《 第一の射殺事件 》 2・3

               2


 七月十四日 午前六時


 目撃者探しがはじまった。事件が起きたのは昨日の午後三時四十分。観光地だけあって、朝から行動する人も少なくない。強羅駅の駅前を重点的に、目撃者を探しはじめた。

 佐藤さんの足取りは、朝九時から小田急線小田原駅を始点にはじまった。ご家族への聴取も同じく朝九時からはじめられた。



 同日 午後六時



 捜査第一課10係係長の田辺警部のもと、二回目の捜査会議がはじまった。聞き込み等で解かった状況を報告しはじめた。


 田辺警部は、こう聞いた

「ご家族の聞き込みはどうでしたか?」


 10係の酒田巡査部長は、聞き込みの結果を報告した

「はい。当日の予定を奥様のみどりさんに、聞いてきました。」

 つづけて

「当日の行動は、朝六時に起きて朝食を摂って、朝七時過ぎに家を出たそうです。目的は、箱根で日帰り温泉を楽しむことだったそうです。」


「強羅も行く予定に入っていたのですか?」

「どこをどう巡って観光するかは、ご家族でも知らなかったそうです。帰宅予定は、午後八時頃と言って、家を出たそうです。」


「朝七時頃に家を出たら、箱根湯本駅には何時の予定ですか?」

「はい。ご自宅から順調に行って、朝九時頃、箱根湯本駅に着きます。」

 と、酒田巡査部長は、報告した。


 田辺警部は、足取りついて聞いた

「小田急線小田原駅からの足取りは、わかりましたか?」


 10係の新城巡査部長を筆頭に複数の捜査員が、小田原から箱根登山電車に乗り、強羅駅までの各駅と周辺の各施設に聞き込みをおこなってきた。


 新城巡査部長は、次の通り報告した

「はい。朝九時に、小田急線小田原駅から開始をしましたが、観光客の多さから、お客さん一人一人までの顔を覚えている人がいなくて、現在の所、どこに立ち寄ったかは判っていません。」


 田辺警部は、つづいて

「次に、犯行時間の目撃者探しはどうでしたか?」


 10係の永井巡査が、報告した

「朝の六時から、強羅駅周辺で目撃者を探しましたが、見つかっていません。そして午後三時頃から、現場で聞き込みをしました。地元の人にも聞きましたが、気にして歩いていなかったという返事ばかりでした。また、観光客に、昨日の行動を聞いてみましたが、今日箱根に来たという人々ばかりでした。」


 次に、本部鑑識課の山辺課長が現場鑑識の追加情報を報告した

「現場を見てあらためて気になったのは、どこから発砲されたものなのかが、解からないということです。また、薬きょうが見つかっていません。昨日から探していますが。いまのところ、見つかっていません。ですので、銃はリボルバータイプのものだと考えられます。」


 田辺警部は、こう聞いた

「発砲された場所が判らない?」

「司法解剖の結果を参考に、発射場所の特定を急いだのですが。」


「犯人が立っていた場所も特定できないということですか?」

「現在の所、不明という結論になってしまいます。」


「不明ですか。」

「はい。」


「明日も、現場での確認作業をお願いします。」

「はい。」

 と、山辺警部は、返事をした。


「次に防犯カメラの映像の回収はどうですか?」

 と、田辺警部は、質問をした。

 10係の安田警部補は、防犯カメラの回収状況を説明した

「はい。箱根登山電車の協力のもと、各駅に設置されている防犯カメラの映像を、現在まとめてもらっています。」


「まとめてもらっているとは?」

「はい。朝九時から午後五時までの間の防犯カメラの映像を提出してもらえるように頼んであります。その他には、箱根を走っているタクシー会社にも協力してもらい、同じ時間のドライブレコーダーの映像を提出してもらえるようにお願いしてあります。また、強羅駅と彫刻の森駅の間にある防犯カメラの映像で、借りられたものがいくつかありました。借りられたものは、鑑識さんに、佐藤さんが映っているかどうか確認してもらっています。」





 田辺警部は、報告を聞いて、少し落胆を覚えながら、気持ちをあらたに

「そうですか。山辺警部には、現場の確認と防犯カメラ映像の確認をお願いします。」

「はい。引き続き作業を進めます。」

 と、山辺警部は、返事をした。



「明日の捜査方針ですが、今日と同じく、佐藤さんの足取りを追ってください。防犯カメラ映像の回収品は、鑑識さんに渡してください。お願いします。」

 と言って、田辺警部は、捜査会議を締めた。




               3


 田辺警部は、安田警部補を誘って外へ出た。

箱根の町を少し歩いてみたくなった。午後八時を過ぎ、お店が閉まっていることもあり、観光客の姿はなく、会社帰りのサラリーマンが、家路を急いで歩いているだけの町になってしまった。


 箱根署の近くを流れている早川にある遊歩道に差しかかった頃、田辺警部は、安田警部補に独り言のように話をはじめた。

「この事件は、なぜ起きたのだろうか。佐藤さんが殺される理由ってなんだったのだろうか。犯人は、佐藤さんを狙ったのだろうか。それとも偶然佐藤さんだったのだろうか。そして、どこから撃ったのだろうか。そして犯人はどうやって逃げたのだろうか。」

「そして、そしての疑問ばかりになってしまいますね。」


「そうなんだよ。いま、解かっているのは、佐藤さんが撃たれて亡くなったということだけなんだよ。」

 つづけて

「観光客の姿は多数みられるのに、誰一人覚えていないなんて、仕方がないとはいえ。いや、仕方ないね。これから我々が、佐藤さんが歩いた軌跡をたどることにしよう。」

「そうですね。」

 と、安田警部補は、答えた。





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