第145話 召喚魔法

「少年、やるではないか。あのタイミングで攻撃してくるとは思わなかったぞ。ただ、その程度の魔法であれば、発動した所でワシに傷を与える事は出来んがな」


 サムソンは片手でファイアーボールを防いだらしく、平然と立って居る。


「な、なんだって。まさか俺の……ファイアーボール……が効かないなんて! そんな……ファイアーボール……が。……ライトニング……なら、どうだ?」


 再び会話とみせかけて炎の弾を二発と、風の精霊魔法に属する電撃の魔法も放ってみた。


(アオイ。効果範囲が狭くて、威力の高い精霊魔法って何がある?)

『残念ながら、上位の精霊魔法は効果範囲が広い物が多いので、街中では不向きなんですが……それより、容赦ないですね』

(当然だ。無関係で、戦闘要員ですらない街の人々に危害を加えるような奴に、情状酌量の余地はない!)


 アオイと会話しつつも、煙から目を逸らさずに注視していると、中から人影――サムソンが飛び出してきた。


「少年、見そこなったぞ! 男なら男らしく、魔法などとくだらない物を使わず、直接ぶつかってこい!」


 流石に先程の無詠唱魔法三連続は防げなかったのか、上半身が裸になっている。

 相変わらずダメージを負っているようには見えないが、かなり頭にきているようだ。

 しかし、自分自身を神聖魔法で強化しているというのに、魔法をくだらないって……矛盾しまくりなんだが。

 まぁ確かに、こいつ自身が魔法を使って攻撃はしてこないけどさ。


『待ってください。あの怒りで顔を真っ赤にした状態での、魔法がくだらないという発言……もしかして、あの男は本気で言っているんじゃないですか? 魔法なんて要らないと』

(いや、でも思いっきり身体強化してるだろ。神聖魔法で)

『えぇ。ですが、それが自分で使ったものではなく、誰かが掛けたものだとしたら……少し調べますので、時間を稼いでもらえますか?』


 アオイの依頼に従い、精霊魔法で男を氷漬けにしては、数秒で氷を破られ、土の壁で固めて同様に突破される。

 その度に距離を取って、周囲に被害が出無さそうな大通りで鬼ごっこを続けていくと、


『わかりました! サムソンと名乗る男は、どうやら本当に神様から選ばれた男らしく、伝説級の人物みたいです』


 アオイが想定外の言葉を告げる。


(おいおい。伝説級の人物って、要はジェーンみたいな過去の英雄だって言うのか!?)

『残念ながら、そういう事です』

(だけど、それっておかしくないか!? ジェーンだって、エリーのホムンクルスが無いと実体が……って、待てよ。じゃあ、ホムンクルスみたいな物があって、俺と同じように過去の英霊を召喚する奴が現れたら……)

『えぇ、そういう事です。ですが、それを考えるのは後です。このサムソンは神様から強力な身体強化魔法が半永久的に掛けられており、身体を傷付ける事が出来ません。ですが、その代わりに弱点があります。あの男性にしては長すぎる髪――あれを切れば、神様から与えられた力を失うようです』


 アオイがどうやって調べているのかは知らないが、弱点まで分かるのか。


「ウインドカッター!」


 以前、ソフィアが俺に向けて放った風の刃を放つと、


「……むぅ」


 俺との鬼ごっこで怒り狂っていたサムソンが、一転して真顔になり、初めて自ら後ろへ下がった。

 どうやらアオイの言う通り、髪の毛が弱点というのは正解らしい。


「ジェーン! そいつの髪の毛を狙え! 髪の毛を切られると、こいつは弱体化する!」

「……くっ!」

「逃がすかっ!」


 身をひるがえし、先程までの戦いが嘘のように攻守逆転する。

 だが背を向けて逃げる相手だろうと、俺がやる事は変わらず、風の刃をその背に向けて十連続で放つ。

 元々パワーだけで敏捷性に欠けるサムソンは、四つ目までは避けたものの、五つ目の風の刃で髪が切られ、残り五つの風の刃をもろにくらって、身体に大きな傷を受けて倒れる。


「とどめだ!」


 それから俺は大きく跳び、倒れたサムソンの心臓へ剣を突き刺して……流石に動かなくなった。


(アオイ。先程の英霊の話が真実だとすると、こいつをどうするのが正解だと思う?)

『私が言うのも何ですが、ちゃんと成仏させてあげるのが良いかと。マーガレットさんに来てもらいましょう』


 上手い事を言って一人で戻って来て欲しいとメッセージ魔法で伝え、現れたマーガレットに事情を説明すると、


「ターンアンデッド」


 聖女らしく、サムソンの魂を成仏してくれた。

 だがその直後、サムソンの身体が急激に縮み、人型の小さな何かに変わっていく。

 いや、俺はこれに見覚えがある。


「ホムンクルスか……」


 そこには、少し形は違うものの、エリーと一緒に作ったホムンクルスがあった。


『ヘンリーさん。先程のマーガレットさんの魔法で、このホムンクルスの亡骸から、暗黒魔法の魔力が消えました。あの男の髪を切った時点で神聖魔法の魔力は消失していたので、おそらく暗黒魔法によって魂が召喚されていたのではないかと』

(え? 俺が使う召喚魔法も、暗黒魔法の一種なの!?)

『いいえ。そうではありませんが……待ってください。この亡骸から、僅かながらエルフの魔力が感じられます』

(という事は、このホムンクルスを作ったのはエルフなのか?)

『わかりません。エルフが作ったのだとしたら、もっと強い魔力を感じると思うのですが』


 アオイが亡骸に対して魔力の調査を行っていると、突然そのホムンクルスが黒い炎で燃え上がり、灰すらも残らずに消えてしまった。


「何が起こったんだ!?」

「すみません、わかりませんでした」

「お兄さん、ごめん。私にも何が起こったのか、さっぱり」


 ジェーンとマーガレットが驚き、


『魔法を感知する事が出来ませんでした。かなり強力な魔力で隠蔽されていると思われます』


 アオイすらもお手上げ状態となっていた。

 そんな中で、


「にーに。そこに、へんなのがいるよー」


 唯一ユーリヤが何かに気付いた。

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