第6話「ソロモンの神殿」①

 テンプル騎士団エルサレム城館、即ち本部は、エルサレム市街地の南東、神殿の丘と呼ばれる場所に位置する、通称・ソロモンの神殿と呼ばれる建物内にあります。テンプル騎士団という名前も、この神殿を本部として使用していることから名付けられたと言うのは有名な話です。かつてエルサレム王国の王宮としても使用されていたこの神殿は、まさに街の中の街、要塞の中の要塞であり、その頑強さと壮麗さはテンプル騎士団の職務と栄華を象徴しています。


 さて、テンプル騎士団のような騎士修道会も、修道会である以上日々のお祈りを欠かす事は出来ません。ですので、騎士団に所属している修道士は皆、戦地にある時など特別な事情を除き、最寄りの聖堂で行われる朝課に始まる8回の聖務日課への参加が、会則によって義務付けられています。心の無いご主人様は、聖祭に参加して何を思うのでしょうか。もしかしたら何も思ってないのかもしれませんが。


 この日いつものように、本部最寄りの聖堂で、ハットー司祭様が執り行った六時課つまり正午の聖祭に参加した後、ご主人様はある人物に呼び止められ、本部の部屋まで1人で来るように申し付けられてしまいました。その人物の名はピエール。被服長官、つまりは修道士に衣服や寝具を支給し、また修道士が"律儀に切り詰めた生活をする"よう監督義務がある役職につく、高級幹部の1人です。修道士として素行が良いとは言えないご主人様は、以前から目を付けられてしまっているのです。


「先日の街道巡回の報告書を見たが、これは本当かね?テンプル騎士団の修道士ともあろう者が、崇高な信仰心の下、はるばる巡礼に来た者に火葬を強要したと言うのは」


 部屋に入るや否や早速始まるお説教。人質を救出し、野盗を退治し、多くのグールと死闘を演じた事についての労いの言葉もありません。


「報告書に書いてある通りです。グールが死体の匂いを嗅ぎつけ無いようにするには、他に手はありませんでした」


「他に手が無ければ、背教が許されるのかね?全く、君は自分が騎士修道会に所属していると言う自覚はあるのかね」


「もちろんあります。ですので、テンプル騎士団の職務である、"生きている"巡礼者の保護を最優先しました」


「いい加減にせんか!この事が世に広まればテンプル騎士団の信用は地に堕ち、被服長官たる私の名誉に傷が付くだろうが!」


 ご主人様の相変わらずの心の無さから来る正論に、ピエール様は怒り心頭のようです。それにしても、ピエール様は結局自分の名誉が一番大事なお方のようですが。


「貴様のような不良修道士にも、相互打ち明けによる償いの機会を作ってやったというのにその態度はなんだ!次回の参事会で告発し、今度こそ"修道院喪失"の罰で追放してやるから覚悟しておくんだな!」


 形だけでも平謝りしておけば良いものを、大変な事になってしまいました。まぁこれが初めてでも無いのですが……

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