第十八話・9

 美沙先輩とのデートが終わり、無事に家に帰ってくると、いつもどおりと言うべきか香奈姉ちゃんが出迎えてくれた。


「おかえり、楓。美沙ちゃんとのデートはどうだった?」


 家に帰ってきての香奈姉ちゃんの第一声がそれである。


「それは、その……」


 僕は、返答に困ってしまい口元を引き結んでしまう。

 こんな時、なんて答えればいいのかわからないんだけど。

 香奈姉ちゃんは、そんな僕の態度を見て、軽くため息を吐き、口を開く。


「そんなに悩むことなの? 女の子とのデートは、例え楽しくなかったとしても『楽しかった』って言うものなんだよ」

「いや、楽しくなかったって事はないんだけど……」

「それなら、いいんじゃないかな。美沙ちゃんも、楓とデートができて嬉しかったと思うよ」

「そうかな? 僕なんかとデートしたって、きっとつまんなかったに決まってるよ」


 僕は、不安そうな表情で香奈姉ちゃんを見る。

 ホントに、嬉しかったんだろうか。

 僕とのデートなんて、きっと──。

 香奈姉ちゃんは、僕の口元に指を添えて言う。


「そんなことないよ。私は、楓のそういうところが好きになったんだから、美沙ちゃんにだって、その辺りのことはちゃんとわかっているはずだよ」

「そういうところって?」

「楓は気にしなくてもいいことだよ。私たちが、ちゃんとわかっているからいいの」

「………」


 僕は、釈然としない表情で香奈姉ちゃんを見る。

 香奈姉ちゃんたちがわかっていても、僕がわからないんじゃ意味がないような気がするんだけど。

 どうなんだろう。

 すると香奈姉ちゃんは、大人びたような笑みを浮かべて言った。


「そんな顔しないの。楓には、まだやる事があるんだから」

「やる事? そっか。美沙先輩にお礼のメールを送らないと──」


 僕は、さっそくスマホを出して、メールを打ち始める。

 とりあえず、お礼は言っておかないと。

 香奈姉ちゃんは、なぜかムッとした表情を浮かべて僕を見てくる。


「違うでしょ。私と一緒にお風呂に入るんだよ」

「え……。また香奈姉ちゃんと……」


 僕は、つい表情を引き攣らせてしまう。


「何よ、その嫌そうな顔は? そんなに私と一緒にお風呂に入るのは、嫌なの?」

「嫌じゃないけど……。香奈姉ちゃんの体をお触りするのは、ちょっと……」

「そんなの、姉弟のちょっとしたスキンシップじゃない。私は、大丈夫だからいいのよ」

「でも……」

「とにかく。楓に拒否権はないんだから、はやく入ろう」


 香奈姉ちゃんは、僕の腕を掴んでそのまま浴室へと引っ張っていく。


「うぅ……」


 こんな声をあげても、たぶん香奈姉ちゃんには聞こえていないんだろうな。

 問答無用で浴室に入る。

 香奈姉ちゃんがお風呂を沸かしてくれたのか、手前の部屋の中は温かい。

 香奈姉ちゃんは、部屋に入るなりドアを閉めてすぐに服を脱ぎ始めた。


「何してるの? 楓もはやく脱ぎなさいよ」


 呆然としている僕に香奈姉ちゃんはそう言ってくる。

 下着姿の香奈姉ちゃんを見るのは、罪悪感が……。今回は、水色だ。


「う、うん……」


 じっとしていてもしょうがないか。

 僕は、あきらめて服を脱ぎ始める。

 今日は意外と寒かったから、正直、お風呂はありがたいな。


 入浴中、香奈姉ちゃんは、いつもどおりというべきか僕に寄り添ってくる。

 香奈姉ちゃんにとって、僕とのこの時間はしあわせのひと時なんだろうな。

 香奈姉ちゃんは、僕の手を取ると、そのまま自身の胸元に当てがわせる。

 普通に柔らかくて気持ちいい感触だ。

 両手ともそんな感触だと、ついにぎにぎとしてしまいそうでもある。

 いいのかな?

 香奈姉ちゃんは、何も言わないし。

 それにしたって──。

 兄には、絶対にしない行為だ。それ以前に、一緒にお風呂に入るって事自体しないだろう。


「ねぇ、楓」

「何? 香奈姉ちゃん」

「美沙ちゃんだけど……。キスとかはしてきたの?」

「え、いや……。キスは、してきてはいないよ」


 いきなり何の話だろうと思ったけど、すぐにピンときた。

 おそらく、美沙先輩とのデート中にしてきたことを聞きたいらしい。

 はっきり言うが、美沙先輩が僕にキスをしてきた事はない。


「それじゃ、ハグとかは? それくらいは、してきたでしょ?」

「いや。それも特には……」

「ホントに? あの美沙ちゃんが、何もしなかったっていうのは、それこそ眉唾物なんだけど」


 ハグとかは、どうだろう。

 僕の腕にしがみついてきたのはたしかだけど、それをハグって言うには、ちょっと違う気もするし。

 それよりも、香奈姉ちゃんが僕に対してやってる事が気になるんだけど。

 僕の大事な箇所に、香奈姉ちゃんのお尻が当たってるんだが……。

 本人は、自覚があるんだろうか。

 しかし、それを僕から言うことはない。

 あくまでも、平静を装う。


「でも事実、何もしてこなかったわけだし。香奈姉ちゃんが気にすることはないんじゃないかな」

「そっか。美沙ちゃんが何もしてこなかったのなら、それはそれで良かったのかもしれない」


 香奈姉ちゃんは、そう言ってさらに体をすり寄せてくる。

 もう密着してるので、これ以上は抱きしめてしまうような距離感だ。


「どう? 私の体の感触…気持ちいいかな?」

「う、うん。気持ちいいよ」


 僕は、平常心でそう答える。

 取り乱してしまったら、香奈姉ちゃんになんて言われるかわからないからだ。

 もしかしたら、ひやかされてしまうかもしれないし。


「もしかして、緊張してるのかな?」

「そんなことは──」


 僕が何かを言いかけたところで、香奈姉ちゃんは僕の大事な箇所を優しく握る。

 しかもデリケートな箇所なのがわかっているのか、撫でくりまわすように触ってきた。


「うっ……」


 僕は、あまりのことに声をあげてしまう。


「楓の大事なあそこはとっても素直みたいだけど。そんなことなかったりするの?」

「あの……。それは……」


 お願いだから香奈姉ちゃんのその綺麗な手で、そんな粗末なものを握るのはやめてほしい。

 気持ちよくて、勃起しそうだ。

 たしかに一度は、香奈姉ちゃんの大事な箇所の中に入ったものだけど。

 二度目はさすがに、あるかどうかもわからないんだし。


「そっか。もう一回、やってみればわかるかもしれないよね」

「え……。それって?」

「何よ。私を焦らしているの? それとも、もう私とはセックスはできないって事なの?」

「そんなことはない…けど……。さすがにセックスは……」

「大丈夫だよ。私は、我慢強いタイプだから。ちょっとしたことには、耐えられるよ」


 香奈姉ちゃんは、頬を赤く染めてそう言ってきた。

 僕の大事な箇所を意図的に勃起させて、そのままセックスする流れにしてしまうのは、香奈姉ちゃんの常套手段なんだろう。

 それに、お風呂場だとお互いに裸だから気兼ねなくできそうだし。

 いいのかな?

 ゴムも無しでセックスするっていうのは、さすがに……。


「でも中での射精は、やめてね。さすがに子供ができちゃうのはまずいから……」

「セックス中に、その調整はできないかも……。せめてゴムがあれば──」

「ゴムか……。さすがにお風呂場には、持ってきてないなぁ」

「それじゃ、今回は──」

「はっきり言っておくけど、やらないっていう選択肢はないからね。一緒にお風呂に入っている以上、ちゃんと覚悟を決めてね」

「僕に拒否権は?」

「拒否権ねぇ。さっきも言ったけど、基本的にはないかな」

「そんな……。香奈姉ちゃんは、僕のお姉ちゃん的な存在なんだし、セックス以外のことをしてくれると嬉しいかも……」

「セックス以外のこと…か。う~ん……。なんだろう。特に思いつかないな」


 香奈姉ちゃんは、あきらめなさいと言うような態度で僕に迫ってくる。

 まずい。

 お風呂場でセックスするのは、色んな意味でまずい。

 たしかに、僕の部屋でするよりかは比較的安心なのかもしれないけれど。途中で兄や花音が入ってきたらどうするつもりなんだろうか。

 そのリスクは、お風呂場でも変わらないと思う。


「それじゃ、お風呂から上がってからでも、勉強を──」

「勉強ねぇ。教えてあげてもいいけど、お姉ちゃんとしてはちゃんとしたご褒美がほしいな」


 香奈姉ちゃんは、上目遣いで僕のことを見てきた。

 ご褒美って、やっぱりセックスになるのか。

 それにしたって──。

 香奈姉ちゃんのその仕草は反則だよ。


「わ、わかったよ。ご褒美は考えておくよ」

「約束だよ。破ったら承知しないからね」


 とりあえず、香奈姉ちゃんとの過度なスキンシップは避けることができたから、その辺は良しとしておこう。

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