『123、エルフの国の暴走』
握手ほど相手が警戒しない方法はない。
貴族ならばボディータッチには必要以上に気を配っているはずだが、握手となると別だ。
気にする人の方が少ないだろう。
ちなみに貴族の引き抜きは非難の対象になり得るが、アラッサム王国にとっては今更か。
音楽魔法とかの件で非難には慣れているだろうし。
それにしても、どうしてわざわざ貴族の引き抜きをするんだろう。
国にたくさんの貴族が増えたところで、払うべき俸給が増加するだけだと思うのだが。
「握手で貴族の当主に龍魔法をかけ、根こそぎアラッサムに誘致しているのね」
「でも目的は何だ?金の融資か?」
1人の男が疑問を呈するが、みんなは首を傾げるしかない。
今のところ、これといったメリットが見つけられていないので対策のしようがないのだ。
一体どうするべきか・・・。
頭を抱えていると、ツバーナが思いついたようにポツリと漏らす。
「アラッサムに向かった3家に共通点はないんですか?それを調べれば目的が・・・」
「確かに。考えてみる価値はあるな」
どの家に関してもイルマス教国への遠征中に出て来たはず。
今までの会話を思い出していると、フローリーが恐る恐るといった感じで手を上げた。
「どの家も特別な技を持っていませんか?」
「ファース家は剣、リックラント家は魔法の大家だったのは覚えているけど・・・」
俺の列挙に全員が押し黙る。
マーナス公爵家はどの貴族とも関わりが薄い家だったため、特徴を誰も知らないのだ。
「夢遊術っていう技を使う家だ。俺の実家だぞ?」
「あ、ボーランが気絶したときにエーリル将軍が使っていた気がする」
レンドが呆れたように言う。
ナッチさんとの戦いで傷ついたボーランに対して使っていた技か。
「ちなみにエーリル将軍とはどのような関係なのかな?」
「彼女は僕の姉ですよ。まさかリレン王子の護衛として働いているとはね・・・」
「何か不思議なことでも?」
「エーリルは昔から冒険者になりたいって言っていましたから」
最初は冒険者だったんじゃないか?
お披露目パーティーの時の劇では、魔法が使えないブルートを支えていたしな。
「しかも優しそうな王子と主従契約か・・・。羨ましいな」
「んっ?何か言いましたか?」
昔に思いを馳せていたからレンドの発言を聞き逃してしまった。
しかし、レンドは首を振って誤魔化す。
他人に聞かれたくない思いが漏れてしまった感じかな?
ここで追及するのも不憫だし、疑問点もあるから話題を変えてあげよう。
「そういえばナッチ王女はどこに行ったの?」
「ああ、あの人?彼女は猫獣人をクゼン王国に送り届けているわ」
ツバーナの言葉に全員の表情が凍り付く。
クゼン王国はアラッサム王国の隣にある国であり、ウダハル王国の隣でもある。
そしてアラッサム王国の友好国としても有名だ。
イルマス教国で襲われていた猫獣人がアラッサムの友好国の出身だったとは。
妙な因果関係もあるものだな。
「危険ではないのか。1国の王女が、しかも幻影魔法の使い手が奴らの手に渡っては・・・」
「ナッチ王女はウダハル国王から認知されていません。手に落ちる可能性が高いです」
俺の無慈悲ともいえる言葉に、男たちが明らかに落胆する。
どうにかしてナッチさんを助けてあげられないかを考えていると、胸の赤い石が光る。
前世でいう電話がかかってきたのか。
「もしもし、ツバーナだけど・・・神樹のことで何か分かったの?」
「石碑を盗んだ犯人だが・・・茶色の髪をした貴族の少年であることが判明したぞ」
ツバーナの父親はエルフの国の国王だったっけ。
それにしても茶髪の貴族少年?
なぜか嫌な予感がして、俺は無意識のうちに石を強く握った。
その時に魔力が込められていたらしく、相手の声が執務室中に大きく響き渡った。
「調べた結果、グラッザド王国の公爵家子息、イグル=フォルスだろうという結論に達した」
「何ですって!?イグルが石碑を盗んだ犯人!?」
俺は相手と繋がっていることも忘れ、大きな声で叫ばずにはいられなかった。
親友のイグルが・・・盗賊?
「もともと我らエルフと接触できる人間は多くない。その中で茶髪の少年は彼1人だけだ」
「でも証拠は髪の色だけでしょう?それなら偽装が可能なはずです」
現場に茶髪が落ちていたとかいう理由だけで犯人だと決めつけているのだろう。
そうならば偽装が可能だ。
イグルの髪の毛を1本拾って落としていくだけでいいのだから。
「偽装か・・・あり得ないね。彼の身柄は既に我が国で確保しているのだから」
「グラッザド王国の民を勝手に捕縛しているだと!?」
父上が目を剥いて石に詰め寄る。
必然的に石を持っている俺に詰め寄ってくるスタイルになり、とにかく怖い。
国王に詰め寄られるなんて普通の人なら卒倒レベルだからね。
「エルフの国に無断侵入した愚か者を捕縛しただけだ」
「それでもイグル=フォルスは我が国の大切な民。すぐに返していただきたいのだが」
俺は丁寧な口調で揺さぶりをかける。
周りで他国の騎士団の男たちが瞠目しているが、知ったことではない。
今は大切な親友を取り返す!
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