第62話 VSスライム(中級)

 宝箱のトラップ――ミミックを過ぎた後、小さな人形が襲ってきたり、ショートソードが宙に舞って襲ってきたりと、魔法生物のオンパレードだ。

 いずれもスライムと違ってちゃんと攻撃力があるので、真面目に戦う必要はあったけど、強くは無い。

 俺の剣とアタランテとルミの弓矢でサクサクと倒してきた。

 マーガレットは……うん。触れないでおこう。


「ひゃっはー! 悪しき魔法で生を得た者どもよ。この聖女マーガレットが成敗してくれるっ!」


 彼女は、一体何がスイッチになったのか、メイスを片手に先陣を切って魔法生物を倒しまくっている。

 アレかな。小さな人形がポルターガイスト――悪霊――っぽかったからかな?

 退魔を得意としていると言っていただけに、悪しき存在が許せないのかもしれない。

 ……そういえば、教会の神父さんたちも、ゴーストが近くに居るって分かったら、狂ったように豹変していたな。

 マーガレットも、その手の職業病なのかもしれないので、そっとしておこう。


「お兄ちゃん。道が分かれているよー。どっちへ行くー? ルミは何となく、右が怪しいと思うんだけどー」

「貴方。私の勘が左だと告げて居るわ」


 そうそう。さっきのアタランテのおっぱいとルミの太ももを間違えてしまった事件以降、戦闘中を除いてルミがずっと俺の右手を握り、対抗するかのようにアタランテが左腕に抱きついている。

 もう、俺にどうしろと言うのか。


『ヘンリーさん。気を付けてくださいね。ここは選択を謝ると、一気に修羅場となりますよ』

(何でだよっ! あー、もう面倒だっ!)


「マテリアライズ」


 またもや具現化魔法でクレイモアもどきを作り出すと、地面に立てて手を離す。


「お、左に倒れたな。じゃあ、左へ行くぞ」


 どっちから来たかが後で分かるようにして剣を地面に刺し、再び進む。


「お兄ちゃん。また道が分かれているよー。ルミは今度こそ右へ行くべきだと思うんだー」

「貴方。今回も左へ行くべきよ。私の勘に間違いは無いもの」

「おーけー。マテリアライズ……じゃあ、次は右な」


 アタランテもルミも何か言いたそうだが、分岐が現れる度に問答無用で剣を作りだしては倒し、


「あ。お兄ちゃん。三階層への扉だよ」


 二階層へ入った時と同じような扉が現れた。


「よし。一先ず今回はここまでにしておこう。途中に刺してきた剣を辿れば、分岐で迷う事は無いし、明日は荷物を持って三階層の入口まで来よう。この先で拠点作りだ」


 そう告げて、先程通って来た道を引き返して行くと、行かなかった分岐の先に居たのか、魔法生物の群れが居る。


「へっへっへ。悪しき生物どもよ! 皆殺しだぜっ!」


 マーガレットさんや。仮にも聖女がその台詞はどうなのだろうか。

 動く熊のぬいぐるみ――魔法生物の群れをマーガレットがメイスで吹き飛ばし、討ち漏らした奴を剣で斬っていく簡単なお仕事を終え、再び歩きだす。

 まだマーガレットが敵を探してキョロキョロしているのだが、このバーサーカー状態はどうやったら治るのだろうか。

 この状態のまま暫く歩き、アオイが罠に気付いて踏まないようにと言っていた場所へと戻って来た。


「マーガレット。そこの剣を刺している場所は、ちゃんと避け……」

「え、何?」

「マーガレット!」


 そこは踏むなって言っただろうがっ!

 その言葉を口にする前に、ガコンと何かが動く音が上から聞こえ、ドサドサっと何かが落ちて来た。


「お、おい、マーガレット。大丈夫か!?」


 慌ててカンテラで照らすと、ピンク色のネバネバした物が大量にマーガレットに付着している。


「……って、これはスライムか」


 スライムだから大した事が無いと一瞬安堵したものの、とにかく量が多い。

 それにピンク色のスライムなんて聞いた事が無いのだが、普通のスライムとは何か違うのだろうか。

 突然の事に驚いたのか、マーガレットがバーサーカー状態が解け、動かずに惚けているので、皆で付着しているスライムを手でとっては捨てていく。

 普通のスライムよりも粘着力が強いので、鷲掴みにして引っ張るのだが、


「……ひゃぁっ!」

「あ……今のはスライムじゃなくて、マーガレットの胸か。悪い」


 スライムよりも大きくて柔らかい物を掴んでしまった。


『ヘンリーさん。今のはわざとですね? いくらスライムとはいえ、毒を持っている相手に何て事を』

(違うわっ! 流石にこの状況で、そんな事しないっての! ……って、ちょっと待った! 毒を持っている!?)

『はい。ピンクスライム――別名エロスライムじゃないですか』

(エロスライム!? な、何だそれ!?)

『あれ? ご存知無かったんですか? ヘンリーさんの事だから、エロと名の付く物は全て把握されているのかと』

(いや、知らないっての! それより、どういう毒なんだ!? 俺、素手で掴んでいるけど、大丈夫なのか!?)

『男性には効果が無いですし、そもそも命に関わる様な毒ではないので大丈夫ですよ。それにマーガレットさんも、毒の耐性があるのか、あまり影響は無さそうです。ですが、アタランテさんが思いっきりピンクスライムの毒を受けちゃってますね』

(何だって!? で、どういう毒なんだ!?)

『ピンクスライムは、その体液に催淫効果を含んでいるんです。皮膚に付着した時点で体内に吸収されてしまうので、神聖魔法で解毒すればお終いです』


 神聖魔法で解毒出来るって言っても、その神聖魔法が使えない場所なんだが。


「アタランテ。このピンクのスライムは毒を持っているらしいから離れ……って、アタランテ? 大丈夫か!?」

「お兄ちゃん。何だか猫のお姉ちゃんの様子が変だよー!」

「……ルミは何ともないのか?」

「ルミ? ルミは……な、何ともないよ?」


 エルフだからか、それとも子供だからか。一先ずルミは軽微というか、大丈夫らしい。

 大急ぎでマーガレットから二人を離してスライムを剥がし終えたのだが、アタランテの息が荒く、顔が赤い。

 そしてアタランテが熱っぽい瞳でこっちを見つめてくるのだが、ちょっと屈んで、胸元を見せつけるようにしていると思うのは、俺の気のせいだろうか。

 アタランテがそのまま四つん這いになって、俺の顔を見詰めたまま、挑発するようにペロりと舌舐めずりをする。

 うぉ……エロい。

 じゃなくて、このまま放っておくと、きっと嬉しい事に……もとい、ルミの教育上良くない事になってしまう。

 これは是非とも、皆の前ではなく、二人っきりの時に使わなければ。


「とぉっ!」


『……ヘンリーさん。どうして、投げ捨てたピンクスライムを改めて斬って、しかも荷物袋へ入れたんですか?』

(いや、魔法生物とはいえ、一応魔物みたいな存在だろ? 何かの素材になるかなーっと思って)

『……絶対、エッチな事に使う気ですよね?』

(いやいやいや、俺はただ純粋に素材として無駄にしないようにって思っただけなんだってば。洞窟を出た後で空間収納魔法を使って保存しておくだけだよ)

『他の魔法生物は倒しても放置してたのに……って、そんな事より早くアタランテさんを解毒してあげてくださいよっ!』


 おっと、そうだった。

 エロスライムの毒を受けたアタランテを、どうやって洞窟の外へ連れて行くかを考えなくては。

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