第106話 幼女とお風呂

 ギルドを出ると、既に日が落ちていたので、すぐさまワープ・ドアで寮へと戻る。

 すると、


「主様のエッチ」


 灯りも点けず、真っ暗になっている部屋から、ジェーンの抑揚の無い声が聞こえて来た。

 ……うん。まぁ俺のリクエスト通りだよ。

 ジェーンの事だから、俺が言った通りにお風呂でジッと待っていてくれたのだろう。

 だけど部屋が真っ暗だから、薄らと輪郭が見える程度でしかなくて、ジェーンの声も仕草も、恥ずかしがっている様子はゼロだ。

 違う、違うんだ! 俺の指示が足りなかったのは認めるが、「キャー! ヘンリーさんのエッチ!」と言いながら、慌てて胸を両腕で隠したり、手桶を投げつけて来るくらいの反応が欲しいんだっ!

 まぁそういった事を何一つ言わずにやれっていうのは無茶振りだけどさ。

 だが、まだチャンスはある。

 恥ずかしがる反応が無いのであれば、作りだせば良いんだ。


「ライティング」


 光を生み出す魔法を使い、部屋を明るくすると、


「主様、皆さん。お帰りなさい」


 先程まで大きな双丘の輪郭が湯船にあったはずなのに、いつの間にか消えていて、鎧を脱いだ普段着のジェーンが立って居る。

 何故だ!? 一体、どうなっているんだ!?


「ジェーン。ほんの数秒前までお風呂に入っていなかったか?」

「いいえ。入って居ませんが」

「え? で、でも俺は確かに暗闇の中でジェーンの影を見たし、リクエスト通りの台詞も聞いたんだけど」

「残像です」

「はい?」


 残像!?

 あのお風呂に入っているように見えたあの影が!?

 というか、残像って何!? 残像でそんな事出来るの!?


「にーに、まぶしー」

「あ、ごめん」


 ユーリヤに言われて光量を落とし、それぞれ就寝準備を始める。

 今日はあれだけ食べた訳だし、夕食はもう良いだろう。


「ジェーンはもうお風呂を済ませた……んだよね?」

「はい、お先にいただきました」

「じゃあ、アタランテとマーガレットがこの風呂を使うとして……だ」


 既に答えは想像が出来ているが、一応聞いてみる。


「ユーリヤ。ジェーンお姉ちゃんに身体を洗って貰おうか」

「やだー! にーにがいいー!」


 うん、分かってた。

 この部屋の風呂だと、エリーの家での風呂と同じ事になるからな。

 さて、どうしたものか……そうだ。


「じゃあ、ユーリヤは俺と一緒に寮の風呂へ入ろう。姿を消す魔法を使ってユーリヤを他の人から見えなくするからね」

「うーん。わかんないけど、にーにといっしょならいいよー」


 今回はユーリヤと一緒に入る事にしてみた。

 よく考えたらユーリヤは子供だし、女の子だからとか裸だとかを、変に気負う方がどうかしているんだ。

 膨らみやくびれも無いのだから、気にせず洗ってしまえば良いんだ。


『へ、ヘンリーさん! つ、ついに禁断の道へ足を踏み入れるんですか!?』

(何の事だ?)

『だ、だって、幼女と二人っきりでお風呂に入るんですよね!? 幼女の身体をヘンリーさんが洗うんですよね!?』

(まぁ、そうなるけど、何か問題があるのか? 相手はユーリヤだぞ?)

『ですが、ユーリヤちゃんと一緒にお風呂へ入るのが、ヘンリーさんですよ!? 万が一の事があったらと思うと……』

(あるかぁぁぁっ! 俺はロリコンじゃないって言っているだろっ!)


 とはいえ、じゃあルミと一緒にお風呂へ入るかと言われれば、無理だ。

 見た目はユーリヤよりも少し大きいくらいだが、リリヤさんの影響なのか、妙にマセているというか、変な知識があるからな。

 その点、見た目も幼く、中身は更に幼いユーリヤだ。万が一の事態すら起こらないだろう。


「じゃあ、ユーリヤ行こうか」


 着替えなどを準備して、ユーリヤを抱っこすると、そのユーリヤに姿を消す魔法を使用する。


「貴方……ここで一緒に入れば良いと思うのだけど」

「いや、ここだとエリーの家みたいになるだろ? 今日はゆっくり入りたいんだよ」

「えー、だけど今日は……って、ちょっと貴方っ!」


 何故か不満そうなアタランテはさて置き、いざ風呂場へ。

 この時間なら誰も来ないと思われるし、具現化魔法で作った風呂より広い。そして何より、他の男子生徒が入って来る可能性が完全にゼロではないため、マーガレットやアタランテは入って来ない。

 うん、完璧じゃないか。まぁ他の生徒が入りそうな時間は避けないといけないが。

 脱衣所で服を脱ぎ、見えないユーリヤの見えない服を手の感覚だけを頼りに脱がせると、お風呂へ。

 案の定誰も居なかったので、身体を洗い易いように、ユーリヤの姿を消す魔法を解除する。


「ユーリヤ、おいでー。先ずはお湯で身体を流すんだ」


 手桶でユーリヤにお湯を掛けて……って、猫の毛だらけだな。

 これは先に身体と頭を洗っておくか。


「ユーリヤ、やっぱり先に身体を洗おうか」

「はーい!」


 適当な椅子に腰かけると、ユーリヤが俺の膝の上に腰掛ける。

 ご飯を食べる時とか、こんな感じで俺の上に座って食べたりするけど、共に裸でこれは……いや、気にする方がおかしいんだ。

 相手は子供、相手は子供……しかし、髪の毛は柔らかいし、この年齢でも腰からお尻に掛けては女の子っぽいし……って、だから違うんだぁぁぁっ!


『ヘンリーさん。誰も何も言っていませんが』


 アオイに突っ込まれつつ、何とかユーリヤの身体を洗い終えたのだが、結局部屋でぐったりする事になってしまった。

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