第280話 不可解な行動

「親が幼い子供を放って放浪なんてしないだろ。仮に居たとしても、少数であって、多くの親がそんな事をする訳ない!」

「いえいえ。ですが、それがこの国の現実なんです。どうでしょう。私と一緒に最高の国を作りませんか? 可愛い幼女を愛で放題ですよ?」


 ロリコン魔族が敵意のない事を示すかのように、穏やかな表情で両手を広げる。

 きっとコイツの頭の中は、大量の幼女で埋め尽くされているのだろう。

 だがな。俺はロリコンでは無い!

 子供を作る方の行為には興味があるものの、それを幼女生産工場などと表現する奴と手が組めるかっ!


「お断りだなっ! 幼女は何をしても許され、暖かい目で見守る? 違うっ! 子供には親の愛情が必要なんだっ! 親が愛情をたっぷり注ぐ事によって、ユーリヤのように可愛く素直に育つんだっ!」


『ヘンリーさん。途中までは良かったのに、どうしてそこでユーリヤちゃんにスリスリするんですか?』

(決まっているだろ! あのロリコン魔族に見せつけるためだっ!)

『そ、そうですか……』


 アオイが若干引いているのはさて置いて、ロリコン魔族が小さく溜息を吐き、


「では、こちらの提案は受け入れないという事ですね」

「当然だっ!」

「そうですか。それはとても残念です」


 突然ロリコン魔族が俺から距離を置くかの様に、高く飛ぶ。


「逃げるのか?」

「……兄たん、大変。街に魔物の大群が入ってきてる」

「この為の時間稼ぎだったのか!? 姑息な真似をっ!」


 大通りの両側から、雪崩の様に魔物が流れ込んでくる。

 纏めて吹き飛ばしたい所だが、


(アオイ。街を壊さず、魔物だけを倒す魔法で頼む)

『分かりましたっ! 今度こそ任せてくださいっ!』

(参考までに、どんな魔法を使うつもりなんだ?)

『巨大な炎で、一気に燃やし尽くします。こんな魔物群れなんて楽勝ですよ』

(いやそれ、家まで燃えるんじゃないのか?)

『多少の犠牲は仕方ありません! それにらこれだけ大量の魔物が居るんです。どのみち、家の二つや三つ壊れますって』

(最悪家は壊れても良いけど、中に居る人まで燃えるだろっ! 氷だ! 氷の魔法でいこう)


 暴走気味のアオイを止めて、氷の魔法を放つ。


「アブソリュート・ゼロ」


 俺が手を向けた方向に向かって、ゆっくりと街が白色に変わっていく……って、やっぱり家の壁まで凍ってるじゃないか。

 とりあえず炎を止めさせて良かったと考えていると、その様子を見た魔物たちが、わらわらと後ろへ逃げて行く。

 ……って、逃げるのかよ! どうも魔物の動きが変なんだよな。


(アオイ。遅い攻撃だと、魔物が逃げる。反対方向から来ている魔物には、広範囲に攻撃出来なくても良いから、速い魔法で頼む)


 アオイから教えて貰った魔法を使うと、


「ソニック・ブーム」


 突風が巻き起こり、魔物たちと、通りに面する家を吹き飛ばして行く。


(だ、か、ら、周りの家に被害を出すなって言っただろっ!)

『言ってませんよっ! 広範囲じゃなくても良いから速い魔法って言いましたよっ!』

(その前に前提条件で言っただろっ!)


 とりあえず、突風を放った側の通りは、猪型やオオカミ型といった、重心が低い魔物以外はあらかた吹き飛ばした。

 ……家も飛んだけど。

 一先ずこっち側に残った魔物が突っ込んで来ているので、返り討ちにしようとした所で、


「ダメっ! マリアッ! 戻ってきてっ!」


 半壊した家から、幼い子供がフラフラと飛びだしてきた。

 その後ろから、母親と思われる女性が駆け寄り、幼女を抱きしめる。


「マズいっ! テレポ……」


 瞬間移動が誰かに見られるとか、そんな事を言っている場合では無く、突進してくる魔物たちから母子を助けようとした所で、ピタッと魔物たちが止まった。

 そのまま母子を避けるようにして、ゆっくりと慎重に横を通ると、再び俺たちに突撃してくる。


「今のは……なんだ!?」


 余りにも不可解な行動だったので、思わずテレポートの魔法を中断して、魔物たちの動きを観察していると、


「にーに! うえっ!」


 不意にユーリヤから警告の声が届く。

 見上げてみれば、空から――ロリコン魔族から黒い剣の雨が降り、俺たちに……というより、俺たちと母子の間に居た魔物たちへ黒い剣が次々と刺さり、息絶えて塵となる。

 ……魔法のコントロールを誤ったのか?

 一応、俺たちにも剣が降ってきたが、アオイの防御魔法によって防いだ事と、明らかに俺たちよりも魔物に降った剣の方が多い。

 一瞬、ロリコン魔族のミスかと思ったのだが、母子や周囲の建物には、アオイの魔法と違って一切被害が出て居ないので、違うと思われる。

 そこでふと、ずっと引っ掛かっていた、ある嫌な可能性について、ユーリヤに尋ねてみると、


「ユーリヤ。さっき居た魔物って変だと思わないか? 死んだ途端に死体が残らず塵になってしまうんだが」

「にーに。あれ、まものじゃない。にんげんだよ……もともとは」


 あの魔物たちが、元々は人間だという答えが返ってきた。

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