vs『愚者』ユージョ=メニーマネー(前編)

「どこだ、ここは?」


 龍野は見知らぬ荒野で、目を覚ました。

 手元には、既に大剣が握りしめられている。


「ようこそ、『黒騎士』こと須王龍野! ここが俺の、いや俺達の決戦の場だ!」

「てめえ、ジークフリート……!?」


 龍野は、その男の正体に心当たりがあった。

 かつて「異界電力ベイエリア」で対峙し、そして共闘した男。


 だが男は、ゆっくりと首を振った。


「違うなぁ……いや、違わねえか。確かに、そう名乗っていた時期もあったな。だけどアレは、俺のニセの名前だ」


 男は踊るように動きながら、自らの本当の名を名乗る。


「冥土の土産だ、教えてやるよ。俺の本当の名前は、ユージョ=メニーマネーだ」


 ユージョーは踊るような動きを止めぬまま、龍野に名乗った。

 直後、殺気を噴出する。


「さて、『黒騎士』サマよ。今からお前には、俺とデュエルをしてもらう」

「デュエル……だと?」

「そ。俺と魂を賭けて、デュエルするんだ。負ければ死ぬ。簡単だろ?」

「拒否させてもらうぜ」

「あいにくそーはいかねーんだな、これ。お前、この場所がどういう場所か知ってるか?」

「分からん」


 ユージョーはゴーグルを付けたり外したりしながら、龍野に説明する。


。そういう場所だ」


 ユージョーのこの説明は、いくらかの不足がある。

 元の世界に戻れるというが、そもそもこの世界に来ているのは龍野とユージョー、それぞれのなのだ。

 今ある体も、オーロラ体と称される偽物である。


 しかし不足はあれど、必要最低限の情報は与えていた。


「じゃあ、戦うしかねえって事か」

「そうだよ」


 その返事を聞いた瞬間、龍野が魔術を発動しようとする。


「……?」


 しかし、龍野の望む結果は訪れない。

 何度も試すが、それは得られなかった。


「黒騎士になろってんなら、ムダだよ。その力は封じてある」

「何だと!?」

「それに伴う補正もね。ああ、簡単な攻撃や移動強化の魔術は使えるから、そこは安心していいよ」

「安心できるか!」


 龍野が大剣を向け、光条ビームを放とうとする。

 が。


「バジリスク」


 ユージョーが呟いた瞬間、龍野の動きが止まった。

 その間に、ユージョーは左に五歩だけ歩く。


「っち、荒野にしたのはまずかった……かな!」


 砂が目に入り、ユージョーがまばたきする。

 龍野の光条ビームは放たれるが、既に場所をずらしていたユージョーには当たらなかった。


「けど、これで開幕瞬殺は防げた。それじゃ、ここからは下準備だ。まだデュエルは始まってもいないぜぇ?」


 ユージョーが立て続けに、3枚のカードを召喚する。


「スライム、10m級ロボを丸呑みできるサイズ!」


 その宣誓と同時に、群青色のスライムが出現する。


「まだだぜ、"大型トリプルDラングスト“!」


 続けて、全高25mの伊勢海老型機動兵器が。


「仕上げだ、“アル・デリアス・ベノム……の試作型”!」


 最後に、巨大トカゲ型ロボット兵器が姿を現す。


「これで仕込みは終わりだ。そうだ須王龍野、最後のカードは”カンガルー”ってんだけどよ。ボクシングが出来るようになるカードだ。けど、それはお前がこいつら3体を倒せたら使ってやるぜ。そう、タイマンでなぁ!」

「ぐっ、よりにもよってアル・デリアス・ベノムか……!」


 そう。

 周囲の生命エネルギーを吸収する性質を持つアル・デリアス・ベノムは、生命エネルギー……即ち魔力を持つ龍野とは、極めて相性が悪いのである。


「よく考えれば、あの伊勢海老も俺が関わった奴だぜ……!」


 そして、伊勢海老もとい大型トリプルDラングスト。

 ビームに高い耐性を持つ機動兵器には、龍野の光条ビームはほぼ封殺されるであろう。


「どうにか倒せるのは、スライムくらいか……? だが……」


 龍野がスライムに違和感を覚える。

 そう、このスライム、のだ。


(土を吸収してやがるのか……!? なんて悪食だよ……!)

「あーそうだ須王龍野。二つ言い忘れた事があった」


 と、ユージョーが龍野の闘志に水を差した。


「一つ。俺はもう動けねぇ。こんなデカいの三体召喚したから、ここから動けねぇし、動く体力もぇんだ」

「それはどうも!」


 前方を3体の巨大な敵に塞がれている龍野には、関係の無い話である。


「もう一つ。お前の大事なお姫様……ヴァイス姫だっけ? 彼女もよ、

「何だと!?」


 龍野が怒りによって、大剣に魔力を込める。

 そのまま加速して突っ込もうとし――




「待て。お前を遮る者どもは、おれが排除する」




 その声と同時に、一筋の光条ビームがスライムの体を撃ち抜いた。


「何だ!?」

「何ぃっ!?」


 龍野とユージョーが、同時に振り向く。




 そこには――全高15mの、巨大な漆黒の騎士がゆっくりと、地面に降りて来ていたのであった。

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