第二話 二日目


「ねぇユウキ?」

「なに?」


 班ごとに部屋に入っている。

 もう、夕ご飯も食べて、夜のリクリエーションも終わって、各班に割り当てられている部屋の一室だ。


 9時を少し回った位の時間だが、朝早い時間に集合して、慣れない山歩き。疲れて寝てしまう子が出ても不思議ではない。


 この部屋に居るタクミ。ユウキ。唯。鳴海。晴海の5名も疲れて寝てしまっている者も居る。起きているのは、元気いっぱいなユウキと慣れない場所で寝られない唯だ。


「ユウキのパパとママは、私のパパと同級生だよね?」

「うん。タクミの克己パパも同級生だよ?なんで?」


 唯は3月生まれで、同級生の中でも幼く見られている。

 ユウキから見たら、唯は同級生というよりも近所の妹という感じがしている。


「あのね。ママからね。タクミくんとユウキと一緒に居るように言われたの?」

「そうなの?」

「うん。パパもユウキと必ず一緒に居ろって言っていたよ」

「へぇそうなの?なんでかな?」

「うーん。パパがね。マホやナユタが絡んでいるのなら、カツミとサクラの子供なら安心できるって言っていたよ」

「へぇ今度、パパか克己パパに聞いてみるよ」

「うん!」


”うぅーん”


 晴海が寝返りをした時。声が少しだけ漏れ聞こえた。

 二人は、それを合図にして、話を止めて目をつぶる事にした。


「(パパとママも、タクミから離れるなと言っていたけど・・・なんでかな?)」


 明日は、肝試しがある。

 ユウキは、タクミが一緒なので、それほど怖くはならないと思っている。唯は、ユウキとタクミが一緒なので言うほど怖いとは思っていない。


 翌朝は、7時に起床して、全員で食事を摂ってから、オリエンテーションを行う事になっている。

 先生方が隠した宝物を班で見つけるという物だ。


 8班あり、宝物も8個用意している。

 班別にヒントも違うので、必ず一個ずつは宝物を見つける事ができるのだ。


 そして、宝物を見つけた順番に、肝試しの順番を選べる事になっている。


 この仕組を先生に提案したのは、当時4年生だった安城あんじょう幸宏ゆきひろ井原いはら聡子さとこなのだ。それから、先生方も楽なので、伝統という名前で引き継ぎが行われている。

 サクラたちがキャンプを行った時代は、地域は3つに割れていた。海の近くに住む者たち、新興住宅地に住む者たち、山に住む者たちだ。海の者たちは、どうでもいいと思っていた事だったが、山の者と新興住宅の者が親を巻き込んだ騒動に発展していた。

 そのために、子供同士も喧嘩まではしていないが、それとなく距離ができる状態になっていた。そのために、肝試しの順番を決めるのも喧々諤々の状態でなかなか決まらなかった。

 そこで、サクラとシンイチとカツミ悪知恵が働く悪ガキが考えて、当時委員長だった安城あんじょう幸宏ゆきひろ井原いはら聡子さとこに先生に進言させたのだ。この方法なら、先生方が調整する事なく自主的に順番が決められる。そして、宝物を探すというオリエンテーションが一つ行える事になる。


 朝食は、先生方が用意した朝食ですます事になっている。

 班ごとに決められた数のパンやおにぎりが配られるので、あとは班ごとで調整しなさいという事だ。これもいつの間にか始まった伝統だ。学校行事なら、給食センターや地域の協力を得られるのだが、自主参加のイベントなので、先生方が準備をしなければならない。そのために、面倒になった先生がスーパーでまとめて買ってきて、適当に配ったのが最初だと言われている。

 できるだけ同じ種類のパンを用意するのだが、好き嫌いが有る。他にも、食べられない物が有ったりするので、パンだけではなくおにぎりが含まれるようになった。あとは、個々人が持ってきた物も朝食では食べていいことになっている。


 10時から宝探しが行われる。

 宝探しのルールは至ってシンプルだ。先生が隠した宝箱を見つけるだけ、最初に配られたヒントを手がかりに、2時間かけて宝箱を探すのだ。

 見つからない事も考慮されて、最後の30分になっても見つからない場合には、先生が一緒に探しながらヒントをだす事になっている。


「ユウキ!タクミ!ヒントもらってきた」


 晴海が先生の所からヒントを選んでもらってきた。

 宝物はランダムになっている。ヒントは全部で4つあって、最初のヒントをもらってから、20分以降に先生から次のヒントが渡される。更に20分後に3つ目のヒントがもらえて、1時間が経過したら4つ目のヒントがもらえる。


 ほとんどの班が3つ目のヒントを貰った辺りで宝物に近づく事ができる。

 1時間前後で宝物が発見できる。


 晴海が選んで持ってきた紙には次のようなヒントが書かれていた。


”多くの花が集まっている場所に有る”


 鳴海が、晴海からヒントをひったくって中身を確認した。

 それを、タクミに渡してきた。


「タクミ。何かわかる?」


 タクミは、少し考えたが、少し範囲が広すぎると考えて首を横にふる。


「わかった!」


 横から覗いたユウキが大きな声を上げる。


「ユウキ。判ったの?!」

「うん。だって、花が沢山ある場所は、花壇だよ!間違いない!」


 ユウキに問いかけた唯を筆頭に皆が微妙な顔をする。


「ユウキ・・・。あのね。キャンプ場に花壇は無いよ?小学校まで戻るの?」

「え?嘘?タクミ。花壇あるよね?」

「ユウキ・・・探してみればわかるけど、花壇は無いよ。そもそも、誰も管理していないと思うから、”多くの花が集まっている”には当てはまらないよ」

「うぅぅぅ。おかしいな。それじゃどこ?早くしないと・・・。順番がぁ・・・」


 タクミは大きく息を吐き出した。


「ユウキ。慌てなくてもいいよ。それに、順番は、早く見つけた班から決める事ができるだけで、最後だから、最初ってわけじゃないから大丈夫だよ」

「わかっているよ。わかっているけど、嫌なの!負けるのが”い・や・な・の!”」


 なんとも理不尽な事をいい出したユウキを唯に任せて、タクミは晴海とヒントを見つめている。


 なんとも言えないヒントだが、花が沢山あるという表現から、花壇や花畑をイメージするが、桜の木の下とか、梅の木の下とかも条件としては一致する。

 表現を変えれば、”沢山の花を付けた木の下”という事が言えるのではないか?


 タクミと晴海はそう考えたが、今度は別の問題が立ちはだかる。


「なぁ僕もそれで間違っていないと思うけど、それだけ探す範囲が広くないか?」

「そうだよな。山頂に続く道には桜の木が植えられているし、キャンプ場には梅と牡丹だろう」

「入り口には躑躅もあったぞ」


 タクミと晴海は考え込んでしまった。


 別にこれはタクミたちが劣っているわけではない。

 他の班が引いたヒントも同じような物なのだ。先生方も知恵を絞っている。最初のヒントでは絞るのは難しいようになっている。2つ目のヒントは授業で教えた事が思い出せれば、答えにたどり着けるようになっている。

 3つ目のヒントは具体的な場所が書かれていて、4つ目は地図が入っているようになっている。


「ハルちゃん」「僕は、男だ!”ちゃん”はやめろ!」


 晴海はユウキの問いかけに食い気味に反論した。


「はい。はい。それで、ハルちゃん」


 ユウキは、改める気が無いことがわかる返事をする。


「はぁ・・・それで?なに?」


 晴海も、ユウキと付き合いが長い。ユウキの性格も把握出来ている。


「うん。ツツジでもいいのなら、紫陽花でも同じだよね?」

「!!」


 ユウキに指摘されて、タクミと晴海は何かを感じたようだ。


 確かに、ツツジは沢山の花を付けるが、”多くの花が集まって”と言われると違うような気がする。


「紫陽花か!」

「紫陽花だな!」

「え?え?」


「ユウキ!紫陽花なんてどこで見た?俺は見てないぞ?」

「うん。なんだっけ?あの・・・あ!!仏舎利塔の掃除をしている時に見かけたよ?」

「花が咲いていなくてよくわかったな」

「うん。沙菜ママが教えてくれたから覚えていた」

「母さんが?」

「うん。パパと克己パパとママと友達の思い出の花だって教えてくれたよ」

「・・・。そうか・・・」


 タクミは、その話を聞いた事がなかった。

 ユウキが知っていたのに少しだけ複雑な気持ちになっていた。嫉妬と呼ぶには小さな気持ちだ。


「ねぇでも、紫陽花は、大きな花だよね?確かにいっぱい咲くけど、ツツジの方が花は多くない?」

「唯。違う。紫陽花は、小さい花が沢山集まって、大きな花に見えているだけだ・・・。だよな?」


 晴海は少し自信がなくなって、タクミや鳴海の方を向いた。

 うなずいてくれたので間違いではないと思う事にしたようだ。


”20分経過”


 キャンプ場から放送が聞こえてくる。

 話し合っている間に、20分が経過してしまったようだ。


「どうする?」

「え?なに?」


 タクミの問いかけに、ユウキが答えるが、唯も晴海も鳴海も同じで、タクミが何を言っているのかわからないようだ。


「20分経ったから、次のヒントがもらえるけどどうする?」

「紫陽花の所を見てから、違ったら次のヒントを貰おうよ!」


 ユウキの提案が採用された。

 そして、ユウキが見たという紫陽花の所に急いだ。

 紫陽花の根本に、宝箱を発見した。タクミたちは、先生の所に戻って宝箱を渡すのであった。


 ユウキが望んだ通りに、一番になれた事で、タクミは少しだけ喜んだのだった。


 ユウキは、先生に宝箱を渡しながら、叫んだ。

「先生!先生!ユウキね!肝試しは、最後がいい!」

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