第十五話・2
ある日の休日。
私の部屋に遊びに来ていた奈緒ちゃんは、何を思ったのか急にこんなことを私に言い始めた。
「ねぇ、香奈。楓君とは、どこまでやったの?」
そう言われても、要領を得ない。
やったって、何?
楓と何をやるのかな?
私は、思案げに首を傾げる。
「やったって、何が? 質問の内容がよくわからないんだけど」
「それじゃ、ハッキリ言うね。楓君とは、セックスはしたの?」
「セセセ…セックスって……⁉︎ それは……」
いきなりそんなことを訊かれてしまい、私は取り乱してしまう。
たぶん、顔は真っ赤だったと思う。
やったって、セックスのことだったのか。
全然知らなかった。
たしかに楓とセックスはしたけど、おもてにはバレないようにしたはずだ。
なのに、何故?
私が取り乱した様子を見た奈緒ちゃんは、『やっぱり』と言わんばかりに軽くため息を吐く。
「そうだよね。幼馴染だから、裸のお付き合いくらい普通にするよね」
「そうかな? お互いに大きくなったら、しなくなると思うんだけど」
お風呂とかでも、大きくなったらなかなか一緒には入らないと思うし。
「いやいや。好きな人となら普通にできるでしょ」
──いや。
いくら幼馴染でも、裸のお付き合いはしないと思うけどな。
お互いに好き同士だからできたんであって、好きじゃなかったらセックスなんてできないと思う。
「うん。まぁ、好きな人となら、できるとは思うけど。私は──」
「香奈は、やったんだよね? セックスを」
奈緒ちゃんは、真顔でそう訊いてくる。
「それは……。やったというべきか、やらなかったというべきか……」
私は、奈緒ちゃんの顔を見ることができずに、思わず視線を逸らす。
そんなこと、ハッキリとは言えないよ。
それで奈緒ちゃんは、何かを察したんだと思う。
フッと笑みを浮かべて言った。
「それなら、あたしも楓君と裸のお付き合いをしてみようかな。楓君なら、断りはしないと思うし」
「だ、ダメだよ! 楓は、私の──」
「わかってるって。香奈の恋人なんでしょ。香奈は、必死で可愛いな」
「っ……⁉︎」
冗談だったのか。
それにしたって、怒る気になれないのはどうしてだろう。
むしろ、楓のことを想っている奈緒ちゃんに申し訳ない気持ちになってる私って一体──。
「でも、キスくらいは許してね。あたしも、楓のことが好きなんだからさ」
「奈緒ちゃんの『好き』って、恋愛の対象としての好きっていうことなの?」
「さぁ。どっちだろうね」
奈緒ちゃんは、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
その笑みを見て、私は顔をしかめていた。
なんだか奈緒ちゃん。とても楽しそうだ。
あわよくば、私から楓を奪うつもりなのかな。
だとしたら、油断はできないぞ。
私も、もっと積極的に楓にアプローチしなきゃいけないな。
私の家にいても退屈なので楓の家にやってくると、楓はちょうど台所で夕飯の支度をしていた。
この香ばしい匂いから察するに、今日はカレーライスだな。
「やぁ、楓。今日の夕飯は、カレーライスかな?」
「うん。久しぶりにカレーを食べたいなって思ってさ」
「そうなんだ」
「香奈姉ちゃんも、食べていくでしょ?」
楓は、そう訊いてくる。
「うん。もちろん!」
私は、そう即答していた。
楓の作る料理はどれも絶品なので、食べないという選択肢はない。
楓は、微笑を浮かべて言う。
「香奈姉ちゃんがそう言うと思って、少し多めに作ったんだよね」
たぶんそれは、花音の分も含まれていると思う。
ちなみに奈緒ちゃんは、途中で帰ってしまったのでもういない。
ホントに私の家に来て、何をするでもなく帰っていったのだ。
「そっか。それは楽しみだなぁ」
「奈緒さんも、来ればよかったのにね」
楓は、微笑を浮かべてそう言った。
どうやら奈緒ちゃんが来ていた事は、楓にもわかっていたようだ。
だから多めに作ったんだな。少し納得。
「奈緒ちゃんは練習があるって言ってたから、たぶん無理じゃないかな」
「バンドの練習なら、いつもの別室で一緒にできるのに。…ちょっと残念だな」
「楓と一緒だと、集中できないみたいだよ」
「そっか。それなら、仕方ないね」
楓は、少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。
詳しい理由とか、聞かないんだ。
まぁ、そこが楓らしいと言われれば、そうなんだけど。
そんな顔をされたら、逆に心配になっちゃうよ。
「私がいるのに、寂しいのかな?」
「いや。寂しくはないけど、奈緒さんがいないと…ね」
「まぁ、楓の場合は、奈緒ちゃんがいないと練習にならないからね。気持ちはわかるよ」
そう言う私も、奈緒ちゃんの姿を見てないと落ち着いて歌えないし。
やっぱり、ギター担当って色んな意味で重要なんだな。
「…さて、そろそろカレーも出来上がる頃合いだし。みんなで食べようか?」
「みんなって、花音や隆一さんはここにいるの?」
「兄貴は、外に出てるからいないよ。花音は、呼べば来ると思う」
楓は、そう言ってズボンのポケットの中からスマホを取り出した。
どうやら、花音に連絡するつもりらしい。
せっかく二人きりになれたのに。
楓ったら、全然わかってくれないんだから。
私は、楓を引き止めようと思い、すぐに口を開いた。
「花音は忙しいと思うし。私たちだけで、先に食べてようよ」
「花音が、何か言ってたの?」
楓は、思案げな表情で私の方を見てくる。
花音は何も言ってないけど。
花音にも、友達付き合いくらいはあるんじゃないのかな。
「花音からは、何も言ってきてないよ。夕方だし、お腹が空いたら帰ってくるとは思うけど」
「だったら、僕の家に呼ぼう。香奈姉ちゃんもいる事だし、ちょうどいい──」
「そ、そうだね」
私は、相槌をうつ。
やっぱり、私の気持ちなんてちっとも考えてないよね。
楓は、さっそく電話をし始めた。
そういえば、いつ花音の連絡先を知ったんだろうか。
花音が教えてくれたのは、たしかなんだろうけど。
まぁ、私にはどうでもいいことだ。
妹の連絡先は、私も知っているから。
花音がやってきたのは、それからしばらく経った後のことだった。
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