って来ている」

「案外と近いところに魔人は住んでいるかもしれないわね」


「そうだ。もしかしたら、魔人は魔法で隠れつつ、この村を見張っているかもしれない」


 翌日、水と食料を準備して海岸線を北に移動する。

「魔人か。どんな奴なんだろう? 話が通じる奴であればいい。だが、話が通じる奴なら襲ってはこない気もするな」


 パオネッタが知的な顔で見解を述べる。

「話は通じるかどうかわからないけど、おそらく言葉は通じるわよ」

「なぜ、言葉が通じると思ったんだ? 言葉が通じれば襲ってはこないだろう」


「魔人の起源はこの大陸に住んでいた、かつての人間よ。もちろん魔道士のね」

「ボルベル族の都にも人間が住んでいた形跡があるから可能性はあるな。だが、それなら、どうしてこんな、隠れ住むような生活をするんだい? モモンたちの上に君臨すればいいだろう」


 パオネッタは冷静な顔で持論を語る。

「何かできない事情があるのか、したくないのか。それは、わからないわね」

「まあ、いいや。どのみち住み家がわかればお隣さんだ。親しくなって情報を聞こう。親しくなれれば、だけどね」


 一日半かけて海岸線を北に進むと、妙な霧が出てきた。

「これは、あれだな。魔法の霧だね。俺にだってわかるよ。モモンたちの都は森が隠していたが、魔人の住み家は霧が隠しているのか。パオネッタ、魔法を解けるか?」


「一時的になら、解けるかもしれないわ。やってみるわ」

 パオネッタが魔法を唱えようとした。


 その時、何かがパオネッタに急速に近づくのを察知した。

 ヒイロはアルテマ・ソードを出して、パオネッタに迫る何かを斬った。


 何かが砂地を転がる音がする。

「霧に魔物が隠れている。気を付けろ」


 ヒイロが警告を発すると、見えない魔物が今度はヒイロを襲ってきた。

 敵の攻撃を剣で正面から受け止める。ずしりと重い感触が、腕に伝わってきた。


 敵の顔が見えた。敵は全長二mほどの真っ白い豹だった。

 ヒイロが豹を蹴って、一度、間合いを拡げる。すかさず、剣の間合いで一撃を入れた。手応えがあった。踏み込んで追撃を入れようとした。


 すると、なぜか、パオネッタがそこにいた。ヒイロはパオネッタを偽者だと信じて、迷わずパオネッタを斬った。パオネッタから血煙の代わりに、霧を吹き上げ消えた。


 数秒の間を置いて霧の中からパオネッタの声がする。

「大丈夫、ヒイロ?」

「油断するな、敵は一頭とは限らない」


 ゆっくりと声のした方角に移動する。

 パオネッタの姿を確認するが剣は納めない、後ろも見せない。


 そのまま、一分ほど周囲を警戒するが、何事もなかった。

 二人で並んで歩いて、進んでいく。霧が晴れてきた。


 前方五百mに、小さな港を持つ石造りの建造物が見えた。

 建造物は、直径二百m、高さ二十m、円柱状でかなりの大きさがあった。

「塔にしては高さがない。小さな城か? それとも砦か?」


 パオネッタが目を細めて付け加える。

「何かを封印している施設か、研究所かもしれないわね」


 魔人の住処と思われる場所を発見した。だが、頭の中でファンファーレは鳴らなかった。


(これは、ここで何かをしないと実績解除にならないパターンだな。単純に魔人を倒せ、ならいいけど、交渉系かもしれないから油断はできない)

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