vs『魔術師』(後編)

「とは言ったものの……!」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)が光条レーザーを剣先から連射する。

 あまりにも大き過ぎ、かつ動かない的だ。外しようがない。


「……効いていないみたいね」


 が、巨体さに見合った厚さの装甲に、あっさりと防がれる。


「だな」


 直後、シルバージャイアントの一部分が爆発した。

 とはいえ、やはりダメージはゼロに等しい結果であった。


『155mm砲弾のプレゼントだが……うむ、こちらも効いていないな。

 この様子では、装甲を直接攻撃するというのは無意味だろう』

『では、どこを狙いましょうか?

 やはり、定番の……』

『ああ』


 龍野とララが、同時に言うハモる


『『“関節”を重点的に破壊する(しましょう)!』』


 その直後、再びビームの壁がランフォ・ルーザ(ドライ)を呑み込んだ。


『援護再開だ!

 右肩を重点的に狙え!』


 が、今度は途中で止まった。爆発音を合図として。


「ララ殿下の、支援砲撃……」


 ヴァイスが呟きつつ見ていた先では、シルバージャイアントの肩関節から、黒煙が上がっていた。

 ララが投擲した155mm榴弾の効果であろう。

 とはいえ、流石に一発でもげる程、ヤワな構造ではなかったが。


「だが、やりようはある!」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)が剣を構え、光条レーザーを連射する。


ぞ!』


 ララからの合図を聞いた途端、ただちに照射を中止。空中で榴弾に誤射し、有効打を与え損ねるのを防ぐためだ。

 ランフォ・ルーザ(ドライ)が照射を止めた直後、肩関節に爆発が起こった。

 これまでと違い、ダメージが蓄積している状態では、流石に無傷とはいかなかった。

 それと同時に、胸部のランプが“紫色”に変わった。


(色が変わった?

 どうやら、効いているみたいだな……!)


 さらにランフォ・ルーザ(ドライ)が光条レーザーを右肩に放つ。


 と、悲鳴のような破断音が響き渡った。

 見ると、シルバージャイアントの右肩がずり落ち、ついに落下したのである。


『右腕の脱落を確認した!

 次は左腕をやるぞ…………ッ、何だ!?』

『ぐっ……!』


 と、ランフォ・ルーザ(ドライ)の視界が、ホワイトアウトする。


「おい、障壁が展開してやがるぞ!

 これ、ビームじゃねえか!」


 ディノの言葉通り、ランフォ・ルーザ(ドライ)は、極大のビームに包まれていた。


「離脱を……!」


 ヴァイスが龍野に指示し、機体をビームの範囲外から出そうとする。


「ぐっ……!」


 強引に推進するも、ビームからは逃れられない。


(万事休す、か……!?)

『諦めるな!』


 と、その時。


 何故かシルバージャイアントは、砲撃を急停止した。


「ん?」


 安堵よりも、不思議に思う気持ちが強い龍野達。


「あっ、基地が……。

 そういう、ことなのね……」


 ヴァイスが呟きながら見たのは、秘密基地である。


「確かに、基地を焼くのはご法度はっとだろうな。

 なら……!」


 龍野はランフォ・ルーザ(ドライ)を秘密基地の陰に隠れさせながら、一方的に左肩関節を攻撃する。


 だが、何故かビームが飛んできた。


「おっと!

 何だあいつ、見境無しか……!?」

「それとは別だろうな、龍野。

 今の軌道を見たが、ぜ」

「そういうことかよ……!」

「けれど、今の一撃を見る限り、そこまでの威力は無いわね。

 一気に押し切るわよ、二人とも!」

「ああ!」

「もちろん!」


 防御を捨て、盾からも光条レーザーを連射する。

 反撃のビームが飛んでくるが、障壁にあっさりと防がれていた。


『よくやった、二人とも……!』


 ララからの通信が割って入った。


『ヤツの腕を両方もいだぞ! 反撃されない今の内に、トドメを刺せ!』


 素早くランフォ・ルーザ(ドライ)がシルバージャイアントの正面に立つ。

 同時に、頭部の宝石に光が集中し始めた。


「それじゃ、霊力借りるぜ……ディノ、ヴァイス!」

「当たり前だろ!」

「ええ!」


 最後の足搔きとばかりに、シルバージャイアントが迫る。

 だが、それよりも先に、ランフォ・ルーザ(ドライ)が動いた。


「さよならだ……!」


 チャージを終えたランフォ・ルーザ(ドライ)の頭部から、極大の光条レーザーが迸る。


 霊力と魔力が渾然一体となって放たれた光条レーザーの、暴力的な熱量に耐えきれなかった銀色の装甲が、委細構わず溶解し始めた。

 ゆっくりと地面へ向かう光条レーザーは、頭部、胸部、腹部を溶解し、真っ二つに切断した。


 シルバージャイアントが胸元のランプを赤く点滅させるも、徐々に感覚が長くなる。

 そして完全に消えたタイミングで、左右に分かれて倒れた。


「よし、やったぞ……!

 後は、“リブート”を直接……!」


 長い衝撃波が通り抜け、基地が剝き出しになる。

 と、龍野がある人物を見た。


「あの男……!

 画像にあった、“リブート”だ!」


 中央の“酸素バリア発生装置”の前に佇んでいる男を見た、龍野。


「一気に行くぞ、ディノ、ヴァイス!

 狙いは、装置付近にいるあの男だ!」

「あいよ!」

「もちろん!」


 龍野とヴァイスは魔術で鎧を纏い、ランフォ・ルーザ(ドライ)から飛び降りた。


     *


「ここだな……!」


 一気に発生装置まで迫った三人。


「!」


 と、銃弾が三発飛んでくる。

 しかし、龍野の顔面に叩き込まれたはずの銃弾は、障壁に防がれる。


「ふむ、やはり悪あがきは悪あがきだったようだな」


 そこには、男がいた。

 口が二つある、男が。


 彼こそが、“魔術師”ダボ―=ツーペア=ハングリーハートである。


「だが、曲がりなりにも私は“リブート”。

 ただ、やられてやる訳にはいかない」

「当然だ。

 戦って、お前を殺す」


 龍野が大剣を召喚し、構える。


「いざ……」

「勝負!」


 二人は一歩前に踏み出すと、疾走する。


「……ッ」


 ダボーが何発もの銃弾を龍野に撃ち込むが、龍野は止まらない。


「…………」


 龍野は一切の感情を込めず、ただ、ダボーを一撃の元に斬り伏せた。


「使命に殉じた事は認めてやるよ」


 そして、ダボーの亡骸に切っ先を向けると、光条レーザーを放って焼却した。


     *


「終わったぜ。

 さて、帰るか」


 龍野はヴァイスとディノを連れ、ランフォ・ルーザ(ドライ)に乗り込んだ。


 直後、ランフォ・ルーザ(ドライ)は光に包まれ、消滅した。


 かくして、黒龍騎士団は“リブート”の一つ、『魔術師』を撃破せしめたのである。

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