第278話 生涯扶養

 アオイに提示された魔法、アースクエイクを使うと、足元が大きく揺れ出した。

 自分で発動しておいて何だけどさ、これってヤバ過ぎないか!?


(アオイッ! この魔法はキャンセルだっ! これは、街が壊れるっ!)

『キャ、キャンセルなんて無理ですよぉーっ!』


 マジかよ! どうする!? このままじゃ、モヒカンたちだけでなく、無関係な街の人たちまで巻き込んでしまう。


「そうだっ! ラウラ! この揺れから、建物や街の人たちだけ助けられないかっ!?」

「……この魔法を使ったのは、兄たんなのに?」

「ちょっと使う魔法を間違えたんだ! 頼む! 何とかしてくれっ!」

「……完全には無理だけど、出来る」

「本当かっ!?」

「……うん。ところで、兄たん。ラウラちゃんを一生養ってくれる?」

「あぁ、養うから頼むっ!」

「……スウィング・バック」


 ラウラが再び知らない魔法を使うが、何も変わらず揺れ続け……いや、違う。

 この通りだけが揺れているのか!?


「……兄たんの生み出した揺れを相殺させる揺れを作った。けど、流石に発生源となるこの辺は無理だった」

「難しい事は分からんが、一先ずこの辺り以外は大丈夫なんだな?」

「……その通り」

「すまん、ラウラ。助かる!」


 この付近はアオイの魔法で揺れ続けており、通りに地割れが出来て、モヒカンたちが飲み込まれていった。

 一先ず狙い通りではあるのだが、


「……家が崩れるっ!?」

「貴方っ! 家の住人は私とヴィクトリームで助ける。だから、貴方は魔族を!」

「アタランテっ! ……頼むっ! 俺は、アイツを倒すっ!」


 俺のすぐ傍にあった家が倒壊しそうになった所で、すぐさまアタランテとヴィクトリーヌが動く。

 街の人たちの人命を二人に任せ、俺は通りに居る男と一気に距離を詰める。


「くっ……剣も魔法も使えるのか。厄介だな」

「ごちゃごちゃと、うるせえんだよっ!」


 跳んで来た勢いを殺さず斬撃に乗せ、魔族の男に斬りつけると、


「……片腕で済むなら安いですね」


 左腕を犠牲にして俺の剣の軌道を逸らす。


「しまった!」


 刹那の時間だが、体勢を崩した俺の傍で魔族の男が右腕に光を集め、それを……空に放った!?

 魔法の発動ミスか!? ……いや、今はそれよりも、こいつを倒す事だ!

 魔族の攻撃が来なかったので、バックステップで回避行動を取ると共に、そこから身体を回転させて横薙ぎに一閃。

 今度は魔族の胴体を真っ二つにしたのだが……何だ? 魔族にしては弱くないか?

 いや、さっきやられかけた俺が言うのも何だけどさ。

 一先ず、魔族のしぶとさは良く知っているので、真っ二つにした身体をもう一度斬り、更に斬って、念のために炎の魔法で燃やす。

 だが、何故だろうか。

 胴体が二つに斬られているというのに、この魔族はずっと穏やかな表情――何かをやり遂げたような顔をしていた。

 それが不気味で、斬り刻んだあげくに燃やすという、徹底した倒し方になったのだが。


「まぁこれだけやれば、大丈夫だろう。それより街の被害状況の確認だ」


 アタランテたちの所へ急いで戻って状況を聞くと、


「倒壊した家屋は四軒だね。ただ、いずれも住人は助けたよ」

「すまん。ありがとう」

「ただ、家が壊れてはいないものの、怪我をしたって人は居るかもしれないね」

「わかった。悪いが、アタランテとヴィクトリーヌで、手分けして怪我人を探してくれないか? 簡易な治癒魔法なら俺も使えるから治すし、怪我が酷い者が居たら、マーガレットを呼んでこよう」

「了解だよ」


 一先ず壊れた四軒の住人と話し、俺が具現化魔法で仮住まいを提供し、それぞれが希望するだけの金貨を渡して収めた。

 住人たちは、俺の魔法で地震が起こったとは思っていなかったけど、このまま放置は後味が悪いからな。

 ただ、一軒だけ借り住まいを提供していない家がある。


「あの、これからよろしくお願いします」


 一人で住んでいた十一歳の幼女は、俺が保護する事になったから……またノーマにジト目を向けられそうだ。

 それから、アタランテたちが見つけた負傷者を神聖魔法で癒し、一息つく。

 まさか、魔族よりも俺たちの方が被害を出す事になるなんてな。


『だ、だって、ヘンリーさんが強力な魔法を使えって……』

(強力な魔法だなんて言ってないっての。ラウラの落し穴と同系統の魔法をって言ったんだ)

『ですから、同じような魔法を使うのであれば、ラウラさんが使った魔法よりも凄いのを使わないと、大賢者の名折れですよね?』

(幼女と張り合うなよっ! というか、無関係な人達を大勢巻き込む方が、賢者の名折れだろ)


 アオイの言い分? を聞いていると、珍しくラウラが自分で歩いて来て、俺の腰に抱きつく。


「……兄たん、約束。一生養ってね」


 …………アオイーっ!

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