第14話 新大陸農家と害獣駆除

 新たな実績解除の情報は全然なかった。

 ヒイロは他の冒険者と一緒にバイソンを狩ってきて村に納める。


 ヒイロは村のために働いていた。狩りから帰ってくるたびに畑を確認する。

 家の小さな畑に植えた馬鹿豆は、ぐんぐん伸びていた


「さすが、馬鹿でも育てられる豆だ。どんどん育つな。これは収穫も近い。実績解除も近い」


 雑草を抜いているカルロッタが、手を休めて教えてくれた。

「うちの畑は、まだいいけど。他の畑は大変みたいね」

「新大陸では西大陸から持ってきた野菜や小麦が育たないのか?」


 カルロッタが冴えない顔で内情を語る。

「作物全般にいえる話だけど、育ちにくいそうよ。それだけじゃないわ。野兎の巣害が酷いのよ。畑中に巣穴を作って、やりたい放題よ」


「野兎ねえ。俺のいた村では、ご馳走だったな」

カルロッタは困ったものだと説明する。


「ミランダ村長も最初は重要な栄養源だったし、革は靴や手袋にできるから、問題にしていなかった。だけど、増えすぎて、さすがに頭が痛いと零していていたわ」


「うちの畑はどうして問題ないの? 村の中にあるからか?」

「モモンから聞いたけど、新大陸の兎は、馬鹿豆を食べないんだって」


「馬鹿豆は安全だからいいけど、野兎の異常繁殖は、捨てては置けないな」

 カルロッタとの話を終えて、家で食事をしていると、実績お婆さんがやって来た。


「実績お婆さんから会いに来るなんて、珍しいですね。どんな用件でしょう」

 実績お婆さんは、気のよさそうな顔で教えてくれた。


「食事時に、すまんね。実績解除に熱心なお前さんに、一つアドバイスをしに来た。お前さんの持つ隠された実績の中に、害獣駆除業者の実績があるぞ」


 大事な話なので、食事を横にやり、確認する。

「それはつまり、開拓の村を騒がせている野兎を退治すれば、実績が解除される、と?」


「可能性は高いじゃろうな。では、わしは必要な情報は教えたから、あとは好きにするといい」


(おや、珍しい。情報をタダでくれた。これは、ミランダ村長の差し金かな。でも、いいや。実績解除は優先事項だ。手の空いている時くらい、手伝ってやれ)


 パオネッタが家に帰ってきた時に、お願いする。

「増えすぎた野兎の駆除をすることにした。野兎を兎穴から追い出すための煙玉を作ってほしい」


 パオネッタは涼しい顔で請け合ってくれた。

「難しい品じゃないから、二日あれば、それなりの数ができるわよ」


「よろしく頼むよ。その間に俺は、弓の練習をしておく。弓なんて久しぶりに使う。でも、一日もあれば、勘は取り戻せるだろう」


 ヒイロはアルテマ・ボウを使い、弓の練習をする。アルテマ・ボウは、普通の弓より軽くて扱い易い弓だった。

 二日後、ヒイロは酒場に張ってある掲示を確認して、野兎駆除の仕事を引き受ける。


 狩った野兎の肉と皮は、好きにしてよかった。でも、報酬が格安だったので、やっても儲からなさそうな仕事だった。

 畑仕事は夜はやらないので、夜に駆除を実行する。ただ、巣穴を夜に探すと面倒になる。


 なので、駆除をしてほしい農家の人には、明るいうちに夜に光る棒を目印に立てておいてもらう。


 夜にパオネッタと農地に行くと、五十近い光る棒が立っていた。

「かなり巣穴があるな。これは、農地への被害も馬鹿にならないわけだ」


 パオネッタが、うんざり顔で意見する。

「さっさとやりましょう。でないと夜が明けるわ」


 パオネッタが巣穴に煙玉を入れ、ヒイロが顔を出した野兎をアルテマ・ボウで仕留める。

 最初は上手くいかなかった。だが、段々とコツがわかってくると、面白いように獲れた。


 結果、四十以上の野兎が獲れた。兎を台車に積んで肉屋に持って行き、売る。

野兎の代金を受け取ると、頭の中でファンファーレが鳴り響く。


「害獣駆除業者の実績が、解除されました。神殿で害獣駆除業者の称号を受け取ってください」


(実績お婆さんの暗示した通りに実績があったね。これで、四十三個目の実績解除だ。残り実績は六十五個か。最近は、さくさく実績が解除されるから気分がいい)


 実績お婆さんに称号を貰って、家に帰った。一週間ほど働いて馬鹿豆の収穫を行う。

 実績が絡むので、馬鹿豆の収穫は一人でやった。馬鹿豆を収穫していると頭の中でファンファーレが鳴った。


「新大陸農家の実績が解除されました。神殿で新大陸農家の称号を受け取ってください」

(よし、きた。実績解除は、あと六十四個)


 ヒイロが気分よく馬鹿豆を抜いていると、さらにファンファーレが鳴った。

「新大陸の薬草採取家の実績が解除されました。神殿で新大陸の薬草採取家の称号を受け取ってください」


(残りの実績は六十三個か。それにしても、馬鹿豆が薬草? 馬鹿豆は知られていないだけで、何か薬効があるのか)


 馬鹿豆をまじまじと見るが、大振りなインゲン豆にしか見えなかった。

「パオネッタ。馬鹿豆を収穫していたら、新大陸農家の実績の他に、薬草採取家の実績が解除された。馬鹿豆は単なる豆ではなく、薬草らしい。これ、ミランダ村長に教えてやれば、喜ぶな」


 パオネッタが鞘から豆を出して、しげしげと見る。

「馬鹿豆に薬効があるねえ。もし、そうなら、育て易いし、立派な輸出品になるわね」


 馬鹿豆を黒くなるまで炒ってから挽く。それに、お湯を掛けて成分を抽出した液体を作る。そうしてできた黒い液体には、滋養強壮効果があることがわかった。


 ヒイロは実績が解除されたので実績お婆さんに会いにいく。

 手土産には深炒りした馬鹿豆と砂糖を持っていった。


「お婆さん、今日は今、開拓の村で話題の炒った、馬鹿豆を持ってきました」

「毎度毎度、ありがたいね。どれ、称号の授与をしてやろう」


 頭がほのかに温かくなる。

「害獣駆除業者の称号は小さな動物に対して攻撃が当り易くなる効果があるね。新大陸農家の称号は植えた作物がよく実る効果がある。新大陸の薬草採取は薬草が見つかりやすくする称号だね。どれか、称号を装備していくかい?」


「称号はこのままでいいです。それで、次なる実績解除のヒントが欲しいのですが」

「私の眼には何も見えやしない。今は休息の時だね。しばし、開拓の村で休むといい。なに、そんなに時を待たずして冒険は動き出すさ」


(俺としては休んでいたくないんだけど、実績解除が発生する条件に、季節が絡むものがあるからなあ。待つしかないのかな)


 ヒイロは、しばらく村で大工仕事やかわなめしの仕事をする。だが、実績解除のファンファーレが聞こえることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る