第230話 入浴タイム

 遠征初日は特に何もなく、平穏無事に終了した。

 ちなみに、いきなり野宿は避け、夕方頃に見えた小さな村の宿へ一泊する事にしており、それぞれ個室なのだが、当然の様にユーリヤは俺と同じ部屋になっている。

 そして夕食を終えた後、小さな村の小さな宿ならではの問題に直面してしまった。


「あの、申し訳ないのですが、うちの宿にはお風呂が一つしかなくて、男湯と女湯を時間で区切って使って貰っているんです」

「はぁ……それが何か?」

「いえ、今日は他のお客様も居られますので、今の男湯の時間に、そちらの女児と一緒に入られると、その……他のお客様とご一緒になってしまいますが、大丈夫でしょうか」


 大丈夫じゃないな!

 ユーリヤの言動は四歳か五歳くらいだが、見た目は六歳か七歳で、何とも微妙なお年頃だ。

 本人は俺の前で全く気にする事なく全裸になるし、おそらく他の男性の前でも脱ぐだろう。

 ……それは、俺が嫌だ!

 こう父親的心情として、何か許せない物がある。


「それは困りましたね。では、仕方が無いので俺が女湯の時間に入りましょう」

「いやいやいや、お客さん? その発想はどうかと思うんですが」

「え? ダメなんですか!?」

「ダメですよっ! そちらの女児は、一緒に来られていた女性のお連れ様と一緒に入浴していただけないでしょうか。……もちろん女湯の時間に」


 むぅ……ドロシーとプリシラの初対面コンビは確実にダメだし、ニーナとクレアなら、まだニーナの方が出会ってからの時間が長いけど、殆ど一緒に行動していないからな。


「分かりました。じゃあ、部屋で軽く身体を拭いて済ませるので、桶か何かを貸してもらえますか?」

「すみませんねぇ」

「にーに。おふろはー?」


 不思議そうにするユーリヤの頭を撫で、一旦俺とユーリヤの部屋に戻る。

 暫くすると、宿の人が桶を持って来てくれたので、礼を言って、部屋の鍵をしっかり閉めた。


「さてと。ユーリヤ、家のお風呂入ろうか」

「はーい!」


 ユーリヤを抱っこして、屋敷の脱衣所へ直接テレポートすると、突然視界が褐色の何かで埋め尽くされる。

 一体何かと思い、褐色の何かをどけようとして手で触れると、


「ひゃわっ!」


 突然可愛らしい叫び声が耳に届く。

 この声は……イロナ?


「ちょ、ちょっとっ! ヘンリー! いきなり現れて、イロナちゃんの胸に顔を埋めて、その上揉むって、どういう事よー!?」

「あー、ごめんごめん。誰か居るとは思ってなくてさー」

「えぇー。怪しいー。怪し過ぎるー! 絶対に狙ってたでしょ! というか、いつまでイロナちゃんの胸を触っているつもりなのー!? まぁ時空魔法を教え……」

「さぁユーリヤ。お風呂へ入ろうっ!」

「もー! また触り逃げなのっ!?」


 触り逃げって何だよと思いつつ、ユーリヤの服を脱がせ、俺も服を脱いで、


「こ、こらーっ! まだイロナちゃんが居るんだから、脱ぐなーっ!」

「悪い悪い。とりあえず、次にお風呂へ入る人に、少し待っててもらうように言っておいてくれー!」


 イロナに怒られながら浴室へ。

 ユーリヤと俺の身体をお湯で流し、先ずはお風呂の中に入る。

 いつも思うけど、流石は元貴族の別荘だ。

 かなり広いので、俺とユーリヤだけで入ると、泳げてしまう。

 ……ユーリヤに変な事を教えない為にも、決してそんな事はしないが。

 温まったので、ユーリヤの身体を洗っていると、


「あ、御主人様。お背中お流ししましょうか?」

「じゃあ、頼む……って、誰っ!? ……まさか、ワンダ!?」

「はい。えっと、こんな感じですよね?」


 全裸のワンダが浴室に居て、俺の背中を洗いだす。


「……えーっと、俺としては非常に嬉しい状況なんだけど、良いの?」

「良いの……とは?」

「だって、裸……思いっきり見えてるけど」

「それが何か?」


 ワンダが俺の横に顔を突き出し、不思議そうな表情で見つめてくる。

 当然、Dランクの膨らみが思いっきり見えている訳で。

 これは……襲っちゃっても良いという事だろうか。

 けど、すぐ目の前にはユーリヤがいる。

 流石に、そんなシーンを見せる訳にはいかない……だが、勿体無い! どうすればっ!


「あ! そうでした。人間って、異性には裸を見せないんでしたね。いやー、うっかりしてました」

「え? もしかして、ドライアドって普段は裸なの?」

「そうですよ。樹の妖精みたいな存在ですからね、私。ですから、本当はお風呂も必要無いんです。ですが、人間の世界に溶け込むには同じ様な行動を取らないと、変に思われちゃいますから」


 そっか。ワンダって、好奇心が強くて人間の観察をしているんだっけ。

 こんなに可愛い女の子が、普段から全裸で生活しているなんて……いつか、ドライアドの棲む場所へ案内してくれないだろうか。


「あの、物凄く私の事を凝視してますけど……ユーリヤさんは良いのですか?」

「あ……って、ユーリヤは何をしているんだ?」

「えー、だってー、にーにがあらってくれないんだもーん」


 ユーリヤが泡だらけのままなのを良い事に、一人で浴室の床の上を滑って遊んでいた。

 うん、ごめん。謝るから、ジッとしててね。

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