『11、中庭攻防戦』

警備が厳しい王城に自ら入るなんて、捕まりに来ているようなものだ。

さあ、捕らえて俺の命を狙おうとした理由を聞きだすとするか。


「おい、それは誰だ?まさか#従者の誰か__・__#ではないだろうな」

父上が満面の笑みを浮かべてジャネを応接室に招き入れる。


「いえ、庭に侵入していた怪しい男です。ビットさんが闇の魔力を感じると・・・」

「おい、ちょっと待て!闇の魔力だと!」

ラオン公爵が鬼の形相でジャネに詰め寄っていく。


「え・・・ええ、間違いありませんわ。ビット殿は光魔法を扱えるようですから」

その必死さの原因が分からないジャネは顔を引きつらせながら頷く。


「それで、その男はどうしたの?」

「執事たち3人が見守っておりますわ。他にリルが騎士を呼びに詰所へ」

俺の問いに答えたジャネは、中庭の方を指さした。

あそこに闇の魔力を漂わせた不審者がいるということなのだろう。

戦力だが、今は騎士団長は出張で不在。代わりに副騎士団長が指揮を執っているはず。

緑の男クラスなら引けを取らないくらいだな。問題は無い。


「分かった。副団長とともに捕縛を担当するか?自害されたら面倒でしょう?」

「ああ。モルネ殿、その男を捕縛させてもらって良いか?」

一瞬、迷った表情を見せた父上だったが、すぐに鷹揚に頷いた。


「許可する。他のみんなはここで待っていろ。ジャネ、全員を頼んだぞ」

ジャネが頷いたのを確認すると、二の句を継ぐ。

それとリレン、お前は来い。イグルくんも来てくれるかな?」


「はい。僕に闇の魔法を掛けた奴を捕まえて解除させたいんで」

決意がこもった返事を聞くと、父上は応接室を出て行く。

慌てて後に続く俺とイグルくん。


中庭に着くと、草むらの中に隠れている男がハッキリ確認できた。

そこから少し離れた別館の壁から、カルスたち3人と騎士たち10人が様子を伺っている。

先頭にいた副騎士団長のブルートさんが父上に気づき、臣下の礼を取ろうとした。


「今は良い。して、件の不審者とは彼か?確かに闇の魔力を感じるが」

父上はブルートさんをなだめ、緑の男に視線を向けた。

全属性を使える父上は、闇の魔力も感じられる。


「はい。ビット殿曰く、今日の17鐘にフォルス邸を襲った人物と同じだと」

「何?あの者がリレンたちを燃やそうとした不届き者か!?」

「はい、間違いありません。僕たちを襲ったのはアイツです!」

イグルくんがビシッと指を突き付けると、父上とブルートさんから殺気が発される。


「よし、これよりあの不審者を捕縛する。主砲は国王様とラオン公爵だ。俺たちの役割は逃げられないように周りを囲むことだ。絶対に逃がさないようにシールドは張っとけよ」

ブルートさんの指示に9人の騎士たちが一つ頷き、剣の柄を胸に押し当てた。

この行為でシールドを張ったのだろう。騎士たちの体が青く染まっていく。


「よし、全員張ったな?それでは、これより不審者の捕縛を行う!」

「はい!」俺とイグルくん以外の小さな声が重なり、闇に溶けた。

「もうじき19鐘になる。鐘が鳴ったらまずお前ら9人が男を囲み、ラオン公爵と国王様に戦闘を担当してもらう。いいな?」

今度は声を出さずに頷く大人たち。俺とイグルくんは油断なく男を見つめていた。

と、男が奇妙な動きをし始めた。手を植木にかざし、制止する男。


――何をしているんだ?植木に魔力を込めているのか?

何の目的があって植木なんかに・・・。

そして戦闘開始の鐘があたりを震わせた。


最初に動いたのは男だった。植木から何本もの蔦を出し、こちらに向かわせる。

しかし、9人の騎士たちが1本残らず切り捨て、男を囲んだ。

男は1つ舌打ちすると、周りに暴風を吹き荒れさせていく。

騎士たちもこの暴風はキツイのか、大きく顔を歪ませた。


そこに切り込んでいく一陣の風。イグルくんの父、ラオン公爵である。

男に肉薄すると、俺の身長の2倍はあろうかという大剣を振るった。

それは小さな水球を切り裂き、地面に深く突き刺さった。

剣が地面から抜けず、ラオン公爵が顔を青ざめさせていく。

次に自分がどうなるか悟ったのだろう。


予想通り、男は土弾を凶器のように尖らせてラオン公爵に向けて発射。

身体を貫通すると思われたが、土の壁がそれを防いでいく。

今度は男が顔を顰める番のようだ。


壁を作った人物――父上が光を男に向けて振り注がせる。

それを間一髪で避けた男は、2人に向けて同時に火弾を打った。

ラオン公爵は剣を地面から抜いた反動で消し、父上は水球に当てることで対処。

男の顔が驚愕の表情に染まる。


その時、父上がラオン公爵と共に走りながら岩弾を5発放つ。

もちろん当たるはずもなく、体を捌いて避けていく男。

しかし、ラオン公爵と父上が走っているため、それを見失わないように体の向きも徐々に変化していき・・・俺たちに背を向けた。


「よし、今だ!イグル、お前の苦しみを魔法に載せて放て!」

ここが好機だと睨んだ俺はイグルに指示を出した。

隣を見れば、気を見るに敏とばかりに頷くブルート副騎士団長がいる。

しかし、イグルが魔法を放つことはない。


疑問に思いながらも再び中庭に目をやると、9人の騎士が徐々に包囲を狭めていた。

呑気にその様子を見物していると、突然目の前の壁が崩れていく。

しまった!監視魔法が掛けられていたのを忘れてた!


焦った時には既に遅し。

10秒ほどで壁が完全に破壊され、中庭から俺たちが丸見えになる。

そこに、再生した蔓が猛スピードで向かってきた。

危険を感じ、咄嗟に身を投げ出す。目の先10センチのところで静止する蔓。


ふぅ・・・ひとまず避けきったか。

どうやら俺以外は傷つけるつもりはないらしいな。

ホッと一息つく間もなく、怪しい気配を感じた俺はそのままゴロゴロと転がる。


さっきまで体があったところに突き刺さる蔓が視界に入り、思わず身震いした。

また蔓が・・・。どんだけ魔力を持ってんだよ!

「我に眠る魔力の根源、魔力よ!中庭に集いて光となれ!#聖光__ホーリーライト__#!」


ここでイグルくんが詠唱し、中庭全域が神々しい光に包まれた。

「グァァァァ!」

妙な悲鳴を上げ、中庭を転がる男。次第に顔があらわになってくる。

酷く傷んだ茶髪に、土を思わせる焦げ茶色の瞳を持つ40代ほどの人だった。


「お前は、元宮廷魔術師のブラウンド!どうしてこんな事を!」

父上の悲痛な叫び声があたりに虚しく響き渡る。

元宮廷魔術師、ブラウンドはバツが悪そうな顔をしてから顔を伏せた。


しかし、伏せた顔は強制的に持ち上げられる。

「おい、答えろよオッサン。俺はあんたが掛けた闇魔法に苦労させられたんだ。今更知らぬ存ぜぬじゃ通らないぜ」

イグルくんだ。殺気を纏っており、視線だけでも人を射殺せそうだ。


「答えないなら死ぬよりも辛い苦しみを味合わせてやるぞ?さあ、言えよ」

絹川空の口調で言う。俺を燃やそうとした男だ。慈悲なんて無い。

言葉には出さないが、ラオン公爵や父上も侮蔑の視線を送っている。


その様子を見て観念したのか、ブラウンドがポツリポツリと話し出した。

「誰かに金貨5枚で依頼されたんだ。“リレンという王子の命を奪ってくれ”とな。生活に困窮していたこともあって、断るに断れなかった」


金貨5枚ということは日本円で50万円だ。

生活に困窮していたのなら確かに魅力的な金額ではある。

「そして承諾したら“闇属性の適性を上手に使ってくれ”と言われたんだ。あまり使ったこともなかったし、暴発が怖いから俺は使ってなかったが、2日前に依頼者がやってきた」


依頼者。つまり、この人は黒幕ではないってことか・・・。

俺はまだ見ぬ黒幕を思い、深いため息をついた。

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