第二十話・12
事を済ませると私は、ゆっくりと起き上がった。
もう充分だ。
これ以上やったら、私の精神と身体が保ちそうにない。
あれだけ挿入と出すのを繰り返してやっていたら、先にイってもおかしくはない。
しかし──
楓は、物足りないような顔をしている。
私は、秘部に挿入されたままの楓の男根をゆっくりとだが引き抜いていく。引き抜かれていく瞬間にも、私の秘部は過敏に反応していた。その証拠に、体全身に電気が走ったかのような感覚に包まれる。
「んっ」
私は、今まで感じたことのない不思議な気持ちになり、頬は紅潮していた。
チラッと鏡を見たから間違いない。
そんな中でも私は、取り繕うような笑みを浮かべて訊いていた。
「どうだった? 満足した?」
「う、うん。満足したよ。それよりも、香奈姉ちゃんの方は大丈夫なの? 何回も声をあげていたけど……」
逆に楓は、心配そうな表情で私を見てくる。
「あー、うん。それはね。女の子には、色々あってね」
私は、微妙な表情でそう返す。
まさか性感帯を何回も突かれて、そのままイってたなんて、楓には説明できないしなぁ。
この場合は、ゴム有りでもあまり関係ない。
でも、エッチの最中に私の喘ぎ声をあれだけ聞いてたんなら、気づきそうなものなんだけど……。
「色々…かぁ。その割には、ずいぶんと──」
「ここで言ったら、ダメだよ。私だって、一人の女の子なんだから……」
「わかった。言わないでおくね。あんな無防備な状態の香奈姉ちゃんの事は、特にも人には言えないから」
「うん。お願いね」
私は、そう言って濡れた秘部の周りをティッシュで拭き取った後、いつもどおりにショーツを穿き始める。
水色の可愛いショーツだ。
そんなに無防備な姿を見せたかな?
私としては、普通だと思うんだけど。
奈緒ちゃんの時は、どうだったんだろう。
聞きたい気もするけど、楓はきっと言わないだろうな。
だけど──
負けるつもりはない。
「ねぇ、弟くん」
「何? 香奈姉ちゃん」
「今も、私のこと…好き?」
「突然どうしたの?」
楓は、訝しげな表情で私の顔を覗き込んでくる。
なんのことはない。
ちょっと訊いてみただけだ。深い意味はないんだけど。
「ん? ちょっと訊いてみただけ。どうなの? 楓は、私のこと好きなの?」
「嫌いなわけがないよ。──大好きだよ」
「なんか義務的に答えてない?」
私は、ムッとした表情でそう言っていた。
言うまでもなく楓は、慌てた様子で
「そんなことは……。香奈姉ちゃんの事は『お姉ちゃん』としても、もちろん『恋人』としても好きだよ」
そう言う。
とても嬉しい言葉ではあるんだけど。
なんだろう。
もう一声足りないような。
「そっか。でも……。こういう時は、それに適した言葉ってものがあるんじゃないかな」
「それに適した言葉…か」
「うん。弟くんなら、わかってるんじゃないかな?」
「僕なら、か……。なんとなくわかるような気もするけど……。それを言葉にするのは、恥ずかしいというか……」
楓は、言おうかどうか迷っているみたいだった。
私の顔をちらちらと見ては視線を逸らすというのを、何回も繰り返している。
まるで恥ずかしがり屋の女の子を見てるみたいだ。
そんなに恥ずかしいことなのかな。
簡単な言葉なような気もするんだけど……。
「そっか。私は、弟くんのことをちゃんと想ってるんだけどな。弟くんはどうなの?」
「僕は……」
楓は、私の手をギュッと握ってきて、何かを言おうと口を開く。しかし、何を思ったのか途中で口を閉ざす。
はっきりと言うことはできないみたいだ。
私は、楓に勇気を与えようと思って、楓の手を握り返す。
「ゆっくりでいいよ。私、ちゃんと聞いててあげるから」
「香奈姉ちゃん……」
楓が何を言うつもりなのかは、私にもわからない。
でも、なぜか楓の言葉を期待しちゃう私がいる。
「僕は、香奈姉ちゃんの事を……」
「私の事を…何かな?」
ドキドキしながら、楓の言葉を待つ。
こんな大事なことを言う瞬間は、今をおいて他にない。
楓は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして私を見る。
「『愛してる』よ。香奈姉ちゃん」
「うん。私も、『愛してる』から。安心してね」
私は、嬉しさのあまり涙が出てきてしまった。
バレンタインデーに告白されるのは、単純に嬉しいものである。
そういえば、楓は何人の女の子からチョコレートを貰ったんだろう。
単純に数えるだけでも複数人から貰っている可能性が高いけど。
「ねぇ、弟くん」
「ん? どうしたの?」
「今回は、何人の女の子からチョコレートを貰ったの?」
「それを訊いちゃいますか……」
楓は、言いにくさそうに表情をひきつらせる。
簡単な質問のつもりだったけど、楓にとってはそうではないらしい。
「言いにくい事なの?」
「そんなことはないけど……。香奈姉ちゃんに、それを言うのもさ……。なんというか……」
「ちなみに私は、弟くんにしかチョコレートを渡してないよ」
「そうなんだ」
「うん!」
さすがに本命チョコは、一人にしか渡さないだろうし。
もしかして楓は、何人かの女の子から告白されてたりするのかな?
もしそうだったりしたら、部屋に誘って正解だったかも。
楓とエッチなことができるのも、私がお姉ちゃん的な存在だからだろうし。
「それで? 何人からチョコレートを貰ったの? お姉ちゃんに正直に言いなさい」
私は、そう言って楓に詰め寄っていく。
「あの……。えっと……」
楓は、それでも言いたくないのか、私から視線を逸らす。
そんなに言いたくないものなのかな。
簡単な質問をしたつもりだったのに。
「難しい質問だった?」
「そんな事は…ないけど……」
「だったら、答えられるよね」
「香奈姉ちゃんが怒らなければ……。答えられるかな」
「私、そんなに怒ってる?」
「うん……。背後に『鬼』が見えてるような……」
「ふ~ん。弟くんには、そんなものが見えてるんだ。…なるほどねぇ」
私は、あくまでも笑顔で楓にそう言っていた。
怒っているように見えてるのなら心外だ。
「誤解しないでね。香奈姉ちゃんが、『鬼』みたいだなんて一言も言ってないから」
「そっかぁ。私が『鬼』みたいに見えてるんだ~。なるほどねぇ」
「それは……」
楓は、これ以上は何も言わなかった。
言えなかったといった方がいいのかもしれない。
そんなこと言われたら、ホントに怒っちゃうんだから。
どう見たら、私が『鬼』に見えるんだろう。
せめて『天女様』とか、そんな風に呼んでくれたら嬉しいのにな……。
「まぁ、何に見えてもいいんだけどさ。せめて『良いお姉ちゃん』にしてほしいな……」
「香奈姉ちゃんは、僕の『お姉ちゃん』みたいな存在だよ。頭が上がらないし──」
「そういえば、私のことを『香奈』って呼んでって言っても、『香奈姉ちゃん』だもんね。これはもう無理なのかな」
「香奈姉ちゃんこそ。僕のことを『弟くん』って呼んでるじゃないか」
「そうだね。これじゃ、『前』の時と変わらないね。変なの」
そういう私も、いつの間にか『弟くん』と呼んでいるし……。
こういうのって、恋人同士になったからって、変わらないみたいだ。
「ちなみに、貰ったチョコの個数はファンの人たちの分もあるから少なくとも5つ以上だよ。誰からなのかは、香奈姉ちゃんにもわかると思うけど」
「うん。なんとなくわかる」
私は、納得して頷いていた。
私を含めたバンドメンバー4人と古賀千聖ちゃんだろう。
まぁ、ファンの人たちから貰ったのはたしかだから、5つ以上にはなるだろうけど。
あれ?
そうなると──
「花音からは? 貰ったの?」
「いや。花音からは、まだ……」
「そっか。花音ったらまだ……。渡す気あるのかな?」
「もしかして、渡す相手が僕じゃないのかも……」
「そうなのかな。私にはよくわからないけど、花音は弟くんのために一生懸命チョコレートを作ってた気がしたけど……」
「そうなの?」
「そうだよ。あの時、私も一緒に作ったから間違いないかと」
「香奈姉ちゃんがそう言うんだったら、間違いないんだろうけど。花音からはまだ何もないから、待っていれば貰えるのかな?」
楓は、何やら嬉しそうだ。
私は、ムッとした表情になり口を開く。
「ひょっとして花音からのチョコレートに期待していたりする?」
「そういうわけじゃないんだけど……。実は僕の方から花音に渡したかったりするんだよね」
「弟くんから? 普通、逆じゃない?」
「うん。わかってはいるんだけど……」
バレンタインデーの日に、男の子が女の子にチョコレートを渡すシチュエーションは、あまり想像できない。
あるとするなら、それは特別な女性に対する好意の証だ。
楓はどうなんだろう?
花音のこと、好きなのかな……。
どうやら楓は、花音の分のチョコレートも作っていたみたいだし。
どこまで人が良いんだか。
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