第96話 魔力0の大賢者、贈り物をする

「お父様、誕生日、及び、王国騎士団の指導官就任おめでとうございます」

「はは、いやまいったなこれは」


 無事、父様への贈り物も完成し家に戻ってきた僕たちは、父様へのサプライズパーティーを企画し実行した。


 父様はあれからも何度か王都を行き来していた。指導官として本格的に動き出すのは翌月からなのだけど、その前から騎士団の様子を見学し、今後の方針や各団員の課題、練習メニューなどを考えていた。流石お父様は仕事に妥協がない。


 責任感も強いし尊敬できる存在だよ。以前の家族にはあまりいい思い出がないから余計そう思えるのかもね。


 まぁ、そうは言っても前世の家族の記憶なんて殆どないんだけど、とにかく、そんなお父様の為に、今日王都から帰ってくるタイミングを見てパーティーを開始したんだ。


 ちなみにパーティーには僕たち家族だけではなくて、ハニーやその家族、それにアイラや破角の牝牛とヒゲ男ズ、それにカッター男爵の姿もあったりする。


 それだけ多くの人が父様を慕っているということなんだろうな、と僕が口にすると。


「確かにお父様の人徳も関係していると思いますが、何より至高のお兄様のカリスマ性も大きいかと思います」

「……究極にして最強の大賢者マゼル、そのお父様ともなれば皆がお祝いしたくなるのも当然」

「いやいや! 二人共それは大げさだよ!」


 大体僕なんて今の年齢はまだ9歳なわけだし、カリスマ性とかそんなのあるわけないもの!


「兄貴は自覚がないのか、敢えてそういうフリをしているのかがわかんねぇなぁ」

「まぁどっちでもいいじゃん。旨いものが食えて酒が飲めればさ」

「姐御の言う通り!」

「いやいや! 主役は大賢者様のお父上であり、そもそも我らの領主様だぞ! それを忘れるんじゃないぞ!」

「あ、でもケーキが美味しそう……」


 フレイさんがジュルリとよだれを拭いながらケーキを見た。テーブルの真中には大きなケーキが置いてあるんだけど、あれはアイラとラーサと母様とハニーが手作りした合作だ。


 材料は家で取れた米から作成した米粉とハニーの家族が持ってきてくれた特製蜂蜜、農家の人々から頂いた牛乳や苺などがふんだんに使われているんだ。

 

「いやいや、本当に私のためにこのような盛大なパーティーを開いて頂き、本当にありがとう。マイム、ラーサ、それに大賢者マゼルも、家族に恵まれ私は本当に幸せものだ」


 父様ときたら、グスッと涙まで浮かべちゃってるよ。でも、こういうのもなんだかいいものだね。

 前世ではいつの間にか大賢者と呼ばれるようになってからは、自分としてはちょっと大げさかなと思えるぐらいな大きな会場で祝ってもらったりしたことはあったけど、家族としての想い出はないからね。


 いや、僕の育ての親でもある師匠は、祝ってはくれたけれど、ちょっと独特だったもんね……。


『今日は誕生日だったな。よし祝いの為の食材をちょっと狩ってこい』


 そんなこといいながら1000匹以上のドラゴンが互いに喰らい合う魔竜の谷とやらに放り投げられたりしたし。いや、竜の肉は美味しかったけどね。


「……なぁ、ところでこの肉ってもしかして?」

「えぇ、スメナイ山地に潜んでいたゴージャスワイバーンの肉ね」

「ゴージャスワイバーンっていたなんて知らないチョビ、誰が狩ったチョビ?」

「聞くまでもないであろう」

「そうでありますな。こんな真似が出来るのは」

「はい、勿論お兄様です」

「「「「やっぱりな!」」」」

「はっは、ゴージャスワイバーンといえばドラゴンすら平気で食すとされる凶暴な魔物。にもかかわらず話によると鳥を落とすより簡単に狩ってしまったとか。いやはや、驚くべき実力ですな」


 破角の牝牛やヒゲ男ズ、それにカッター男爵まで揃って驚いたり感心したりしているけど、いや、そんな大した相手じゃないと思うよ。ドラゴンを狩るも大げさでゴージャスワイバーンが狩れるドラゴンなんて単体だとレッサードラゴン程度だし、集団でもなんとかグレートドラゴンが狩れるかなぐらいだし。


「……マゼルなら魔竜の谷に落ちても平気で帰ってきそう」

「はっは、いやいや流石にそれは無茶でしょう。魔竜の谷は数多の竜がお互いの肉を求めあうことで日々生き残った竜が進化し続けるとさえ言われる魔境。いくら大賢者様とは言え――」


 うん? 今なにか聞き覚えのある名称がアイラから飛び出たような、う~ん勘違いかな?


 そうだよね。当時今と変わらないぐらいの僕が問題なく食材を集められたあそこがそんな魔境だなんて大げさすぎるし。


 さて、ある程度場が温まってきたところで、いよいよ父様へのプレゼントの時間だ。集まってきた皆が持参した物を父様に渡していく。


「あたいはこれだよ! 自由依頼券!」

「自由依頼券?」

「そうさ! 全部で10枚あるんだぜ。その券1枚につき1回、あたいがナモナイ様の依頼を1つ引き受けるよ!」

「……いや、あんたねぇ。領主様には何より頼りになる大賢者様がいるのに、あんたに一体何を頼むってのさ?」

「あ……」


 アローさんのツッコミにしまったという顔を見せるカトレアさん。

 いやいや! 何故か僕を引き合いに出されてるけど、僕だってそんな大したこと無いんだからね!


「だ、だったらその券1枚につき、あ、あたいが普通の依頼以外の頼みでもなんでもやってあげるよ!」

「え? 今なんでもって言った?」


 続くカトレアさんの言葉に、何故かムスタッシュが反応した。いや、ムスタッシュは関係ないよね?


「な、なんでもってことは、まさか、あのわがままボディを、あ、あんなことやこんなグヘェ! あ、熱い! ぎゃぁああ!」

「姐御相手に変な妄想するな」

「全くよ、子どもだっているのに」


 締まりのない顔で妙なことを口走ったムスタッシュにアッシュさんの膝蹴りとフレイさんが行使した火魔法が炸裂した。痛がったり熱がったり大変そうだけど自業自得かもね。


「ふ、ふむ、しかしなんでもか……」

「あ・な・た」

「い、いやいや! 違う違う! 別に変なことは考えてないから!」


 母様の冷たい微笑に父様が凍りつき慌てて弁解していた。やっぱり父様でも母様は怖いみたいだね。


 カッター男爵は馬車を新調してくれた。王都までは蟲一族の蜂を利用するけど普段は馬車での移動が主だからね。でも馬車って結構するのにやっぱり領主ともなると太っ腹だよね。


 アイラからは靴がプレゼントされたよ。実は父様の靴が大分磨り減っていることに僕も気がついていたんだけど、それなら私にプレゼントさせてほしいってアイラが言ってくれたんだよね。


「うむ、これはピッタリだ。いやはや、ナムライ領のご息女にまでこのような高価な物を」

「……色々お世話になっているので、喜んで貰えたなら嬉しい」


 勿論です! と父様はアイラから贈ってもらった靴に全身で喜びを表現していたよ。そして妹のラーサからは手作りのマントを受け取り涙していた。


「あぁ、愛娘から、しかも手作りとは、生涯大事にしてみせよう!」

「大げさですよお父様。でも喜んでもらえたなら何よりです」

「私たちからは蜂蜜セットだよ!」


 ハニーは一家で色々な蜂蜜を使った贈り物を用意していたようだ。自慢の蜂蜜酒に蜂蜜を使ったゼリーなどだ。ゼリーは携行できるタイプで指導官として王都に行くときにも持っていける。


 疲れると甘いものが欲しくなるからこれはありがたいね。


 そして、いよいよ僕の番となった。


「僕からはこれですお父様」

「む、こ、これは!」


 ヒヒイロカネから作成した刀を片膝をついて差し出した。


 父様は僕の手から刀を受け取り、鞘から刃を抜いてためつすがめつ見てから。


「これは、素晴らしい。これは、材料がそもそも違う。ただの鉄ではないな……」

「はい、お兄様がお父様の為にとダンジョンに潜って見つけた素材から作り上げたものです」

「……マゼル凄く頑張った。私たちも近くで見ていた。素材を最高の形に活かそうとドワーフの下を訪ねて、その剣を作成してもらう為、ドワーフの悩みも解決して見せた」

「むぅ、なんとそこまで、そこまでしてこの剣を――」


 な、何か改めて言われると照れちゃうな……でも、父様は凄く真剣な顔だ。


「う~ん、でもあれって何か変わった形だな。使いにくくないのか?」

「この馬鹿!」

「ぐべぇ!」


 疑問を口にするムスタッシュにカトレアさんの鉄拳が落ちた。


 はは、でもその心配は皆もしていた。でも、父様ならきっと――。


「……確かにこれまでの剣とは大きく形が変わる。だが、この素材にはこの形状が最もふさわしい、そんな気がしてならない。それに騎士たるもの、得物に使われるようでは3流。得物は使いこなさなければな」


 そう言って、刀を鞘に収めた。その様子を見て僕は父様に告げる。


「その剣、もとい刀、銘はヒノカグツチと申します」

「ヒノカグツチ、か――なんといい銘だ。そして……マゼル、私のために随分と苦労したようだな。だが、だからこそ嬉しい。このヒノカグツチからは大賢者マゼルの想いを感じる。この刀、一生の宝物にするぞ。そして誓おう、大賢者マゼルの気持ちに応えるために、必ずこのヒノカグツチを使いこなして見せようと!」


 父様の宣言に周りの皆が湧いた。力強い宣言に僕も心を打たれた。贈って良かった……。


 それに、気のせいかな? 父様が持ってその銘を口にした途端、呼応するように淡く光ったようなそんな気がした。


 あらゆるものは掛けた想いによって魂が宿る――師匠がそんなことを口にしていたことがそういえばあった。


 だとしたらもしかしたら――僕がそんなことを考えていると、今度は母様が父様の横に立ち。


「さて、最後は私ですね」

「おお! なんとも楽しみであるな。マイムは一体何を?」

「ふふ、それは、これです」


 すると母様は自分のお腹を擦って、父様に応えた。うん? お腹?


「……それは、お前、まさか!」

「ふふ、はい。三ヶ月ですよ貴方」

「え、ええええぇええ! それってつまり?」

「う、うぉおおおぉお! でかしたぞマイム!」


 そして父様が母様を抱きしめて涙して喜んだ。この新たなおめでたい報告に再び周囲が湧いてお祝いモードに。結局この日の宴は明け方まで続くこととなった。


 でも、まさか僕にまた一人、きょうだいが出来るなんてね。本当に凄くおめでたい日になったよ!

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