第132話 新米ドジっ娘メイド

 見かけは重厚で動き難そうだが、実はそうでもない何ちゃってフルプレートアーマーを着たジェーンと、コートニーが廊下を歩いて行く。

 その後ろをシャロンとユーリヤと共にこっそりついて行くと、すぐ傍でガシャンと大きな音が鳴る。


「あぁぁぁ。ごめんなさい、ごめんなさい」

「オ、オフィーリアッ! 何て事をっ! 申し訳ありませんっ! ほら、早くオフィーリアも拭いてっ!」

「ご、ごめんなさーい!」


 突然細い腕が伸びてきたかと思うと、女の子が二人掛かりで俺のズボンを拭いていた。

 そして、足元には銀色のトレイとカップが落ちており、床が濡れている。

 なるほど。先程の新米メイドが水を零して、俺のズボンが濡れたのか。


「えーっと、ユーリヤは濡れて……ないな? じゃあ、良いよ。こんなの放っておけば乾くからさ」


 ユーリヤもシャロンも濡れておらず、濡れているのは俺だけらしい。

 だったら、放っておいて構わないだろう。


「いえ、そういう訳にはいきません。本当に申し訳ありません」


 二人の新米メイドの内、真面目そうな女の子が一生懸命ハンカチで拭いてくれているのだが、その……一生懸命過ぎて、どこを拭いているのか気付いていないのだろうか。

 しかも膝立ちの状態で、俺の腰近くに女の子の顔があるから、胸元がチラチラ見えているし……こ、これはヤバい!


「あ、あの……ゆ、許してにゃん」

「……オフィーリア。ふざけている場合じゃないでしょ!」

「うぅ……地元では、何かあったらこれで許して貰えたのにぃ」


 水を零した張本人オフィーリアと呼ばれた少女に、真面目そうな新米メイド――真面メイドさんの注意が一瞬逸れた。


「よし、許そう! だから俺の事は気にせず、しっかり研修を頑張ってください」

「えへへ、許してくれてありがとー。……ね、ナディアちゃん。許してくれたでしょー」

「えぇっ、今ので許しちゃうんですか!? 猫だからですか? 猫のポーズが良いんですか!?」


 真面メイド――もといナディアちゃんとやらが、困惑しながら俺と新米ドジっ娘メイドを交互に見る。

 猫メイドも可愛かったけど、ナディアちゃんのせいなんだからねっ!

 俺が大変な事になりそうになったんだからっ!

 ……と、想定外のハプニングに巻き込まれた所で、


「で、ジェーンとコートニーさんは?」


 二人に置いていかれてしまった。


「……多分ですけど、こっちじゃないかと」

「よし。じゃあ、シャロンの勘を信じよう」

「にーに。だっこー!」


 ユーリヤのペースに合わせて歩いていると遅いので、丁度良いタイミングだとユーリアを抱きかかえて歩きだす。

 だが、シャロンが予想した来賓室はハズレで、俺が予想した訓練場もハズレ。

 二人はどこへ消えたんだ!? と暫く周囲を探し回っていると、見知らぬ人たちと共にコートニーが訓練場に向かって歩いていた。

 騎士風の優男が一人と、異様に露出が激しい踊り子みたいな格好の女性が三人、そして性別すら不明な全身鎧の騎士が一人だ。

 訓練場に来たという事は、これから戦闘能力を見るという事だろうか。

 だが、それならば俺の代役であるジェーンはどこに……って、あの全身鎧がジェーンか。

 建物の影から、こっそりコートニーたちの様子を窺ってみるが……しかし、それにしても女性三人の格好は何だ!?

 教会側の人間のはずなのに、胸と腰に僅かな布を巻いただけで、お臍や太ももが丸見えで……けしからん! もっとやれ!


「では、ヘンリー殿の知識や所作については既に確認させていただきましたので、最後に隊長として仲間を率いる実力があるかを見させてもらいます」

「……承知した」

「ですが、先程も聞きましたが、馬上でもないのに、本当にその全身鎧を着たままで宜しいのですか? この後すぐに出撃予定とは言え、それでは動き難いと思いますが」

「……問題無い」

「なるほど。余程自信があると見える。では、私も手加減無しで行かせてもらいましょう」


 優男とジェーンが対峙する。

 どうやら、知識や心構えなどの確認は既に終わってしまったらしい。

 どんな内容が問われたのかは分からないが、やはりジェーンに代役をしてもらって良かった。

 あんな格好で、しかも胸の大きな女性が三人も居たら、俺はずっとそっちを凝視してるよ。

 教会め……こんな罠を仕掛けてくるなんて卑劣な! いいぞもっとやれ!


『ヘンリーさん。先程から、本音がポロポロ零れてますが』

(いや、だってさ。胸はジェーン程では無いけれど、三人とも下乳を露出しているんだぜ!? あの胸を覆う布は、ほとんど紐じゃないか」

『流石に紐は言い過ぎですが、確かに際どいですね。おそらく、対ヘンリーさん用の作戦なのでしょう』

(おいおい、それだと俺だけがエロいみたいじゃないか。あれは、男なら誰しもが掛かる罠だって。別に俺専用という訳じゃ無くて、一般的な男性向けの策だってば)

『どうでしょうねぇ。学校とか宮廷とか、少し調査すればヘンリーさんが女性に弱いって情報くらい、すぐ集められそうですけど』


 三人の女性の胸や太ももへ釘付けになっていると、いつの間にか優男とジェーンが剣を抜き、模擬戦を始めていた。

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