第269話 ラウラの力

 翌朝。

 デジャヴだろうか。目が覚めて最初に視界へ映るのが、ラウラの脚なんだが。

 いつも胸の上で寝るユーリヤは、俺の横にシュゼットが居るからか、横ではなく下へ移動して、脚の間で寝ていた。

 これは……ユーリヤが変な所へ移動してしまう原因、ラウラを本気で何とかしなければ。

 とりあえず、パンツは履かせておいて正解だったが。


「おはようございます。ご主人様、朝です」

「あぁ、おはようノーマ……って、そ、その格好は!?」

「ご、御主人様がこういうのが好みかと思いまして」

「……わ、悪くはないと思うけど、俺はいつも通りのノーマで良いと思うよ」

「か、畏まりました」


 何故だ。何故、ノーマはユーリヤの新たなパジャマとなった、着ぐるみ姿で現れたんだ?

 ちなみに、白いウサギの格好だったんだが、いつも通りメイドさんの格好が似合っているし、着ぐるみよりもそっちの方がエロ可愛いんだけどな。

 不思議に思いつつも一先ず朝食を済ませると、シュゼットをエリザベスに任せ、俺たちはワープ・ドアでハザーラー帝国のシュゼットの小屋へと移動する。

 シュゼット曰く、今日は帝国軍が来る日ではないので、寂れてはいるものの、店も開いているだろうという話だった。

 小屋を出て通りに出ると、


「お、確かに昨日とは違うな。とはいえ、人通りは少ないが」

「……聞いた通り、本当に女性しかいないんだね。それか、老人か子供だね」

「そういう意味では、ヘンリー殿は目立ち過ぎるな。気を付けた方が良いだろう」


 アタランテやヴィクトリーヌの言う通り、街行く人がチラチラと俺を見ている気がする。

 事情を知らなければ、お姉さんが皆俺に好意を持っている! と勘違いしてしまいそうになるが、おそらく心配してくれているのだろう。

 とりあえず、その辺の人に道を聞き、とりあえず酒屋へ行ってみる事にした。


「すまない。火酒というのを探しているのだが、扱っているか? レーヴェリーの街の物が美味しいと聞いたのだが」

「お兄さん。この状況で無茶を言っちゃダメだよ。レーヴェリー産どころか、二流や三流の火酒すら無いよ」

「何故だ? ハザーラー帝国は火酒で有名なんだろ?」

「お兄さんは他の国から来たのかい? 確かにこの国は火酒が有名だけど、酒という酒を帝国軍が全部持って行ってしまったのよ。ここにあるのは、ジュースみたいに弱いお酒だけよ」


 なるほど。街から若い男性だけでなく、酒まで奪っていったのか。

 帝国軍は騎士団のような物だと思うが、最悪じゃないか。

 騎士団は国民を守る為にあり、国民や国の為に剣を振るうと言うのに。

 俺と同じ事を思ったのか、騎士団の副隊長を務めるヴィクトリーヌが顔を歪める。

 とりあえず、ここに火酒が無い事は分かったので、もう一つの要件を済ませたら、街を出る事にしよう。


「では火酒は諦めるとして、この酒を買い取って欲しいのだが、どれくらいになるだろうか」

「葡萄酒ですか? 街へ入る時に、よく没収されませんでしたね。どれどれ……って、ドゥセット産の六十年ものっ!? ……お、お兄さん。これをどこで?」

「いや、家の倉庫に転がっていたんだが」

「こ、これなら通常なら帝国金貨百二十枚にはなるでしょう。ですが、今のこの状況ですので、うちではその半分程度しか出せないかと。ですから、これは御自宅に隠しておいた方が良いと思います」

「んー、じゃあその半分で良いから買い取ってくれ。家にゴロゴロあるから、一本くらい構わん」

「え!? 金貨六十枚もの差額ですよ!? この国の平均月収の二、三倍ですよ!?」


 驚く店主を適当にあしらいつつ、買い取ってもらい、これでようやくハザーラー帝国の貨幣を入手出来た。

 売った酒を、絶対に見つからない場所へ隠すと意気込む店主から、ついでに色々と教えてもらい、役所でアタランテとヴィクトリーヌ、ラウラの身分証も発行してもらえた。

 アガーテとヴィクトーリア、ラーレ……思いっきり偽名だし、身分を示す物は俺とユーリヤの偽名身分証だけなのだが、状況が状況だからと、簡単に申請が通る。

 ちなみに、発行手数料は一人帝国銀貨一枚だった。

 面倒なので、今更兵士から手数料を回収する気にもならないが。


「ところで、ハザーラー帝国の帝都にはどうやって行けば良い?」

「……北東へ向かって街道進めばいつかは着きますが、オススメはしません。この状況ですので、乗合馬車も出ていませんし、馬を借りる事も出来ません。徒歩で行くしかありませんよ?」

「なるほど。わかった、ありがとう」


 役所を出て、教えてもらった通りに北東の門へ。

 全員分の身分証があっても出してもらえなかったので、結局浮遊魔法で壁を越え……身分証を作る必要がなかったと少し残念に思いながら、街道へ。

 暫く街道を道なりに進むだけなのだが……徒歩なので正直辛い。


「あのさ。アタランテとヴィクトリーヌは屋敷で待っているっていうのはダメかな?」

「あ、貴方! どうして私を除け者にしようとするの!? 絶対嫌よ」

「そうだ。我もヘンリー殿の妻として、行動を共にしたいのだ。一緒に行くぞ」


 アタランテとヴィクトリーヌが屋敷で待って居てくれるなら、ラウラを小脇に抱え、ユーリヤをおんぶして高速お散歩で次の街へ行くのだが……ダメか。

 けど、アタランテはともかく、ヴィクトリーヌは走り続けられるだろうか。

 無駄に全員で走る必要なんて無いんだけどな。

 まだ影も形も見えない次の街に向かって、このまま時間を掛けて歩いて行くのは、ちょっと……と思っていると、


「……仕方が無い。ここはラウラちゃんが一肌脱ぐ」


 何もしたくないと宣言し、今も俺の小脇に抱えられたままのラウラが、珍しく声を上げた。

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