第180話 絵に描いた餅?

 状況を完全理解しないまま謁見の間から退出すると、律義にコートニーとクレアが待って居た。

 他の騎士たちの姿は見えないので、既に解散となっているはずなのだが、どうしたのだろうか。


「お疲れ様ですの……って、どうしたんですの? 何だか、惚けた顔をしていますの」

「え? そ、そうなのか?」

「えぇ。心ここにあらず……と言った感じですけど、王様から直々に労いの言葉をいただけたとかでは無いんですの?」

「あー、いや。その通りなんだけど、何て言うか、それに付随する褒美が凄過ぎてさ……」


 とりあえず、コートニーにどうするか相談しようかと思った所で、アオイから待ったがかかる。


『ヘンリーさん。後で詳細を話すから、それまでは領主の話は誰にも話してはダメだと、王女様が言ってましたよ』

(え!? そんな事言ってたっけ?)

『言ってましたよ! 聞いてなかった……んですね。領主と言われて仰々しく捉えてしまっていますが、私やジェーンさんがついていますし、いつも通りいきましょう。何とかなりますよ』

(そ、そうか)


 領主って言葉で、何だか凄い事を想像していたけれど、要はそこそこの土地があって、領民なんかから税金を徴収して、そこから国にお金を納めて……いや、無理だっ!

 俺は剣一筋でやってきたから、商人スキルを持つ信頼出来る人物が欲しい。

 大臣がチラっと言っていたけど、税金って何だよ。そんなの今まで一度も払った事が無いぞ!?


「ヘンリー様? 大丈夫ですか? 私で宜しければ、その……出来る範囲で、可能であればエッチじゃない内容で御相談に乗りますが」

「いや……今は大丈夫かな」

「………………ヘンリー様。先程のメイドには下着を要求しておきながら、私には用事が無いというのは……私に魅力が無いからでしょうか?」


 領主って事は、言い換えると村長みたいなものだろ? 領地に人が住んでいるんだろうし。

 で、何か困った事があったら、領主なんだから何とかしてくれって言われて、それを国に陳述して、何とかしてもらって……うわー、面倒臭そう。


『あの、ヘンリーさん。そちらのクレアさんの話を聞いてあげてください』

(え? クレアが何か言ってた?)

『はい。ヘンリーさんは上の空で、適当に聞き流してたと思いますけど、結構思い詰めてるみたいですよ』


 知らない間に俺が返事をしてしまっていたらしく、気が付けば、ムキになるクレアと宥めるコートニーという状態になっていた。


「クレア。貴方は、エッチな事はされたくないって言っていた気がしますの」

「お姉ちゃんは黙ってて! 命の恩人であるヘンリー様に全てを捧げる覚悟だったのに、私よりもメイドさんの方が魅力的だって言われたんだもん。絶対にヘンリー様を振り向かせるんだからっ!」

「……クレア。ちょっとチョロ過ぎる気がしますの」

「そんな事ないもんっ! それに、お姉ちゃんの胸でも触られたのに、好きにして良いって言っている私には、手を出そうともしないんだもん。おかしいじゃないっ!」

「お姉ちゃんの胸でも……という言葉で、お姉ちゃんは挫けそうですの」

「だって、私もそんなに大きくはないけどさ、それでもお姉ちゃんの胸よりはマシだし」

「……クレア。お姉ちゃん、怒って良いですの?」


 どういう訳か、姉妹ケンカに発展しかかっていたので、流石に止めようかと思った所で、


「お待たせいたしました。ヘンリー、いつもの部屋へ参りましょう」


 フローレンス様がやってきた。

 流石にフローレンス様の前ではコートニーもクレアも口を閉じ、畏まる。

 そして俺もついて行かなければならないので、座らせていたマーガレットを担ぎ、ユーリヤの手を取って、いつもの小部屋へ。

 すると、早速フローレンス様が猫被りモードを取り払った。


「という訳でねー。一日早くなったけど、ヘンリーはマックート村の領主になりましたー! おめでとー!」

「あ、フロウが昨日言ってた二日後に来て……って、この話だったのか?」

「そういう事。マックート村に、ある貴族の別荘があってね。それを明日までに国で買い取るつもりだったんだけど、お父様が有無を言わさず買い取ったの」

「貴族の別荘!? しかも、そこに俺が住むのか!? というか、それ元の持ち主に恨みとかを買わないよな?」

「大丈夫よ。その貴族も殆ど使ってなかったし、そもそもマックート村は、野菜を作ったり酪農をしたりっていう、特産品なんかも無い、のどかな田舎で誰も重要視していなかったし」


 なるほど。十五歳の素人に領主を任せようとするのだから、当然あまり価値の無い場所にするよな。

 まぁその分、気楽にのんびり出来そうだけど。


「ふっふっふ。ヘンリー、今田舎だし、重要視されてないからって安心したわね?」

「え? まぁね」

「違うわよ。私は、重要視していなかったって過去形で言ったの。これから、マックート村は発展してもらうからね」

「いや、そうは言っても、剣はともかく政治や商売なんて、俺には無縁なんだけど」

「ヘンリー。そのマックート村はね、王都から北西に向かって、馬で三日程行った場所にあるんだけど、そこがどういう場所か分かる? この前ヘンリーに教えてもらった、エルフの村と王都の中間地点なのよ」

「それって、つまり……俺にエルフの村と取引をしろって事?」

「ピンポーン。エルフやダークエルフと交流のあるヘンリーにしか出来ない仕事よ。エルフの作った物を仕入れて、王都に運んで売る。エルフはヘンリー以外とは取引しないでしょうから、それだけで村の特産品になるし、効果の高いエルフ製の魔法薬とかが手に入れば、国としても有益だしね」


 どうやら、これはフローレンス様が考えた計画らしく、えっへんと大きな胸を張っている。

 そのポーズを胸の無いユーリヤがマネしていたりするのだが、それはさておき、フローレンス様が考えた計画を実現させるには少し考えただけでも幾つも壁があり……顔には出さないけれど、ちょっとゲンナリしてしまった。

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