第2話 コスモエナジー救世会事件

ことの発端は、「コスモエナジー救世会」というタイトルの付いたウェブサイトだった。

無数に存在する新興宗教団体のページのひとつで、特に珍しくもないサイトだ。


ある日このサイトのトップページに以下の告知文が掲載された。


「私たちの教主・東心悟の予知夢によると、マキエス商事株式会社の代表者・牧野聡まきのさとしは過去の行いの因縁による健康上の危機が迫っていると思われます。1週間以内に私たちにご連絡いただくことをおすすめいたします。私たちの教主は因縁を取り除く力を持っています」


マキエス商事社長の牧野聡は大規模な金融詐欺事件の疑いで逮捕されたものの、先年不起訴が確定していた男だ。

この不起訴確定により、被害を訴えた中には自殺する者もいた。


そのため、この新興宗教団体は義憤を感じて、ちょっとした脅しをかけてみたのだろう・・このサイトの告知文を見た人はそう思ったに違いない。

もっともそう気にされるほどアクセスの高いサイトではなかったのだが。


しかし告知文が掲載されてちょうど1週間後、牧野が急性心不全で死亡したのだ。


牧野の死に事件性は無い。

警察もいちおうは検証したが、これはあくまでも病死として処理された。


しかし、告知文の期限きっちりの死は、SNSなどで拡散され「コスモエナジー救世会」は一部の注目を集めはじめる。


それから数日後「コスモエナジー救世会」は新しい告知文をアップした。


「私たちの教主・東心悟の予知夢によると、ビエブロホールディングスカンパニーの代表者・家山実いえやまみのるは過去の行いの因縁による健康上の危機が迫っていると思われます。1週間以内に私たちにご連絡いただくことをおすすめいたします。私たちの教主は因縁を取り除く力を持っています」


そしてやはり1週間後、大規模なリストラ劇で世間を騒がせたビエブロホールディングスカンパニー社長の家山も、牧野と同じく急性心不全で死亡したのだ。

これにより「コスモエナジー救世会」は一気に世間の話題を集めた。


3回目の告知文がアップされたのは、それからさらに数日後。

健康上の危機を告知されたのは、IT産業の寵児として若くして日本屈指の資産家に登り詰めた、ハッピーヘブン株式会社の社長、福成欣也だった。


先の2件と違うのは、福成は死ななかったことだ。

福成は告知の翌日には「コスモエナジー救世会」にコンタクトを取っていた。

そして教主の東心悟による『因縁の除去』の儀式を受けたという。

福成は「コスモエナジー救世会」に億単位の寄付金を支払ったらしい。



「これな、犯罪の形式としてはごくシンプルなんだよな。ようするに犯行予告して、期限までに金を払わなければ殺すと脅しているわけだ」

山科は胸糞悪いといった口調でそう言った。


「だからさすがに家山の時には警察も本気出して動いたさ。検視解剖も行われた。家山の心臓は冠動脈が左右とも奇妙な具合に捻じ曲がっていたそうだ。しかし・・・」


「手口がわからない・・ですね?」田村の言葉に山科は眉間に皺を寄せた。


「そのとおりだ。医者もこんな症例は見たことないという。しかし、薬物などは一切検出されなかった。つまりこれは病死というしかないんだ。告知は単なる偶然だと」


「山科さん、あなたはその結論を信じてないんですね?」


「あたりまえだろ。こんな都合のいい偶然があるもんか。これはコスモエナジー救世会による計画的殺人だよ。しかしいったどうやって他人の心臓の血管を捻じ曲げることができるってんだ?」


その言葉を聞いて田村は少し思案顔になった。


「それとな、田村さん。あんたたちを呼んだのは事件の解決が急を要するからだ。今朝、コスモエナジー救世会のページに新しい告知文が掲載されたんだよ」


山科は少し間を置いてから話を続けた。


「こんどの標的ターゲットは内閣総理大臣の安田平八だ」













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