5/18 17:08

「これこれ。どう思う?」


 17時に待ち合わせて、ショッピングモール内のスターバックスに腰を落ち着けたばかりだった。神戸幹人はスマホの画面を突き出して言うと、私の目をじっと見つめて返答を待った。道すがら話していた件だ。

 ホワイトモカの甘ったるい香りを鼻先に感じながら、


「えー、やっぱ迷惑メールでしょ」


 と一蹴する。

 最近この手の不安をあおって連絡を寄越させるタイプの迷惑メールが流行していると聞く。流行――というのもいかがなものかとは思うが、実際、幹人以外の人間にも聞かれたことがあった。ネット上でも見たことがある。うまい手だな――と素直に感心してしまう自分もいるが、巧妙であればあるほど、うまくいきすぎているほど、疑わしくも感じられる世の中になってしまった。


「なんで?」

 

 幹人のこちらを見つめる両目は期待に満ちている。

 私たちはミステリ研、などといかにもなサークルに所属している。このサークルにいる人間は大きく分けて二種類で、いわゆる読み専——ミステリ文学を愛するだけの要するに読書家タイプか、探偵系――ミステリ文学の登場人物に心酔するあまり自分たちの日常にも謎は多くありそれを解決できると盲信している愚弄タイプ。見ての通り、私は前者で、幹人は後者だった。

 簡単に言って、その探偵系である幹人は、私が「これは迷惑メールである」と結論付けた根拠があると勘違いしていて、それを欲しているわけである。


 だってネットに書いてあったし――とは当然言わず、


「駅のトイレ、なんてざっくりした言い方、その上こちらもあちらも男女を特定する要素がない。本当に書かれていたんなら写真の一枚でもつけたほうが親切だし、相手の信用も得られるというもので。でもその危険を冒す度胸もない。だから、迷惑メールだとする理由があるというよりは、迷惑メールじゃないと決定する理由がないから、迷惑メールなんじゃないかと」


「ほー」と、ココアを啜る。「じゃあ返信してみたほうがいいってこと?」


「なんで?」と、吹き出しそうになる。「返信したら思うつぼだって」


「だってどちらであるか判断する材料がなくて、消去法的に迷惑メールとしているだけだろ? もし俺のメアドが本当に晒されてたら怖いし」


 ——ああ、バカだな。と思った。

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