第226話 怪我の功名

「お母さん。最初はどういう所へ行くのが良いと思う?」

「カティ。婿殿に全てを任せておけば良のよ。ただ、互いの相性っていうものもあるし、先ずはそっちを確認するのも良いんじゃないかねぇ」

「そっち? お母さん。それって、どっち?」


 ヨセフィーナさんが実の娘にとんでもない事を吹きこんでいる。

 良いの? そんなノリで本当に良いの?

 ダークエルフの次の長なんだよね?

 冷静に考えると、カティ自身は胸が大きくて、可愛くて、言う事無しなんだけど、ダークエルフの長の娘って所が心配になってきた。

 万が一、ダークエルフを纏めろ……なんて話になったら、俺はお手上げなんだけど。

 そんな事を考えていると、


「うぅ……お兄ちゃん。ルミもーっ!」


 隣の席に座るルミが、くぃくぃと俺の服を引っ張ってきたかと思うと、どういう訳か子供用ドレスの胸元を手で開けている。


「ルミ? 何だ、暑いのか?」

「そうじゃないよっ! カティさんにしたみたいに、ルミの胸にも手を入れてみてよっ!」

「あのな、ルミ。そういう事は、もっと大きくなってからしような」


 カティまでとは言わずとも、ちゃんと膨らんでから言ってくれれば、俺は喜んで手を突っ込むぞ?

 あいにく、俺はAAランクのルミのちっぱいに興味がないからな。

 ただ、お母さんのリリヤさんが立派な物を持っているんだから、ルミだって可能性はあるんだ。今は時期尚早って感じだけど。


「お兄ちゃん! ルミはもう大きいもん! 子供じゃないんだからっ!」

「んー。いやー、早くても後三年は経ってからじゃないとダメじゃないか?」

「三年? わかった! 三年後だね!? お兄ちゃん、約束したからね!?」


 ルミが満面の笑みを浮かべ、テーブルの反対側に座るサロモンさんの所へ走って行き、何かを耳打ちし始めた。

 まぁルミは十二歳くらいに見えるから、三年経てば今の俺と同じ十五歳な訳で。

 十五歳にもなれば、流石に胸も大きくなっているだろう。

 ……まぁソフィアは十四歳でもAランクだけど。


『あの、ヘンリーさん。ルミさんはエルフなので、三年経っても人間に換算すると数ヶ月分くらいしか成長しませんよ?』

(え……何だって!? そうだ。ルミは確か、今で百歳くらいだっけ。だったら三十年後……って、それはそれで、俺が変態じゃないかっ!)


 三十年経ったら、俺が四十五歳でルミが十五歳くらいの見た目……って、父さんが今四十歳だから、傍から見れば今の父さんと同じ事を俺がするって事になってしまう。


『やっぱり血なんですね……』

(違うわっ! というか、父さんはロリコンだけど、俺は断じてロリコンじゃないっ!)


 慌てて先程の三年後という話が俺の誤りだった事を伝えようとしたのだが、ルミとサロモンさんが何やら話し込んでいる。

 ……まぁいいか。三年も経てば、さっきの話なんてルミも忘れているだろ。


『良いんですか? どうなっても知りませんよ?』


 アオイが心配そうに忠告してくるが、三年だぞ? 三年! 三年前の話なんて、絶対覚えてないって。

 それよりも、ヨセフィーナさんがカティと話し込んでいるせいで、皆父さんを放置している。

 とっておきのマジックアイテムが、ヨセフィーナさんに見破られたショックで今は大人しくしているみたいだけど、いつ息を吹き返すか分からない。

 先ずは、そっちを何とかするべきだ。


「クレア、マーガレット! 例の物はどうだ!?」

「お任せください。マーガレットさん協力の元、昨日完成したばかりの、特定人物を排除する結界を生み出すマジックアイテムです!」

「よし! クレア、結界起動!」

「はい、起動します!」


 クレアが持ってきたマジックアイテムを起動すると、俺には何も見えないのだが、突然父さんが一人で見えない壁を触るかのようなパントマイムを始める。


「お? おぉぉぉ? これは何だ?」

「ヘンリー様、成功です。ターゲットの侵攻を防いで居ます」

「へぇ。私たちには影響無しに、特定人物だけを封じる結界かい? やはりマジックアイテムの作成に関しては、エルフよりも人間の方が長けているねぇ」


 カティと何かを喋りながらも、再びワインを飲み続けるヨセフィーナさんに、クレアの作ったマジックアイテムが褒められたかと思うと、


「そうだ。他にもマジックアイテムがあったら見せてくれないかい?」

「はい。オーダーしていただければ要望に合わせて作る事も出来ますし、私が既製品のご紹介も出来ます」

「なるほど。ならサロモンの爺さんも含めて、エルフの村として購入したいねぇ」


 何と取引したいと言ってくれた。

 思わぬ所で本来の目的であるエルフの村との取引に話を進める事が出来たので、怪我の功名ではあるものの、父さんにも花をもたせてあげよう。


「そういう事でしたら、こちらの領主代行も混ぜてもらって良いですか? 既製品の知識はクレアの方が上ですが、マジックアイテムの製作については、かなり詳しいので」


 クレアとエリザベスに、ヨセフィーナさんとサロモンさんが父さん側へ席を移すと、


「皆様、難しそうなお話をしておりますので、甘い物はいかがでしょうか? デザートです。あ、甘さ控えめの物もありますよー!」


 メリッサが様々な種類のパンケーキを運んで来た。

 前に出して貰った、バターにはちみつをかけた物や、クリームとフルーツがこれでもかと乗った物。チョコレートソースがかかっていたり、何段にも重なっている、夢のような食べ方の物まで。


「美味しいっ! 何これっ! このパン、美味し過ぎるっ!」

「私、このフルーツが乗ってるのが気になる……凄っ! この桃も美味しいけど、パン自体が凄く美味しい!」

「じゃあ、私はこっちの黒っぽい、ちょっと変わった豆みたいなのを……あ、美味しっ! この豆は何?」


 デザートには若い女性陣が喰いつき……カティやルミ、ユーリヤも混ざっているけど、メリッサのパンケーキが大人気だ。


「そちらの黒っぽい豆は、アズキを煮詰めた物で……あ、はい。おかわりはまだ沢山ありますので」


 メリッサがパンケーキの説明をしつつ、おかわりを求められて、厨房へと慌てて戻って行った。


「お母さん! 私、ここに住むっ!」

「ダメよカティ。軽い女になっちゃダメ。ちゃんと焦らさなきゃ」

「じゃあ、毎日食べに来るーっ!」


 若干、話題がおかしい人も居るけれど、


「ちょっと、ヘンリー君!? どうして先生まで、そっちに行けなくなっているのよっ! 先生も食べたいのーっ!」


 約一名巻き添えをくらった酔っ払いはさておき、エルフの女性たちの是非にという話があって、マジックアイテムとパンケーキをメインに、エルフの村と取引を行う事となった。

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