第24話 神聖魔法と魔物討伐

「ブレッシング!」


 アオイに教えてもらった神聖魔法の一つ、光の神の祝福により身体能力を高める強化魔法を使用する。

 自分では筋力や耐久力が上がったという実感は無いが、淡い光を身体に纏っているので、何かしら強化されているのだろう。

 強化魔法を信じて、巨大な熊の魔物を前に両手で愛剣を握りしめる。


「GUAAAAAAー!」

「ハァァァッ!」


 突進してきた魔物に向かって全力で剣を振り下ろす。

 だがタイミングは合っていたはずなのに、手ごたえが無い。

 まさか、避けられたのか!?

 一瞬そう思ったのだが、結果は違って、もっと悪い。

 俺が手にしていた剣が――長年使ってきた愛剣クレイモアの刀身が、根元から折れていた。

 見た目は大きいだけの熊なのだが、神聖魔法で強化された攻撃が効かないなんて、どれだけ硬いのか。


『ヘンリーさん! 危ないっ! 避けてくださいっ!』


 アオイの言葉で我に返ると、一瞬の判断で折れた剣を捨て、目前に迫る熊の剛腕を右腕で殴りつけて攻撃を逸らす。

 決して軽い攻撃ではなかったが、防ぐ事は出来た。


(そうか、なるほどな)

『ヘンリーさん? ど、どうしたんですか!?』

(いや、俺の剣を折る程硬い魔物だが、神聖魔法で強化されているからか、素手で殴りつけても俺の腕は痛く無かった)

『まぁ、先程使用したのは身体強化の魔法ですからね……って、まさかヘンリーさん!?』

(そう。そういう事だっ!)


 両脇をしっかりとしめ、身体をかがませるようにして熊にダッシュで近づくと、迫り来る腕を弾きつつ、その腹を思いっきり殴りつける。


「――!?」


 魔物が声にならない悲鳴をあげ、身体がくの字に折れた。

 いける。神聖魔法で強化されていない剣は折れてしまったが、強化されている俺の腕は、この魔物にダメージを与えられる!


 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る……。


 ひたすらに魔物の腹を殴っていると、ピクピクと大きな身体を痙攣させ、俺に向かってゆっくりと倒れてきた。

 なので、数歩下がって魔物の頭が丁度倒れて来る場所へ移動すると、倒れて来るタイミングに合わせ、


「オラァッ!」


 全力で殴り飛ばす。


――ゴスッ!


 ……あ、魔物の首から上が消えた。


『ヘンリーさん。私、大型の魔物を素手で殴り倒す人なんて初めて見たんですけど』

(いやー、アオイの神聖魔法は本当に凄いな。剣で斬れなかった相手を殴り飛ばせる程に強化されるなんて)

『いえ、今のは神聖魔法というより、ヘンリーさんが無茶苦茶なだけだと思うんですけど』

(……しかし、それにしてもだ。剣を折る程の強度の魔物か。流石は大型と言った所だな。とりあえず、新しい剣をどうやって調達しようか)

『あの、ヘンリーさん。さっき折れた剣は具現化魔法で作りだした剣ですので、調達も何も、もう一度作りだせば良いじゃないですか』

(あ、そうか。今のは本物の剣じゃなかったんだ。じゃあ、次はもっと頑丈な剣をイメージすれば良いのかな?)


 初めての大型の魔物との戦いで、アオイと共に振り返りを行っていると、エリーと共にジェーンがやってきた。


「主様。驚きました。まさか剣を捨て、拳でこれ程の魔物を倒してしまわれるとは」

「いや、うん。流石に剣が折れた時は俺も焦ったけどね」

「そうですね。主様の早過ぎる剣速で、まさか剣の方が折れるとは予想も出来ませんでした。これは、相当丈夫な剣を探さないと、主様が本気で振れませんね」

「そうそう、予想出来ない……って、ちょっと待った。剣速で剣が折れた!?」

「はい。奥方様と共にしっかりと戦いを見ておりましたが、魔物に当たる前に刀身がひしゃげておりました」


 あ、あれ? てっきり魔物が硬くて剣が折れたと思っていたんだけど、違うの!?

 というか、やっぱり神聖魔法が凄いんじゃないか。全力で剣を振り下ろしただけで折れるようになるなんて。


「ハー君、無事で良かったぁ!」

「エリー! 大丈夫だったか?」

「うん。あんなに大きなクマさんが出て来たから、怖くてちょっとだけ出ちゃったけど。だから、下着以外は大丈夫だよー」

「……そ、そうか」


 ダメだ。これは触れちゃダメな奴だ。

 というか、女の子がそんな事を言っちゃダメだよっ!


「ジェーンちゃんは大丈夫だった? ママは、パパが守ってくれるって分かっていても、あの見た目と叫び声で気絶しそうになっちゃったよ」

「わ、私は大丈夫です」

「そうなんだー。ジェーンちゃんも凄いんだねー」


 だから、女の子にそういう事を聞くのはやめような。

 まぁジェーンは英雄と呼ばれて居たらしいし、修羅場も沢山くぐってきているだろう。

 ある意味、エリーが普通の女の子らしいのかもしれないが。

 そんな事を考えていると、エリーがもぞもぞと下半身を触りだす。


「ハー君。ちょっと待っててね。濡れたパンツがちょっと気持ち悪いから、もう脱いじゃう事にしたからー」

「ストーップ! 今日の探索はこれまでっ! よし、急いで帰るぞっ!」

「え? でもエリーのパンツ……」

「脱がなくて良いから! すぐに家まで送るから!」


 女の子のパンツは見たい。だが、それ以上は俺の身体がもたずに、出血死してしまうよっ!

 大型の魔物が出る様な場所で、血が足りずに動けなくなったら、それこそ本当に死んでしまう。


(アオイ。確か、瞬間移動する魔法があるって言っていたよな。テレポートだっけ?)

『その通りですが、テレポートの魔法はヘンリーさんと、自身が持ち運べる物しか移動出来ないんですよ』

(えぇっ!? マジで!? 瞬間移動で帰る事が出来ると思って、こんなに奥まで来たのに。どうしよう。流石に女の子二人を両脇に抱えるっていうのはな……)

『大丈夫です。テレポート程発動が速くありませんが、全員で帰れる魔法があります』

(そうなのか? じゃあ、是非そっちを教えてくれ。先ずは、エリーの家だ)


 アオイに新たな移動魔法を教えてもらった俺は、テレポートと同じように行き先を頭に思い描き、使用する。


「ワープ・ドア」


 目の前に現れた扉を開いて中へ入ると、昨日泊めてもらったエリーの部屋に出て来た。


「うわー。ハー君、凄い魔法を使えるんだねー」

「はっはっは。まぁね……って、良く考えたら、この魔法を使えば普通にジェーンを連れて寮に帰れるな」

「えぇっ!? 今日はエリーのお家に泊まっていかないの!?」

「流石に毎日お邪魔する訳にはいかないだろ。とりあえず俺とジェーンは寮へ帰るよ」

「じゃあ、エリーも! エリーもハー君のお家に行くー!」

「いや、家じゃなくて寮だから。それに、一人部屋だから狭いしさ。というか、それよりエリーは早くパンツを履き換えなよ」

「あ、そうだった。じゃあ、お気に入りのピンクのパンツにしよー……」


 エリーが白い棚へ向かった所で、こっそり移動魔法を使用し、ジェーンと共に寮へと帰る。

 エリーの下着がどこにあるか分かった事だし、機会があれば漁らせてもうとして、とりあえず今日は俺も休もう。


『あの、ヘンリーさん。人の家の……しかも女の子の部屋で下着が入っていると分かった上で棚を漁るのはどうかと』


 しまった。俺の完全犯罪の計画がアオイにバレてしまうなんて!

 苦笑いで誤魔化しつつも、疲れていた俺は、すぐに就寝したのだった。

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