第1章 王子の変化と王城を襲う陰謀
『1、転生』
俺が目を覚ますと、シャンデリアが吊り下げられている豪華な天井が目に入った。
どうやら前世での記憶はしっかりと残されているらしい。
それにひとまず安堵の息を吐く。
その後、ゆっくりと辺りを見回した。ここはどこなのだろうか?
高校生だった頃の俺が10人寝れそうなほど大きなベッド。
家にあった机の2倍は大きく、豪華な机。
謎の国旗のような旗。先ほどのシャンデリアと合わせて、全てがとてつもなく大きい。
床には赤い絨毯が敷かれており、壁は金箔が貼られ、黄金色に輝いている。
この部屋だけでも、俺の部屋の10倍くらいの広さがあった。
余程の権力者じゃなきゃこんな部屋は作れないはず。
となると、俺が転生したこの家は上級貴族か何かなのだろうか。
そんなんで指示する側になれるのかな?
疑問に思いながらしばらく部屋を見回していると、扉をノックする音が響いてきた。
「
リレン様、起きておりますでしょうか。起きておりましたらお返事をお願いします」
声からして若い女性のようだ。
リレン様というのはもしかして俺の事だろうか。俺がこの部屋の持ち主ってこと?
だとしたら恐ろしい。見たところ、俺の体は3歳くらいなのだ。
3歳児にこんな広い部屋を用意するなんて、どんな金持ち貴族なのだろうか。
ここでドアが開き、メイド服を着た20歳くらいの女性が入ってきた。
この家のメイドだろう。俺たちが主人って事なのかな?
「
リレン様、起きていらしたのなら、返事をしてくださいよ!」
彼女は、俺と目が合うなり、文句を言いながら距離を詰めてきた。
やっぱり、リレンなる人物は俺で、この人はメイドさんのようだ。
「ゴメン。寝起きだからボーっとしちゃって」
やっぱり声が高く、幼い。今年で3歳になるはずの従弟に似ている。
喋る言葉もどこか舌っ足らずで聞き取りにくい。
俺は前世で、年上には敬語を使えと散々言われてきた。
もしかしたら親の声よりも聞いたかもしれない。
その名残か、メイドさんにもつい敬語を使いそうになる。
だが、前世の記憶を取り戻す前の俺は、恐らくタメ口で話していただろう。
これからも年上の人物への接し方は注意しなければならない。
「そうだったのですか。まあ1週間も寝込んでおりましたものね。取り敢えず、モルネ様たち4人をお呼びしてきます」
そう言ってメイドは一礼の後、退室していった。
1週間も寝込むなんて何をしたんだ。記憶を取り戻す前の俺。
うーん・・・。生活に支障が出るから、早く今までの記憶を思い出したいんだけど。
「リレン!ああ、良かった・・・。もう!心配したのよ」
「無事なら良かったが、もう無茶しちゃいけないぞ」
なんとか幼いころの記憶を引っ張り出そうと頭を捻っていると、部屋に1組の美男女が入ってきた。傍らにはあのメイドも控えている。
2人の姿を見た時、一気に記憶が頭の中に流れ込んできた。
17年分の俺の記憶に、この世界で生きた3年分の記憶が付与される。
余りにも突然だったため、身構えている余裕もなかった。
今にもパンクしそうな頭で、何とか情報を整理する。
部屋に入ってきた2人のうち女性の方は、俺の母、ケイネ=グラッザド。
金髪に紺碧の瞳を持ち、いつもドレスを着ている。年は30歳。
男性の方は、俺の父、モルネ=グラッザド。
第19代国王として、日々忙しい日々を送っている。
年齢は35歳で、栗色の髪に、切れ長の目を持つ。
この2人は今でも結婚したてのように仲良しだ。
そしてこの2人から生まれた待望の跡継ぎ息子が、俺ことリレン=グラッザド。
母親譲りの金髪と紺碧の瞳を持つ3歳児。ちなみに父とはあまり似ていない。
両親を見て記憶を思い出せるなんて、やっぱ両親は偉大だな。
ただ、この記憶通りなら、俺は王子って訳で・・・。
いやいや女神さん!確かに俺は指示する側になりたいとは言ったよ?
言ったけど!前世でも高校生までの知識しか無い俺に、国王になれと!?
でも、こうなってしまった以上、精一杯やってみるしかない。
布団の中でこっそりと拳を握っていると、ドアから2人の女子が入ってきた、
「あら、本当に目を覚ましたんですね」
2人のうち、背が高い方が上の姉、アスネ=グラッザド。
母親の金髪に父親の切れ長の目を引き継いでおり、どこか勝気な印象を与える。
しかし実際はとても冷静沈着で、面倒見のいい姉である。年齢は8歳で俺とは5歳差。
この城の第1王女という肩書がついているようだ。
「本当だ!起きてる!リレン、治ったらまた遊ぼうね!」
屈託のない笑顔で話しかけてきたのは、下の姉のアリナ=グラッザド。
こちらは父に似ており、栗色の髪の毛をしている。
年齢は4歳で、俺とは1歳差。この城の第2王女らしい。
「すみません。今後はこのような事がないように気を付けます」
俺はこの部屋にいる人たち全員に謝る。
記憶を取り戻す前とはいえ、俺のせいで多大な迷惑と心配をかけたのは事実だ。
「ああ、そうしてくれ。リレン、お前が勉強嫌いなのは痛いほど分かっているがな。将来、国王となるためにも勉強は必須なんだ。お願いだからやってはくれんかね?」
「はい。これからはこのリレン、しっかりと勉学に励むつもりですのでご心配なく」
俺が言うと、両親と姉たちは揃って目を丸くした。
そりゃそうだろう。みんなが驚く気持ちは分からなくもない。
勉強が嫌で、炎天下の中、たまたま見つけた箱の中にずっと籠もっていたのだから。
当然、箱の中はサウナ状態。熱中症で倒れてしまったのだ。
最も、この世界では日射病と呼ばれているようだが。
まあ7月の暑さの下で密閉空間にいたらそうなるのは当たり前。
ちなみに姉たちは大人しく勉強していた。何か劣等感が湧いてくるな。
俺は倒れた1分後、箱をしまいに来たメイドの手によって無事発見された。
そうまでして勉強から逃れようとしていた俺が、これからは励むと言っているのだ。
一体どんな心境の変化があったんだって思うよね。
「そんな言葉、いつ覚えたのだ?」
父上が驚いたように声を上げた。隣には、大きく目を見開く母上の姿がある。
両親が驚いていたポイントは、どうやら俺の推測とは違ったらしい。
「リレン、凄いわね。大して勉強もしてないはずなのに・・・」
暗い声が聞こえ、俺は思わずそちらに視線を向ける。
アスネお姉さま?その発言と口調はアウトじゃないか?
悔しく思っているのが丸わかりだぞ。
両親や姉に驚かれてしまった俺は必死に記憶を辿る。
何か言い訳に使える材料はないか?
全く、年上の人への対応は気を付けようと心に刻んだはずだったのに!
全然気を付けていないじゃないか!
しばらく考えていると、ふと思いついた。いい言い訳の材料があるじゃないか!
「この前、家に来たリルの挨拶を真似しただけだよ」
リルとは、2週間前に家に来た新人メイドである。
この世界に来て最初に会った人物でもある彼女が、挨拶の際に「これからしっかりと業務に励むつもりです」と言っていたのを思い出したのだ。
・・・リル、ナイス。あなたは何もしていないけど。
「そうか。アスネとアリナも部屋に戻った方がいいね。じゃあ午後になったら図書室で勉強してもらうから、取り敢えず昼食まで休憩していなさい」
「アスネ、アリナ。リレンは目が覚めたばかりなんだから、1人でゆっくり休ませてあげて。リレン、ゆっくりね」
「うん。2人ともありがとう」
俺のお礼に、嬉しそうな微笑を浮かべながら2人は部屋を出て行った。
「じゃあ私達も戻るわ。またお昼ご飯の時に会いましょう」
「私も戻る!じゃあね!」
アスネお姉さまとアリナお姉さまもそれぞれの部屋に戻っていった。
誰もいなくなった部屋で俺は1人、ため息をつく。
危ない危ない。なんとか誤魔化せたか・・・。
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