確かに友人だった

 医者の男は、誇張気味に大きなため息をつき、床で倒れる青年を足先でつついた。


「生きてる?」


 焦げたような茶髪を半分ほどは埋めた白髪、眉間によったシワ、くたびれた表情は、彼がまだ齢29であることを疑わせる。


「なんとか……」


 弱々しく、倒れ伏した青年から蚊の鳴くような青息吐息が漏れる。


「瀕死じゃん」

「たぶん風邪。このどう考えても死にきれなさそうな感覚は絶対風邪」


 亜麻色の髪を床からどうにか持ち上げ、青年はふらふらと椅子に手をつく。


「無理すんなよ……どうせ二徹とか三徹したとかだろ……?」

「三十路入ってから三徹無理なんだよね……」

「……あっ、そっかー……お前アラフォーだったね……」


 頭を抑え、熱でぼんやりとした蒼い瞳が相手を映す。


「……メールしたら心配してくれる友達ってありがたいよね」

「何お前、珍しく素直じゃん」

「は?僕いつも素直なんだけど。本心しか言わないんだけど」

「あー、うんうん。いつものカミーユだわ」


 水を差し出し、噎せながら飲む友を見て、男は言った。


「なぁ、カミーユ……あんまり思い詰めんなよ」

「ん、ありがとうグリゴリー」


 それは、その光景は、有り得たかもしれない日常。

 ……メールの文面だけに残されたやり取りを、男は夢で見た。


 男が友人の顔を初めて知ったのは、その日の昼間。……画家の故郷モントリオールでの葬儀の折だった。

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