英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~
向原 行人
第1章 召喚魔法と大賢者
第1話 騎士になりたかったのに召喚士
騎士になるための士官学校。
俺は基礎学校を卒業した直後、すぐに士官学校へ入学し、ずっとトップクラスの成績を維持してきた。
そのために、元より得意としていた剣の訓練はもちろん、武器が使えない状況に陥った時にでも戦えるようにと体術を身に付け、騎士になる事が出来たら即戦力となれるようにと馬術も学んだ。
最終学年となる三年の春には、見学に来ていた騎士団長から、うちの騎士団へ来いと直接声まで掛けて貰った。
俺は士官学校を首席で卒業し、騎士になって、この国の平和を守る為に尽力するつもりだった。
だが、そんな俺の努力をあざ笑うかのように、俺の目の前で銀色のカードが静かに浮かんでいる。
「……召喚士……だと!?」
白い箱から飛び出たカードを引っ掴み、穴が開く程凝視してみたが、剣士でも戦士でも闘士でもない。
何度見ても、書かれているのは召喚士という金色の文字だ。
「ヘンリー=フォーサイス君は召喚士か。……君には期待していただけに、私も残念だよ」
「ま、待ってください。教官、これは何かの間違いです!」
「間違い? 神に仕える聖職者が用意した、この神器がか?」
「う……すみません」
「まぁ、いい。信じられない気持は分からないでもない。とにかく、君の今後については後で話そう。……次、ジェイムズ=コンラッド君」
召喚士……その名の通り、どこか別の場所から何かを呼び寄せ、その力を使役する魔法系クラスの一つ。
正直、俺が召喚士について知っているのは、その程度だ。
物心が付いた頃から剣を握っていて、同年代に剣の腕で負けた事など一度も無かった。いや、剣に限らず武器を使わない喧嘩にだって負けた事は無い。
弱きを助け、強きを挫き、もしも俺が生まれた時代が違えば、かつて世界を震撼させたと言う魔王討伐にさえ志願するつもりだったというのに、よりにもよって召喚士のクラスを引いてしまうとは。
『クラス』は生きていく上で、非常に重要な指針で、これによって修得出来るスキルや、成長する能力に大きく影響する。ちなみに、十五歳の誕生日を迎えた月末に自分のクラスを判別する伝統で、これまでの生き方や、生まれ持った資質によって決まるらしいのだが、魔法など一切使えないというのに、召喚士の要素が俺のどこにあったのだろうか。
俺の予定では、剣聖や剣豪などといった剣を扱う上位クラスを引き当て、卒業までの数ヶ月の間に剣のスキルを修得。そして卒業直後から騎士団で大活躍するはずだったのに。
「……君。ヘンリー=フォーサイス君。聞いているのかね?」
「……あ、教官! すみません。えっと、俺の今後の事ですよね?」
いつの間にか十数人居た学生たちが居なくなっていて、クラス判別の儀を行う教会は俺と教官の二人きりとなっていた。
元騎士であり、担任でもある中年ながらも精悍な顔つきの教官が、普段の厳格な顔からは想像も出来ない、悲しそうな表情で俺を見つめてくる。
「ヘンリー=フォーサイス君。こういう結果になってしまったが、気を落とすな。クラスは召喚士でも、生きていればきっと何か良い事がある。一先ず、今すぐ転科手続きを取ろう」
「ちょ、ちょっと待ってください。転科手続きって、何の事ですか? 俺は、このまま騎士を目指します」
「無理だ。君も騎士団の入団条件は知っているだろう」
「……十五歳以上で、士官学校を卒業している事。いずれかの戦闘系クラスである事」
「そうだ。騎士の仕事といえば、剣と盾を手に国や国民を守る事だ。魔法系クラスに盾は使えん」
「ですが、俺は昔から身体を鍛えています。召喚士でも剣や盾は手に取れます」
そう。召喚士になったからと言って、今まで扱っていた武具が使えなくなる訳ではない。
剣だって使えるし、身に付けた体術で素早く動く事だって出来る。もちろん盾だって使えるさ。
「今はな。だが、それ以上成長しない。半年もすれば同年代の戦士系クラスの者に置いて行かれるだろう」
「それは努力でカバーします」
「適性クラスか否かというのは、努力でどうにかなるものでは無いのだよ。そもそも、今の君では入団テストすら受ける事が出来ない。入団条件を満たせないからな」
改めて現実を突きつけられ、何も言い返せない。
クラスは誰でも容易に調べる事が出来て、かつ偽装が出来ないので、教官の言う通り門前払いになるだろう。
「悪い事は言わん。今すぐ魔法科へ転科し、魔法の腕を磨け。そして、宮廷魔術士を目指せば良いだろう。騎士が守りの要なら、宮廷魔術士は攻撃の要だ。平時は何も無いが、いざという時は宮廷魔術士の出番になる」
「……召喚士で宮廷魔術士にですか?」
「そうだ。召喚士は魔法系クラスだから、宮廷魔術士の条件は満たすはずだ」
「……言いたくは無いですが、最もハズレで使えないと言われている召喚士でですか?」
「そこは努力でカバーするのではないのかね? ヘンリー=フォーサイス君」
「そ、それは、剣の話で……」
「剣でも魔法でも努力する事に変わりはないだろう。だったら現実を見据えて、今から魔法の腕を上げる努力をすべきだ。以上」
こうして今まで剣に生きてきた俺は、今日を境に魔法の道へ進む事になってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます