vs“存在しない”『世界』

「さて、俺達も撤退するぞ」


 デッドライジングの救援依頼を全うし、ペーパープリーズに戻ろうとする龍野達。

 そこに突如として、フーダニットから通信が飛んできた。


「騎士様、急いで戻って!」

「フーダニット? どうした?」

「事情は戻ってから説明します! とにかく、一刻も早く!」


 よほど急いでいるのか、せっつくフーダニット。

 それを聞いた龍野は、ただちに決断した。


「承知した! すぐに検疫を済ませてそこに行く!」


     *


 かくして、撤収作業を完了させた龍野達は、他の団員同様に検疫をパスして社長室へ向かった。

 じきに移送中の団員達も、合流する予定である。


「フーダ、着いたぞ!」

「騎士様!」


 龍野達が社長室に駆け付けると、フーダニットが安堵の様子を浮かべる。


「着いたか。まったく、遅いぞ」

「面目無いです、ララ殿下」


 ララにからかわれながら、龍野はフーダニットに向き直る。


「それで、フーダ。俺達を呼び戻した理由は何だ?」

「騎士様。話というのは、他でもありません。これを」


 フーダがちょいちょいと手招きし、デスクの足元を見せる。


「何だ、これは……?」


 四角く開いた空間。

 そこには、梯子が掛かっていた。


「先程、大きな音がしました。何かと思って確かめると、ここに……」

「その空間が、という事か」

「はい」


 フーダが怪訝そうに、空間を眺める。

 と、ララの眉がピクリと動いた。


「盗み聞きとは感心しないものだな……」

「え?」


 その場にいる者の大半が、ララの一言を疑問に思う。

 しかしララは廊下側の壁に寄ると、壁に掌底を叩き込み――


「待った、ララ殿下! 彼は味方です!」


 龍野が大慌てで止める。

 そして、急いで扉を開いた。


「入ってくれ!」


 そこには、漆黒の服を身にまとった、黒髪黒目の青年がいた。


「!?」


 龍野とララを除く一同が、揃って驚愕する。


「なるほど、妙な霊力を発していたのはお前か。……名乗れ、何者だ?」


 ララが拳を構えながら、青年に問う。

 青年は動じる事無く、答えた。


おれの名前は、シュランメルト・バッハシュタイン。そこのおれに似た姿を持つ男に、ここまで案内されてやって来た」

「隠していて済まなかったぜ。”デッドライジング”の一件の後、共闘の連絡を受けてな」


 龍野が詫びながら、一同に説明する。

 と、ディノが何かを感じ取った。


「シュランメルト……だったか? 何となくだけどよ……オレと、似たような存在感があるぜ」

「どういう事だ、ディノ?」

「オレと同じ……アルマガルム、いや、“守護神”のオーラがするぜ。コイツからはよ」


 それだけ呟くと、ディノはいつもの様子に戻る。

 しかし、フーダニットは納得行っていなかったようだ。


「どうして? 貴方は“ハンター”に登録されていないはず……」

「当たり前だ。おれはこの世界のことわりを守らずして、ここに来たのだからな。“ハンター”とやらに登録されていなくても当然だ」


 あくまでも冷静に、シュランメルトは答える。


「それよりも、だ。話は聞かせてもらった。誰がその隠し通路に行くか、だろう?」

「ああ、話が早いなシュランメルト。その通り、編成を決める必要がある。俺はまず確定として……」

「その案、おれに提案させてくれないか」

「何っ?」

「まさかお前の仲間全員で乗り込む訳ではないのだろう?」

「ああ。少なくともヴァイスは……おっと、俺の団の副団長なのだがな。彼女は残す」

「龍野君?」

「他の団員への連絡役だ。悪いな、任されてくれよ副団長」

「分かったわ」

「さて、それを踏まえて行くとなると……よし、提案してくれ」


 龍野に促され、シュランメルトが頷いた。


「では言おう。おれ、お前……」

「須王龍野、だ。そして彼女がヴァイス。ツインテールの娘が、ヴァイスの妹のシュシュ……」


 やや簡略的に、居合わせる全員の説明を終える龍野。


「そして彼女が、この世界の代表の一人……フーダニットだ」

「代表の一人、か。ペルシエル共和国みたいだな」

「何だ、それは?」

「独り言だ。忘れてくれ」


 シュランメルトが意味深に呟きながら、編成に移る。


「では、最終案だ。おれ、龍野、ディノ……そして、ララ。以上の4人で行く」

「私か!?」

「そうだ。おれの直感が、『お前は必要だ』と囁く。来てくれ」

「……まあいい。この場は貴様に従おう、シュランメルト」


 ララは一瞬渋ったが、すぐに承諾した。


「決まりだな。フーダ、行ってくるぜ」

「ええ、騎士様。無事を祈っております」

「待っているわね、龍野君」

「必ず帰ってきなさいよ、兄卑!」


 ヴァイスにシュシュ、そしてフーダニットに見送られながら、龍野達は梯子を下りたのであった。


     *


おれが先陣を切らせてもらう。生身での戦闘能力ではお前達に譲るところがあるが、おれに対する信用を得るにはこうするのが最良だと思ってな」


 突入後。

 上記の二言を以て先陣を切ったシュランメルトであるが、龍野達は何故か、何も文句をつける気にならなかったのである。


「しかし、見たところ一本道のようだな。長い階段が続くが、それだけだ。最奥に何があるか、そこまでは分からんがな……」


 シュランメルトが先陣を切り、龍野達3人が後に続く。

 長い長い階段を、シュランメルトはいつも歩く場所のように、何の警戒もせずに歩いて行ったのであった。




「着いたか。……むっ」


 ガレキだらけの、壊滅的な惨状を呈した広大な空間にて。

 シュランメルトが、装置の中に入れられた一人の女を見つける。


「彼女に心当たりはあるか?」

「ああ、あるぞ。今照合する…………ッ、こいつは『女帝』!」

「『女帝』だと?」


 “リブート”の存在を知らないシュランメルトが、疑問を投げる。


「ああ。“リブート”……いわゆる“最高幹部”の一人だ。まさか、こんな所に……?」


 龍野が鎧騎士と化し、慎重に接近する。

 と、その時。


「龍野、離れろ! そいつは体内に爆弾がある!」


 ディノが、体内に埋め込まれた爆弾に気づいた。


「何だと!?」

「それも1つじゃないよ、無数にある!」

「ならば私に任せろ!」


 ララが転送装置を一蹴りでぶち壊し、続けて霊力を込めて『女帝』を蹴飛ばす。

 霊力を多量に込めたその蹴りは、『女帝』を宇宙空間に放逐した。


「蹴飛ばした先はデブリ一つ無い宇宙だ。アレが少々派手に爆発しようとも、この“アッシュワールド”に影響は無い」

「そうですか、ララ殿下……(まさかシュランメルトは、こうなる事を読んでいたのか? ディノにララ殿下がいなければ、どうなっていたか……)」


 龍野はシュランメルトの人選に、舌を巻いたのであった。

 と、ディノが更に奥へ続く階段を見つける。


「龍野、こっちに何かあるよ!」


 龍野達が、階段へ向かう。

 そこにもやはり、ところどころにガレキの散らばった空間が見えた。


「あいよ、ディノ!」

「では、おれが先に行かせてもらおう」


 シュランメルトが先んじて、階段を降り始める。

 今度はそこまで長くない、そんな階段であった。


 やがて階段を降りきると、シュランメルトの、そして龍野達の前に、一人の男がいた。




 ……カプセルに閉じ込められたまま、事切れた、男が。




「データベース照合。コイツは……『世界』だ」

「『世界』……?」


 特徴的な顔立ちの、イタリア人風の顔をした男。

 彼――『世界』――は、龍野達の到着以前に、既に死んでいた。


 何度確かめても、『世界』の死という事実は、覆らなかった。


「こいつの討伐も目的の1つだったが……こうなった以上はどうにもならん。撤退だ」


 龍野は苦々しい表情で、決断を下したのであった。

 後には、ただ廃墟だけが残っていた。

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