第31話
※
「はい帽子被って、手袋も持った?」
「はい!」
「マフラーは?」
「キュムキュムが巻いてる!」
「暑くないのそれ。元々毛皮よその子」
「でも巻いてる!」
「はあ……いい、なるべく地球では危ない所に行かない事、メガには近付かない事、それだけは守ってね?」
「はい!」
「元気だけはあってよろしい……って靴が左右逆よ、アン」
「ホントだ! ママ直して!」
「じ・ぶ・ん・で・し・な・さ・い」
「あう。お鼻いたーい」
「でないと、一人旅なんて却下にするわよ」
「直します!」
「ん、よろしい。でもティラ、よく許したわね、アンの一人旅だなんて」
「俺達がどうにかした地球がどうなっているかも興味があるしな。それに、娘からの手紙も貰ってみたい。電話も受けてみたい」
「主に後ろ二つが動機ね。でもそうね、あの青い星がどうなったのかは、私も気になるわ」
「どうせ多少の怪我はナノマシンで回復できる。心配はしていないさ」
「その油断がいけません」
「あだっ」
「何も無いことを前提に考えてよ、もー。さあアン、今度こそ準備は出来た?」
「はい!」
「元気でよろしい。じゃあ、行ってらっしゃい。私達が助けた世界がどうなったか、見て来てね」
「はーい、パパ、ママ!」
子供が何を見聞きして帰って来るのかは楽しみだ。一応中継地点にニトイの家も入れたから、変態の様子見も出来る。何よりキュムキュムと言う力強いボディーガードがいるんだから、心配もいらないだろう。ティラの言った通りナノマシンもあるし。
現在の地球で主だった国は戦争をしていないから、TITの後継組織が育っていても問題はないだろう。月ではそう言う気配を感じたらプロトとファースト同時攻撃で沈めて行っている。まずはトーキョー。それからは自由だ。ホンコン、モンゴル、ロシア、ドイツ、私も行った事のない、地図でしか知らない場所にあの子は行く。そこで何を経験するかは楽しみに取っておこう。電話も手紙も良いけど、まずは無事に帰って来ることが条件。ただいまと言ってくれることが、絶対条件。
この春休みの長い長い遠足で、あの子は何を見付けるだろう。楽しむだろう。楽しみなのは私達の方なのかもしれない。親馬鹿上等よ。
それにしてもこの身体、本当にこれ以上育たないのかしら。ママ友に訝られたりしてるんだけど、なんか効果のあるアンチエイジングをネットで探した方が良い? 全然変わらないよね、と言われて、そんな事ないと返したり髪のくくり方を変えたりするのももう限界だ。アンのようにすくすく育ってよかったのに。胸もあんまりないし。ステちゃんよりはましだけど。
でも三人も産んでるステちゃんは、本当に恋愛大先輩だ。彼女には一生敵わないかもしれない。念願の女の子が生まれてやっぱりプロテイン飲ませようとしてアロに止められてるらしいけど。
「ママ、パパ、忘れ物!」
「なーに?」
「行って来ますのちゅう!」
「あらま。それは重大な忘れものね」
「行って来ます、ママ!」
「ん」
「行って来ます、パパ!」
「うむ」
「行こうキュムキュム! 取り敢えずアロおじさんのレストランから!」
「待ってそっち逆方向!」
子育ては長く続く模様です。
お父さん、お母さん。
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