第4章  狂気の王国と古代魔法の秘密

『121、対アラッサム戦線』

グラッザド王国の王都に入ったが特に壊れている箇所はない。

いつものように活気に満ち溢れており、見慣れない俺たちの馬車を怪訝な目で見ている。


黒龍はどうしたのだろうか。

王城の敷地に入ると、玄関で迎えてくれたのは異母兄のリアン=グラッザドだ。


「やっと帰ってきたね。こっちは大変だったんだから」

「グラッザド王国を守ってくれてありがとう。もしかしてみんな待っているの?」

「そうだよ。早く執務室に向かわないと」


リアンの言葉に全員が頷いて、父上の執務室に駆けだす。

到着して中に入ると、筋骨隆々な男性たちが鋭い視線でこちらを射貫いてきた。


「遅れて申し訳ありません。第1王子のリレン=グラッザドです」

「第2王子のリアン=グラッザドです」


俺とリアンが並んで頭を下げると、高いところに座っていた父上が手招きする。

父上の隣には椅子が2脚置かれていた。


「それではこれより我が国が知っている全てのことを話そうではないか」

「「ちょっと父上!?」」


慌てたのは俺とリアンだ。

情報は命という言葉があるように、時には外交のピースとなりえるのが情報である。

まさか無償で発表するなんて・・・!


「今はそれどころではない。早くしなければ我が国以下、ほとんどの国が滅びよう」

「龍魔法の攻撃系は国であれば7つほど滅ぼせますからね」


レンドが何でもないような口調で補足すると、知らなかった人たちの顔が引き攣る。

それは俺たちも例外ではない。

リアンは小さく口を開けたまま固まり、フローリーとツバーナは瞠目していた。


「分かったか。今は情報を共有するときなのだ」

「承知いたしました。国王たる義父上の決定に対し、余計な口出しをいたしました」


リアンが口上を述べて引き下がる。

俺も黙って頷いたのを確認した父上は改めて男たちを見回した。


「さて、最近のアラッサム王国についての状況は知っているな。一応説明すると・・・」


この後の父上の話を纏めるとこうなる。

音楽魔法の襲撃があった後、アラッサム王国以外の国々は揃って非難を開始した。

ときには舌で、ときには武でアラッサムを追い詰めていたらしい。


この状況に焦ったアラッサム国王、レースン=アラッサムは精強な軍隊を編成。

魔剣士7人を擁するキーラン王国を滅ぼした。


各国にとっては脅威にしかならなかったのだが、ただ1国だけそうではない国があった。

キーラン王国との貿易があったイワレス王国である。


ただでさえグラッザド王国との密輸路が絶たれたのにも関わらず、またもや断交間近。

到底許せる話ではなかった。


イワレス王国の騎士団長、オース=イエローザは5万の軍を編成してアラッサムに侵攻。

国を揺るがす戦の火蓋が切られる。


イワレス王国騎士団は、一時的にアラッサムの王都を包囲するまでの快進撃を見せた。

しかし、そこに厄介な敵が現れる。

アラッサム王国で最も精鋭と言われる剣術の大家、ファース家の剣士たちだ。


街の外れで小さな時計屋を営んでいたファース家のことを、イワレス王国騎士団は歯牙にもかけていなかったという。


結果的に騎士団は総崩れとなって撤退。

その最中に指揮官のオースが戦死し、イワレス王国は武の柱を失うこととなる。

ここで終われば良かったのだが、そうは問屋が卸さない。


ファース家の当主、デマル=ファースが4万の兵を率いてイワレス王国に侵攻を開始。

窮地に陥ったイワレス王国から助けを求める声明が出され、今に至るというわけだ。


「さらに我が国の将軍が龍魔法をかけられてアラッサムへ向かってしまった」

「何ですって……。すぐに魔法を解かなければ……」


部屋の右端に座っていた男が呟く。

父上は大きく頷くと、俺とフローリーを交互に見つめながら問いを投げかけた。


「誰が龍魔法をかけたかの検討はついているのか?」

「容疑者は2人ほど出していますが」


俺が答えると、フローリーは慌てたように首を横に振った。

どうやら思いついて無かったみたいだな。


「容疑者が2人とはどういうことだ?そんなに怪しい人物が少ないということか?」

「そういうわけではありません。状況を考えた結果です」


今回の推理は、お披露目パーティーで断罪したときよりも自信があるぞ。

父上が発言の許可を出したのを見てから口を開く。


「僕たちは最終決戦の前に会議をしましたが、そこでフェブアーがライフ・バーンを使って場を収めようとした。この時点で既に龍魔法はかけられていました」


あの時のフェブアーは考えが足りないと思ってたんだよね。

龍魔法のせいだと言われれば納得がいく。


「つまりそれより前にかけられていたと考えるのが自然ですが、1つめの村を攻めた時には正常な思考を保っていた。つまり魔法はかけられていなかったんです」


俺が考えた作戦を渋っていたもんな。

しっかりとリスクを考えることが出来ているという証拠だ。


「つまり容疑者は1つ目の村を攻める前から最終決戦までの間にかけたということだ。そして条件に合う人物は2人しかいません」

「誰なんだ。それは」


解説を聞き飽きたのであろうリアンが問う。

俺はリアンをジト目で見てから一息挟み、容疑者の名前を口にした。


「1人目はウダハルの宮廷魔術師のマーハイ。2人目は・・・ここにいるベーラです」

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