第二十五話・12

 今のところ、香奈姉ちゃんとは今の関係性でいきたい。

 いくらお風呂場で僕とエッチなことをしてるからって、純粋に香奈姉ちゃんの愛情を感じているかといえば、ちょっと疑問に思うところがある。

 ひょっとしたら、一途な好意からではなく悪戯感覚でやっているのかもしれないし。

 どちらにしても、僕には香奈姉ちゃんくらいしか相手をしてくれる女の子がいないので、その辺りはまだなんとも言えない。


「ねぇ、弟くん」

「ん? どうかした? 香奈姉ちゃん」


 おそらく香奈姉ちゃんがシャワーを浴びているだろうと思われる最中に、僕に話しかけてくる。

 ちなみに僕は浴室の外の方にいて、ちょうどバスタオルを持ってきたタイミングだった。

 いつもこのタイミングで話しかけてくるのは、大体が一緒に入るようにとのお願いだ。たぶん。


「そんなところにいないでさ。一緒に入ろうよ」

「僕はバスタオルを持ってきただけで……。一緒に入ろうとは……」

「どうせ弟くんの分もあるんでしょ? だったら──」


 そう言って、香奈姉ちゃんは浴室のドアを開ける。

 タオルは頭に巻いているのだが、その下の方は全裸だ。

 大きいおっぱいも、下半身の大事な箇所も丸見えである。

 もう慣れてしまっているのか、香奈姉ちゃんは隠しもしない。

 それをまともに見てしまう僕は、眼福と言った方がいいだろう。

 花音だったらまずそんなことはしないし、万が一にもそんなことをしたら、間違いなく取り乱している。

 これはもう、姉としての余裕なのかどうかはわからないが、香奈姉ちゃんは隠そうとする素振りもない。

 むしろそれを誇張するかのような態度だ。


「…少しだけなら」


 それを断れない時点で僕の結論も出てしまっている。

 別にやましい行為をするわけではないから問題はないだろうと思うんだけど。

 ただ単純に、香奈姉ちゃんの背中を流すだけだ。

 邪な考えを持っちゃいけない。

 香奈姉ちゃんは、どう考えているのかわからないけど……。


「最近は、ずいぶんと素直だね。やっぱり私との時間は楽しいのかな?」


 そう訊いてくる香奈姉ちゃんは、なんだか嬉しそうな表情をしている。

 香奈姉ちゃんからのお誘いって、基本的に断りづらいからそう言ったんだけど。

 別にエッチなことをするとか、そういうつもりはまったくない。ホントに。


「香奈姉ちゃんと一緒にいられる時間は、とても大切だと思うからね。なるべくなら、一緒にいてあげたいんだ」

「そっか。そうだもんね。私たちと一緒にいられる時間は、もうあまりないんだもんね」

「うん。受験勉強が始まったら、香奈姉ちゃんとはあまり……」

「それならさ。久しぶりに仲良くしよっか?」

「いや……。それはさすがに……」

「やっぱりダメ? う~ん……。いい考えだと思うんだけどなぁ」


 やましい行為をするしないの考えからして、ダメなんだろうけど。

 香奈姉ちゃんには、健全という概念がないんだろうか。


「ただ普通に体を洗い流すだけなら、別に構わないんだけど……」

「ホントに? 私と洗いっこしてくれるの?」

「まぁ、背中だけならね」

「隅々まで洗ってくれるわけじゃないんだ……」

「それはさすがにできないよ」

「う~ん。残念……」


 香奈姉ちゃんは、本当に残念そうな表情を浮かべていた。

 そんな顔をされてもな。

 僕にも、できる事の限界っていうものがある。

 香奈姉ちゃんの体を隅々まで洗うのは、さすがに抵抗が──

 もしかしたら、香奈姉ちゃんの体を洗っているうちにとんでもない箇所を触っちゃったりしちゃうかもしれないし……。

 とにかく。

 間違いだけは、起こしちゃいけない。


「そんな顔しないでよ。香奈姉ちゃんの背中はちゃんと洗ってあげるから」

「私には、気を遣わなくてもいいのに」

「香奈姉ちゃんは、いつも隙だらけなんだから。ちょっとした事でも、僕をドキドキさせちゃうんだよ」

「ちょっとした事? それって──」


 香奈姉ちゃんは、思案げな表情で首を傾げる。

 どうやら本人は、まったくと言っていいほど自覚がなく、それどころかわからないらしい。

 お風呂に入るたびに何度もやっているというのに……。

 これは口で言っても理解するようなことではないから、余計にもどかしい気持ちになる。

 本人の解釈の違いなんだろうけど。


「いや、その……。わからないなら、別にいいんだ」


 僕は、香奈姉ちゃんから視線をそらす。

 意味ありげなことを言って困らせるのも、香奈姉ちゃんに悪いと思うからだ。

 香奈姉ちゃんは、納得がいかないのかムッとした表情になる。


「なによ? はっきり言いなさいよ」

「そんなこと言われても……。こればっかりは、なんとも……」

「言ってくれないと、また弟くんに抱きついちゃうぞ!」


 そう言って襲い掛かろうとする仕草をするのは、まるで説得力がない。

 お願いだから、せめて胸くらいは隠してほしい。

 僕は、反射的に香奈姉ちゃんから視線を逸らす。


「それだけは…やめてください」

「どうしよっかなぁ」


 やめるつもりなんてないんでしょ?

 そう言おうと思ったけど、僕の口からは出てこなかった。


「ホントにやめて……。シャレにならないから……」

「私としては、本気なんだけどなぁ」


 香奈姉ちゃんがそう言った途端に、僕は香奈姉ちゃんをチラリと見る。

 香奈姉ちゃんの目を見る限りでは、たしかに本気のようだ。それでも──

 やめてほしいことには変わりはない。


「気持ちはわかるけど……。ここはほら。シャワーを浴びてるんだし。ちゃんと抑えておかないと──」

「なにを抑えるの?」

「つまり、その……」


 僕は、言葉を詰まらせてしまう。

 これ以上は、なにも言い返せそうにない。

 なにか言わなきゃいけないんだけど……。

 このままだと、本当に抱きつかれてしまいそうだ。

 ましてや香奈姉ちゃんは、そういうことにはあまり頓着がないし。


「えいっ!」


 その心配は見事に的中し、僕は全裸の香奈姉ちゃんに抱きつかれてしまう。

 僕がまごまごしてるからいけないんだろうけど……。


「ちょっ。香奈姉ちゃん……」


 僕は、ついつい慌ててしまい香奈姉ちゃんの名前を呼んでいた。

 こんなことされたら着ている服が濡れ…ていうか自制心がもたない。

 香奈姉ちゃんの無頓着ぶりは相変わらずだな。

 僕の前だから、こんなことしてるのか。

 もしそうだったら、僕も気をつけないと……。ていうか、なにを気をつけたらいいんだ?


「弟くんは、本当に無防備なんだから……。気をつけないとダメだよ」

「………」


 それを全裸の香奈姉ちゃんが言っちゃいますか。

 人のことなんて言えないくせに……。

 だからといって、この状況をどうにかできそうにもないから、諦めてもいるんだけど。

 僕は、香奈姉ちゃんのおっぱいの柔らかさを改めて実感していた。

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