第八十四話 真の新しいチェス
「何をふざけたことを。今、ガイアク卿がチェスを愉しんでいるところではないか失礼だぞ!」
私がチェスについて口を挟むと、ドイルが眉を怒らせて抗議してきた。だからそのチェスが見てられないから止めさせようとしているんだろう。
「確かにまだゲームが終わってないな。そっちはそれからでも良いだろう」
ガイアクも今はこのチェスに夢中なようだ。だが、それでは困る。
「ガイアク卿、本当にいいのかな? こう言ってはなんだが、このチェスは全く新しいチェスとはとても言えないと私は思うのだが」
「貴様、私の考案した魔導具に文句をつけるのか!」
これを魔導具と言い切れるあたり、いい性格しているなこいつは。
「お言葉を返すようですが、これが魔導具というのはどうかと……あくまで奴隷を使ったチェスというだけではないでしょうか?」
どうやらフレンズも同じことを思ったようだ。確かにこのチェスが魔導具だなんて……フザケた冗談だ。魔導具師が聞いたら怒るぞ。
「ふん、わかっていない連中だ。いいか? 私は隷属の首輪にチェスをやる上で必要な命令をわざわざ組み込んだのだ。それがなければこのゲームは成立しないのだからこれは立派な魔導具だ!」
それは隷属の首輪が魔導具というだけだろうに……。
「ふむ、そもそも私は面白いチェスが出来れば魔導具かどうかなどどうでも良いのだがな」
「はは、確かに本質はそこですな」
ドイルが両手をすり合わせながら媚びるように応じた。くそ、このままではあまりにフザケているチェスという名の横暴が続いてしまう。
「ふん、私は別にこのチェスのことなど気にしてはいない。だが、断言しよう。私からみたらこのチェスは出来損ないだ。私なら真の全く新しいチェスをお見せ出来るぞ。私の考案したチェスと比べれば、この程度の出来損ないな玩具など二度とプレイする気が起きないだろう。それほどに画期的でそして面白い。今すぐにでもやらなければ確実に後悔する程にな」
「貴様、まだそんなことを!」
「ふむ……」
腕を組み、敢えて挑発的な態度を取り断言した。ドイルは当然気分を損ねたようだが、ガイアクは軽く唸り、眼下の奴隷から私に視線を移した。
「……まぁそこまで言うなら試してみるか」
「そ、そんなまだ途中なのに止めてしまうのですか?」
「まぁ良いではないか。もしこやつの言う画期的なチェスがつまらなければ直ぐにでも再開すればよい」
「……ガイアク卿がそう言われるのであれば」
不承不承といった様子ではあったが、ドイルも一旦ゲームを中止させた。
「それで、その新しいチェスはどこにある?」
「……別にどこでも出せるが、私のは部屋の中でも出来る」
「そうか。なら1つ準備させるとしよう」
そう言ってガイアクが使用人を呼んだ。なので私はついでに気になっていたことを口にするが。
「……怪我をした奴隷の治療もしたらどうだ?」
「うん? 何故だ? あの程度の怪我で必要ないだろう」
くそ、やっぱりそういう態度に出たか。予想はしていたがな。仕方ない――私はこっそりと
屋敷の使用人によって部屋が用意された。紅茶や焼き菓子も準備されている。メイドもいるがメイド服はやたら露出度が高い。胸が大きく見目もよいのばかりだ。完全に自分の趣味で決めてそうだな。
「さて、では早速見せてもらおうか。その全く新しいチェストやらを」
「よかろう」
私は腕輪からガイアクの求めているであろう全く新しいチェスを体現した魔導具を取り出す。
「これがその魔導具だ」
「……これは、なんだ? というかどこから出したのだ?」
「魔法のバッグからでもだしたのでしょう。そういうのも扱ってるそうなので」
「何マジックバッグだと? ふむ、なるほどそんなのも、だが、バッグなんて持っているか?」
「それはもういいだろう。それよりこの魔導具に注目してくれ」
これ以上突っ込まれても面倒くさそうなので注目を魔導具に向けさせた。マジマジと2人がそれを見やる。
「なんだこれは? ただのマットではないか?」
「ふむ、確かにマットだな。しかし、妙に弾力がある。変わった素材だな」
素材にはシリコーンの液を利用している。あれは色々と便利だ。私が用意した魔導具もあって量産化も上手くいっているしな。
「ガイアク卿、ごまかされてはいけません。我々が見たいのは全く新しい魔道具です。こんなマットだけ見せられても」
「勿論それはただのマットではない。まぁみていろ」
私がマットに触れると、文字が浮かび上がり、それを見た2人が、いやフレンズもか。随分と驚いている。
「これは何だ?」
「だ、騙さてはいけない。こんな、も、文字が浮かび上がるぐらい」
「後で説明するが、これは色々と設定を変えるためのものだ」
「設定?」
「ゲームのルールだ。そしてこの新しいチェスはなんと最大4人まで同時にプレイ出来る」
「な、よ、4人だと?」
「そうだ。ふむ、丁度4人いるしな。このメンバーでやるとするか。設定は、ま、最初だし平原多めでっと、よし出来たぞ」
設定を完了させ、起動させる。するとマットの上にマップが出来上がった。ようはミニサイズの地形が出来たわけだ。山や川、森や平原が出来上がり、城が4つ構築された。
「な、なんだこれは!」
「これは、チェスなのか?」
「チェスを戦略ゲームと捉えるならな。そしてだからこそ全く新しいチェスと言えるだろう。そうこれが全く新しい戦略性溢れるチェス。チェストラテジーだ」
「ちぇ、チェストラテジー?」
一様に目を丸くさせた。まぁ初見だと驚くのも無理はないか。
「ま、待て待て、流石にこれは、チェスではないだろうこれは。大体、駒はどこにあるのだ?」
「駒は最初はない」
「な、ないだと?」
「駒が無いのに一体どうやって勝負するのだ?」
「落ち着くのだ。私は最初はと言った筈だ。先ずそれぞれが城に指をやり登録するのだ」
私がそう伝え、それぞれが適当に城を決め指で触れた。準備が整うと、城の上に現在の資金が表示される。
「このゲームでは駒をユニットと呼ぶ。そしてユニットは資金を使うことで生み出せる。生み出せる兵は城に触れることでプレイヤーのみが確認できる。様々なタイプがあるから選ぶといい」
そして私はゲームの概要を説明していく。このゲームでは資金を集めそれを使うことでユニットを補充したり、畑を作ったりすることができる。村も作成可能でそれらを利用して資金を増やす。ちなみに最初は基本的な資金がそれぞれのプレイヤーに割り振られているが設定で変化をつけることも可能だ。
こうして少しずつ領地を広げながら最終的に他のプレイヤーの領地に攻め込み打倒していく。
「お、おお! これはワイバーンか、なんてリアルなのだ」
「川も延長できるのか……風もしっかり流れているし時間も流れて夜にもなる、な、なんだこれは……」
そう、このチェスはようは小さな世界を具現化している。ルールはあるし、時の流れも早いが、農地を確保し資金を集め、兵士を雇い戦力を整える。兵士も人型だけではなく魔物タイプも用意してある。ワイバーンもそのタイプでこういったタイプはしっかり空を飛ぶ。海の魔物なら泳ぐ。
こういった兵士の特性を理解して戦闘に挑む。勿論それだけではなく地形も把握し、相手の動きもしっかり見極め戦略を練らなければいけない。
「な、冒険者ギルドを建てたら、やたらとヒャッハーな人間が増えて治安が悪化したぞ!」
「魔導ギルドのおかげで様々な魔導具が作成出来るようになりましたぞ」
「なんだ、と、民が反乱だと! 馬鹿なちょっと税金を100倍にしただけだというのに! 奴隷も反乱? 馬鹿な使い捨ての兵士として肉の盾にしただけだろう!」
ちなみに本人の性格もわりとゲームで反映されそれが失敗につながることもある。しかしガイアクのプレイはまた酷いものだな……。
とは言え、ゲームそのものには随分と興味を持ったようだが――
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