4-11

 さぁ唄え

 さぁ踊れ

 私の可愛い人形よ


 さぁ叫べ

 さぁ殺せ

 君の欲望のままに


 その白い手が鮮血に染まる瞬間を私に見せておくれ

 君は私の可愛い傀儡人形


        *


6月11日(Thu)午前1時


   ――東京――


 津田弘道はニヤニヤと笑いながら扉を開けて部屋に入った。ラブホテルの真っ赤なベッドの上で下着姿の速水杏里が怯えていた。


『杏里チャン。次の仕事だよ』

「もう嫌……。ねぇ、もう止めて。お願いだから……」


涙を溜めて懇願する杏里の頬に津田の無慈悲な平手打ちが放たれる。頬を叩かれた反動で杏里の身体がベッドに倒れた。

津田は倒れた杏里の上に馬乗りになり、下劣な笑みを浮かべた。彼の手には数枚の写真が握られている。


『俺にそんなこと言っちゃっていいの? 俺に逆らったら清原監督との密会写真や杏里チャンがあんなことやこんなことしてる恥ずかしい写真も世間にバラまいちゃうよ?』


 津田の手にあるものは、かつて杏里が交際していた映画感得の清原竜との不倫の証拠になる写真や杏里が津田に抱かれている決定的瞬間を隠し撮りした写真だ。

津田はこれ見よがしに写真をバラまいた。ヒラヒラと宙を舞った写真達がベッドの上に着地する。

杏里が津田に服従している屈辱的な瞬間の一枚が彼女の顔の横に落ちた。


『そうしたらどうなるかな? 大好きな北澤愁夜にはポイ捨てされて、芸能界からもポイ捨てされちゃうかもね。可哀想に』

「……何をすればいいの?」


杏里は歯を食いしばって津田を睨み付けた。津田は満足げに頷いてベッドを降り、自身の下着を下げて下半身を露出した。


『そうそう、杏里チャンはずーっと俺の言うこと聞くお人形さんでいればいいんだよ。まずは俺の相手お願いね』


 露出した下半身から飛び出した巨大なモノをぶら下げて津田が再び杏里にのし掛かる。受け入れたくないのに無理やり体内に侵入してきた津田によって杏里は精神的にも肉体的にも犯された。


 屈辱と絶望と暴力的な長い一夜の始まり。テーブルに置かれたビデオカメラがベッドで絡み合う杏里と津田の姿を撮していた。


         *


   ――大阪――


 大阪の夜景を一望できる高層ホテルのスイートルーム。フランス映画のセットを彷彿とさせる調度品に囲まれて、犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖が優雅にソファーに座っていた。


 彼は黒色の携帯電話を片耳に当てている。


『福岡には警視庁の組対の人間も来ている。後始末は抜かりなくやるように』


福岡にいる部下との通話を切り、彼は中国に国際電話をかけた。二回コール音がして相手が通話に出た。


{高瀬組はどうなりました?}

『先ほど潰したよ』


 貴嶋は喉を鳴らして笑う。数十分前に電話越しに聞いた高瀬組の組長の命乞いの叫びを思い出すだけで可笑しくて笑えてくる。


『ずいぶん疲れているようだね。そちらでの処理も一苦労だっただろう?』

{これくらいはどうと言うことはありません。まだ細かな詰めが残っていますから、あと二、三日はこちらにいなければなりませんが}

『ああ、宜しく頼むよ。そちらが片付き次第、早急に戻って来てくれ』

{わかりました}

『どうして日本に戻されるのか、理由を聞かないのかい?』


わずかな沈黙の後に相手の低い声が聞こえた。


{……クイーンから大方の話は聞いています}

『そうか。ではまた連絡するよ』


 通話の切れた携帯をテーブルに置く。大きな窓のスクリーンには雨に濡れた大阪の夜景。


『さて……が帰ってくる。これからがたのしくなりそうだ』


愉しげに、冷酷に。混沌の帝王は微笑んでいた。



第四章 END

→第五章 天泣、ときどき迷宮 に続く

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