第319話 ドワーフの結婚式

「おぉ……これは、何という上質の寝具だっ! ラウラも大いに気に入っているようだし、これにてドワーフの第三の試験を完了とするっ!」

「なんとっ! この試験を突破した人間が現れるなど、何百年振りの事かっ! ライマー様、良かったですな!」


 ソフィアにドワーフを見せに来ただけなのだが、いつの間にかラウラの父、ライマーさんも来ていて、満足そうに頷いていた。

 どうやら、ソフィアのベッドを第三の試練の寝具だと思っているようだが……まぁいいか。

 優先すべきは、聖銀を剣にしてもらう事だからな。

 後でソフィアに謝り、同じベッドを購入しよう。


「ちょ、ちょっと……このずんぐりむっくりしたオジサンは一体何なのよっ!」

「だから、この人たちが本物のドワーフだってば。ここはドワーフの国なんだからさ」

「……何度も言うけど、ラウラちゃんも本物のドワーフ」


 集まってきたドワーフたちにソフィアが戸惑っているけれど、そんな事お構いなしと言った様子で、


「では、これにて我が娘ラウラとの婚姻を結ぶ為の試練を終了とする。尚、試練を突破したヘンリー=フォーサイス殿を、正式にラウラの夫とする!」

「異議なし! 新たな夫婦に祝福を!」

「おめでとう! ……ラウラちゃん、幸せになってくれよなっ!」


 ライマーさんが大きな声で試練の終了を宣言し、周囲のドワーフたちが拍手したり、号泣したりし始めた。

 そんな中、


「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ! アンタ……こんな幼い女の子と婚姻って、何を考えているのよっ! 変態っ!」

「いや、さっき家でも言ったけど、本当に色々あったんだよ」

「色々って、剣を作って貰う為じゃなかったのっ!?」


 ベッドの上でソフィアが騒ぎだす。

 とりあえず、ドワーフたちに剣を打って貰うため、一旦ソフィアには静かにしてもらおうと思ったのだが、


「ふむ……婿殿。そちらの人間の女性は……どういう関係なのかな?」


 先にライマーさんからツッコミが入ってしまった。


「関係を聞かれると……どう言えば良いんだろうな、ソフィア」


 流石に、パンツを見せてもらうだけの関係とは言えず、ソフィアに尋ねてみると、


「どうしてウチに振るのよっ!」

「……旦那様からは、パンツを見せてもらう仲だと聞いている」

「ちょ……アンタっ! ウチの事を、何て説明しているのよっ!」

「……大丈夫。ラウラちゃんも、毎晩旦那様の相手をするのは大変。順番に夜を過ごす」

「何の話なのよっ!」


 ラウラが割り込んできて、とんでもない事になってしまった。


「なるほど。今日は来ておらぬようだが、前に聞いた五人と同じ様に、その女性と既に婚姻関係にあったのか。ラウラは六番目の妻になると思っておったのだが、七番目の妻であったか」

「……アンタ。前の五人って何!? どういう事なのっ!?」

「いや、だから、色々とあったんだってば」


 ライマーさんが、ソフィアの事まで五人――ヴィクトリーヌ、ドロシー、クレア、プリシラ、ニーナ――と同じ様に、妻だと勘違いし、ソフィアが物凄いジト目で俺を見てくる。

 家に戻ったら、いくらでも説明してやるから、ソフィアは余計な事を言わないでくれないだろうか。


「そちらの女性も、以前に聞いた家族の一人として名を連ねておいて良いか? 良ければ、名前を教えてもらいたいのだが」


 しかし、ライマーさんが余計な事を聞き、


「いや、ちょっと待ってくれ。ソフィアは……」

「ソフィア=ロックフェラーよ」

「って、おい! ソフィア、これはマジな奴だ。土の神様を信仰している国では、本当に俺とソフィアが夫婦になってしまうんだぞ!?」

「……べ、別に良いわよっ! な、何か文句があるのっ!?」


 どういう訳かソフィアが暴走する。

 いや、ソフィアはドワーフの事を舐め過ぎじゃないか?

 そういう意味では、先の五人も似た所があるので強く言えないが。


「ライマーさん、待ってくれ。ソフィアは……」

「うむ。婿殿の六人目の妻として、記入しておいた。さぁ、皆の者! これより、ヘンリー殿と我が娘ラウラの結婚式を行う! 盛大に祝ってくれ!」

「おめでとーっ! 幸せになっ!」


 俺の言葉が掻き消される勢いで、結婚式の話が突如出てきて、前の試練で俺が持ってきた火酒が運ばれて来た。


「さぁ、婿殿。ドワーフの一族になるのだ。ぐっと行くが良い」

「いや、俺は酒なんて飲まな……お、おぃっ!」

「婿殿が持ってきた肴もあるぞっ! 保存食として加工しているが、酒に合うぞ」


 俺は酒なんて飲まないし、飲んだ事も……だが気付いた時には、魚の話を聞いた所で俺の記憶が途切れてしまっていた。

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