第3章  銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦

『81、久しぶりの王城で・・・』

実に4ヶ月ぶりの王城はどこか懐かしい。

こんなに大きくて、こんなにも謎の安心感があっただろうか。


ゆっくりと門が開かれていき、フローリーたちがいなくなった馬車が進んでいく。

ふと扉の前を見ると、家族が集合しているのが見えた。


「リレン、ただいま戻りました」


そう言いながら、一番近くにいた父上に勢いよく抱き着く。

ヤバい。安心感が違うな。

旅の最中、ずっと張り詰めていた気持ちがプツンと途切れたのを感じる。

抱き着かれた父上は苦笑しながら俺の頭を優しく撫でてくれた。


「お帰り。随分と頑張っていたそうだな。王城に毎日のように報告が届いていたぞ」

「そうですか・・・。父上にそう言ってもらえると嬉しいです」


誰かに認めてもらえるって凄く嬉しいよね。

しばらく余韻を噛みしめていると、後ろから2つの影が近づいてくる。


「父上ばっかりリレンを撫でてズルい!久しぶりなんだから、私にも頭を撫でさせてよっ!」

「ちょっと!?まさか突っ込んでこようとか思ってないよね!?」


走り出す前の準備運動のようなものをしていたので、心配になって尋ねる。

だが悪い予想ほど的中するもので、アリナお姉さまが俺に向かって突進してきた。


ちょっと待って!父上と一緒に転んじゃうよ!


内心で焦る俺を尻目に、耳が尖った少女がガッシリとアリナお姉さまを捕まえた。

海で仲間になったエルフの姫、ツバーナである


「わっ!?あなた誰なのよ。いきなり飛び出して来て危ないわね!」

「それはこちらのセリフです。ご主人様とその父上が転ばれたらどうするのですか?」


ツバーナの発言に全員の動きが止まった。

母上が顔を引き攣らせながら、俺のそばに近づいてくる。


「これはどういうことかしら?何でエルフの少女にご主人様なんて呼ばれているの?」

「私はご主人様の奴隷だからです」


その発言を聞いた俺は、カルスから受けとった飲み物を落とすかと思ったよ。

どこをどうすれば奴隷などという言葉が出てきたんだ。


まさか・・・主従関係を結べば従者はみんな奴隷とか思っていないよな?

ジト目でツバーナを見つめていると、怖い顔をした父上が大股で近づいてくるのが見えた。


「どういうことかな、リレェン?詳しく説明してもらおうか」

「えっと・・・まず初めに言っておきますが、彼女は奴隷ではありません」


ツバーナのせいでややこしくなっちゃったじゃん!

とりあえず、俺がこの国の法律を違反しているというとんでもない誤解を解かなきゃ。


「エルフは数年間だけ人間に従事して外の世界を学ぶらしいのです。彼女はエルフの姫なので従事先が僕

だったというだけの話ですよ」

「お爺ちゃんから、人間界ではその状態のことを奴隷って言うんだよって教えてもらった!」


元気いっぱいに手を上げるツバーナ。

おいおいお爺ちゃん、なんてことを教えているんだ。しかも盛大に間違ってるし。


「あの・・・それは従者というのでは?」

「そうなんですか?お爺ちゃんはボケてたし、間違えたのですね」


ジャネの言葉にツバーナが目を丸くする。

いやいや、目を丸くしたいのはこちらですからと突っ込みたくなったわ。

この話題を続けるのも何だかなぁと思って周りを見回すと、見慣れない人が目に入った。


「それはそうと、新しい使用人を雇ったんですね」

「えっ?新しい使用人なんて雇っていたかしら・・・。誰のこと?」


アスネお姉さまが首を傾げた。

俺はみんなから一歩離れたところにいた兄弟らしき2人を指さした。


「ほら、あそこにいる銀髪の2人だよ。見たことないし、新しい使用人でしょ?」

「あ・・・あれはちょっと違うかな?」


アリナお姉さまが不自然に言葉を濁すと、場を重苦しい空気が支配していく。

しかも誰かから殺気が漏れ出ているようだ。


短剣の柄に手をかけて周りを見回すと、母上が般若の形相をしている。

今まで見たことが無い、本気の怒りの表情だ。


「ねぇ・・・もしかして俺、盛大に地雷踏んじゃったのかな?」

「そうですね。王妃様があそこまで怒っていますからね。裏の事情がありそうです」


カルスがソワソワしながら答える。

母上から漏れ出た殺気に当てられて落ち着かないのだろうか。


「アスネお姉さま、あの2人は誰なの?母上があそこまで怒るなんて普通じゃない」

「えっと・・・父上の妾の子と言えば分かりやすいかしら?」


改めて銀髪の2人を見つめ直す。

確かに父上にも母上にも似ていないし、当然俺たち兄弟にも似ていない。

そんな違和感も妾の子ということならば納得できてしまう。


「みんないないように扱っているけど・・・お姉さまたちと関わろうとしていない感じ?」

「ええ。あれは恐怖の感情だわ。私たちに何かされるんじゃないかと恐れているのよ」


確かにそれはあるかもしれない。

今まで普通の生活をしていたのにも関わらず、いきなり王城で生活しろと言われたのだ。


さらに王城の中には自分たちと髪の色が違う姉たちがいた。

異母兄弟だなどど言われても、すぐには信用できないのが普通だろう。

すんなりと信じてくれれば楽だが、疑う力が弱いのではないかと心配になるレベルだし。


「なるほどね。それでも対話は試みたんでしょ?」

「ひとまず積極的に話しかけてみたわ。最初の1週間くらいは怯えすぎて話せなかった」


どうやら警戒心が相当強いようだ。

ここに来るまでの過程で、何か警戒心を強める出来事があったのかもしれないな。


「今も最低限の返事はするけど、情報の方は名前すら教えてもらえてないわ」

「なるほどね。これは過去に何かあったのかも」


推測のように話しているが、アスネお姉さまの情報を総合するとほぼ確実だろう。

しかも王族に対しての警戒心だけが異常に強いようだ。

現に、件の2人は執事やメイドたちとは普通に話して笑い合っている。


「これは厄介だね。とりあえず僕も対話を試みよう」

「やってみて。リレンなら彼の硬い壁を取ってあげることが出来るかもしれない」


心が籠もったアスネお姉さまの激励を受け、俺は意気揚々と銀髪の2人に近付く。

やっぱりと言うべきか、俺が近づいてきていることに気づいた2人は警戒している。


「こんにちは。僕は第1王子のリレンだよ。2人はこの城についてどう思っているの?」

「えっ・・・凄く豪華だと思います。さすが王族の住処ですね」


予想外の質問に一瞬だけ戸惑ったが、すぐに本来のペースを取り戻したようだ。

皮肉を織り交ぜた、ある意味完璧ともいえる回答である。


「そうか。もしかして2人は僕みたいな王族が怖いし、話したくないと思っている?」

「我が意を得たりですね。あなたたちはどうせ僕たちを裏切るから」


全てを拒絶するような冷たい視線に、今度はこちらが一瞬たじろいでしまう。

質問の配置をミスったかもしれない。


「それじゃ最後にするね。君たち2人の名前は何て言うの?」

「あそこにいる執事さんにでも聞けば?僕も弟も自分からは答えないって決めてるから」


怖がらせないように笑顔で話してみるも、兄の方は取り付く島もない。

弟の方は何も喋らないように言われているのか、口を横一文字に閉じたままだ。

こちらも収穫は期待できそうにない。


「そうか分かった。無理に喋らせちゃってゴメンね」

「ふぅん。随分と切り替えが早いんですね。あそこにいる女の人にそっくりだ」


バカにするような口調に怒りが湧いてくる。

そっちが王族と話したくないって言ったくせに、勝手なことを言って。

怒りに任せて兄の指を辿っていくと、そこには父上と話す母上の姿があった。


「あの人もバカみたいに意味の分からない質問ばっかりしてきて。王妃ってバカなの?」

「は?言ってはいけないことも分からないのかっ!」


コイツ・・・人の大切な母親を気持ち悪い笑みでバカにしやがって!

もう我慢の限界だし、一発だけでも殴ってお灸を据えてやる!

後ろ手で拳を握り、勢いよく前に突き出そうとしたところで誰かに止められた。

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