言ったことが本当になる系能力者の言い間違いが酷い。

またたび

第1話 ラーメン屋

「先輩、ここのラーメン美味しいですね!」


「ああ、そうだろ? 俺のお気に入りなんだ」


 先輩は優しくて真面目で、僕たち後輩の指針となるようなお方です。


 でも先輩は実は、ただの人間ではありません。不思議な能力を持ってるのです。それは……


『言ったことが本当になる』


 恐ろしい能力です。でも安心してください! 先輩にはそんな能力、関係ないのです! 彼は嘘をつかず、本当のことしか言いません。だからこの能力が発動するはずがないんです!


「ははっ、俺のラーメンは美味しいだろう、君たち。このラーメンのスープは初代からずっと継ぎ足しで続いている、秘伝のスープなんだよ。俺一人の力じゃない、今までの代の人が守ってきた、かけがえのないスープなんだ」


 ラーメン屋の店主さんは誇らしげに僕たちに語ります。すると先輩も嬉しそうに返します。


「まさに元素げんそのスープ……だな」


「先輩! それを言うなら元祖がんそです!」


「あっ」


 その瞬間、屋台は塵となって消え、受け継がれてきたスープも風に去っていった。レシピも何処かに消えてしまった。


「そ、そんな……!」


 ラーメン屋の店主は何もない道路でうなだれていた。


 そう、これこそが先輩の唯一の欠点である。そんな能力を持ってるくせに、言い間違いが酷いのだ……。


 * *


「もう俺は喋らないほうがいいのかな……後輩」


 帰り道。先輩が悲しそうに聞く。


「先輩……」


 僕は何も答えられない。でも、言わなくちゃいけない! 勇気を振り絞る!


「ははっ、俺はロクなことを言わないのかもな」


「そんなことないですっ! 先輩!」


「後輩……」


「先輩の普段の言動、それに多くの人が救われてるんですっ! 本当です! 僕だって先輩の言葉に何度も救われてきました! だからそんな弱気にならないでくださいっ!」


「だ、だけど」


「お願いですからっ! 先輩はみんなから尊敬されてるんです! 憧れは、憧れのままでいてあげてくださいっ!!」


「……」


 先輩はそれから何も喋らなかった。でも分かる、先輩のあの表情はきっとちゃんと伝わった証だ。明日にはきっといつも通りの先輩がいる。そう信じて僕は家に帰った。






 ちなみに、ラーメン屋の店主さんはなんと、ケーキ屋を開いたようです。実はラーメン屋と同じくらい、夢だったそうです。しかも、お客さんも結構入ってるようで……。良かった、良かった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る