第3話

「わたしが航空研究会の代表、寺村です。よろしくお願いします。では、航空研究会のガイダンスを始めます。」

 部屋の電気が消され、前のスクリーンには海辺のビーチとその中央に工事現場の足場が写ったような写真が映し出された。

「みなさん、この人力飛行機のコンテストはご存知でしょうか? 毎年、7月末に琵琶湖で開催され、9月頃にテレビで放映されているあの競技です。パイロットの名言がネットとかでも有名なんで、そういうイメージを持っている人もいるかもしれません。この競技は、このプラットホームから自作の人力飛行機を飛ばして、その飛距離を競う競技です。」

 代表がノートパソコンを触り、スライドが左右に一機ずつ飛行機が映っているページに変わった。

「この競技にはプロペラを漕いでまわすプロペラ機部門と、動力がない機体を飛ばす滑空機部門の二種類があります。我々が作製しているのは、この滑空機です。」

「次に、このサークルですが、今はメンバーはこの前に立っている五人しかいません。実は、このサークルは去年設立されたばかりのサークルです。」

 また、スライドが切り替わり、去年の七月から今年の七月までの予定が書かれたページになった。

「次に一年の流れ、といってもこれまでの設立からの活動内容と今後の予定について話します。このサークルができたのは、わたしと、パイロットの岸根、設計の前崎の三人が琵琶湖で人力飛行機のコンテストを偶然、観戦したからです。炎天下の琵琶湖で、みんなで作った飛行機が次々と飛んだり落ちたりする光景を目の当たりにして、部員が全力で喜んで、全力で泣く、そんな姿に憧れて、その日の夜にはサークルを作ることに決めました。その後、春馬と守富も加わって、今は五人で活動しています。」

「はじめてなので、機体の作り方もわからず、特に、毎年コンテストに参加して過去には優勝もしている、学生チームのQuailからいろいろ教えてもらって、スパーも譲ってもらったりして、製作を行っています。」

「これは知らない人が多いかもしれませんが、コンテストは二月から三月くらいに書類審査があって、書類や三面図つまり機体の図面を送って、実はその結果がつい先日届きました。」

 代表がA4の紙を上に掲げた。

「この紙が、その結果通知ですが、わたしたちは書類審査に合格しました! 今年、琵琶湖で飛べます!」

 これには、誰かが拍手し始め、最後には講義室の全員が拍手をした。

「今後の予定ですが、機体を六月までに製作して、グラウンドでテストフライトを行います。そして、七月末には、琵琶湖で機体を飛ばします。できたてホヤホヤのチームなんで、知識も技術もノウハウも少ないですが、やる気だけは負けないと思っています。みなさん、わたしたちと一緒に機体を作って、飛ばしましょう。」

「最後に質問がある人いますか?」

 質問があるかと言われても、みんな手を挙げて質問はしないものである。案の定、新入生は静かなままだ。正直、テストフライトって具体的にどんなふうにやるのかとか知りたかったが、質問はしなかった。

「いないみたいなんで、この後は一緒にご飯を食べてから、わたしたちの作業場を見学してもらいたいと思います。」

 

 風間は、カバンを持って立ち上がると、先に進んでいる先輩についていった。

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