第百四十四話 孤児院で検証
「この道具の出番が来たな」
私は腕輪から魔導具を取りだしその場に置いた。屋根がついていて垂れ幕が下ろされたこの道具を子どもたちが興味津々に眺めている。
「何これ何これぇ~!」
「これで何するの~?」
「遊ぶの~?」
ふむ。やはり子どもは好奇心旺盛だな。だがいいことだ。ここで魔導具の素晴らしさを知れば将来優秀な魔導具の造り手にもなれるかもしれない。
「これは御主人様が作成した魔導具【
「「「「「シュタインズシアタ~?」」」」」
初めて聞く道具に子どもたちの目が爛々と輝いていた。子どもの好奇心は馬鹿にできないから。ここでしっかりと起動させて更に興味を持ってもらわないと。
「え~と、これは一体?」
「私も気になる~! 何これ何これ~! 道具って言っていたけどこれも魔導具なの? エドソンくんって子どもなのになんか凄い魔導具作るんでしょう? これもその一つなの? 垂れ幕で隠しちゃって勿体ぶり過ぎだよね? あ、もしかしてエッチな道具だったり――」
「だー! クイックは少し黙っててくれ! あとエッチな道具ではない!」
全く子どもたちの前で何を言っているんだこいつは。
「そんなエッチな道具をこんなところで見せるわけないだろう全く」
「つまり別なところでなら出せるエッチぃ道具があるということですか?」
メイの声にちょっと棘があるような……見てみたけど表情はそんなに変わらないけど、えっとメイさん?
「いや、もちろんそんな道具はありはしないが」
「エッチ~」
「子どもなのに駄目なんだ~」
「エッチぃのは駄目なんだよ~」
「だから違うと言ってるだろう……」
子どもたちからすっかりエッチな子ども扱いされてしまった。そもそも私は子どもではない!
「とにかく始めるぞ。この魔導具は設定した場所で過去に起きたことを再現できる魔導具だ。マザー・ダリア。あの契約書を受け取った日は覚えているか?」
「は、はい。あれは確か……」
マザー・ダリアは記憶力はいい方みたいなので助かった。まぁ覚えて無くても記憶を探る魔導具もあるんだけどな。
さて、マザー・ダリアの話を聞いてメイが設定しくれた。これで後は起動するだけだな。
「それでは開演だ!」
これがこの魔導具の特徴だ。サイズは舞台にあわせて小さくなるが、造りは完璧。これには子どもたちも驚いていた。
「これからぁ~魔導具を使うのですねぇ~」
「いや、もう使ってるぞスロウ……」
スロウは反応が一歩遅いな……さて、子どもたちも魔導具を釘付けになってみている。
そして遂にマザー・ダリアが姿を見せる。ちなみに人物に関してはデフォルメされた物が出てくるようになっている。
「可愛い~」
「これママなの~?」
「凄い凄い~お人形さんみた~い」
子どもたちの反応にダリアも照れ笑いを浮かべていた。そして次に姿を見せたのは――あのドラムスだった。
「あぁ! 悪い奴だーーーー!」
「やっつけちゃええええ!」
子どもたちが興奮していた。ドラムスの不人気ぶりが凄いな。
「――それではこれで」
ドラムスとダリアとの話は終わった。一応一挙手一投足に注目して見ていたが特におかしい素振りはなかったな。
ただ、特定の部分をズームアップすることもできるので契約書も見てみるとする。そこで私は気がついた。
「マザー・ダリア。この契約書を見て欲しい」
「は、はい。えっと――あれ? 内容が違う」
ダリアが訝しげに契約書を見た。そう、この時点では全く内容が異なっていて、契約書と見るなら特に問題のないものだった。利息も特別高くはない、いや寧ろ安いぐらいだろう。
だが、さっき見たものは違った。問題はマザーダリアがサインしたのがすり替わった方になっていたことだ。しかもそれには書面に細工した気配がない。
「マザー・ダリア。この後、なにか変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと……あ! そういえばこの後一度、書類に不備があったので訂正させて欲しいと……」
「それだ!」
間違いなくそれだ。私はダリアに話を聞いてその日に設定し直した。
すると確かにドラムスが再度やってきて、ダリアが言ったように書面に訂正したいと言ってきた。
そしてその後、ドラムスは書面を訂正する振りをして――すり替えた! 確かに書面を別な物に!
『内容は今読んで聞かせたように、些細な変更ですが、念の為もう一度サインを頂いても』
『はい。わかりました』
そして劇場の中ではすり替えた書面にサインを要求し、それに応じるダリアの姿が――それを見て私は頭を抱えた。
「マザー・ダリア、その、何というか、今貴方がサインした書面が完全に別なのとすり替えられていたわけですが、何故これにサインを?」
「そ、それが、口頭で説明されていたのでつい――」
確かにドラムスは口頭で内容を伝えていた。だが、それが全くのデタラメだった。しかしダリアはその言葉を信じてサインし契約を交わしてしまったというわけだ。
「マザー・ダリア。手厳しいようですがもう少し人を疑っても宜しいかと」
「うぅ、ご、ごめんなさい……」
メイが苦言を呈すると眉を落として済まなそうな顔を見せるダリア。ふぅ、とにかくこれで相手がダリアを騙したことはハッキリしたな。
「やはり裏があったな。だけどハッキリした。この契約には不正がある。この魔導具で証明も出来る」
「……御主人様。ですが、あのドラムスはそれを素直に認めるでしょうか?」
「むっ……」
メイの指摘に私も顎を押さえて考える。実はそこは私も危惧しているところだ。この魔導具にしてもこの街では知られていない物だ。
つまり信用ができないと一蹴されて魔導具が決め手にならない可能性がある。それに一番の問題はやはりダリアがすり替えられた契約書に安易にサインしてしまったことだろう。
口頭での説明は全くのデタラメであったが書面には嘘がなかったのだからな。確認不足だと言われると……
ならどうしようもないのか? いやそんなことはない。考えるんだ。
大体、さっきも考えたが何故あいつはそこまでしてここを狙う? 立地条件からみてもそこまでこの場所の価値が高いとは思えない。
「マザー・ダリア。そもそもドラムスは何故ここまでこの場所に拘るんだと思う?」
「……それは、私にもはっきりとは。ドラムス様はお父上から遺産を相続し、ですがドラムス様の話では財産など殆ど残っておらずこのままでは苦しいと……」
財産が殆ど残っていなかった? だが、今日来た時は妙なごろつきも連れてきていた。お金に余裕のない奴の行動じゃないな。
大体だとしたらわざわざこんなまどろっこしい真似をする必要があるのか?
いや、借金そのものを負わせるつもりだった可能性もあるが、だとしても孤児院は裕福ではないし、回収など不可能だろう。その先に奴隷にするという目的があるとしても回りくどすぎる。
なら、可能性としては、孤児院を奪いたくても理由がなければ奪えない状況にある?
つまり……
「ドラムスとここを無償で貸してくれていたという父親で親子の中は良かったのかな?」
「……それが私が直接あったのはコエンザム様の亡くなった後ではありますが、生前子どもについて愚痴を申されていたことが……そしてもし自分が亡くなっても何も遺さないとまで言っていました。その時はきっとわかり会える日もくると宥めたのですが、そういえばその時一緒にこの孤児院についても心配いらないと言ってくれていたのですが……」
なるほど。だとしたらあいつが遺産を相続したという話の信憑性がますます薄くなるな――
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