第77話 魔力0の大賢者、ゴブリン軍団を相手取る
街の住人の避難などはラーサとアイラやライス様の私兵、それに冒険者ギルドにお任せし、僕たちは迫りつつあるゴブリンの軍団目掛けて進んでいた。
僕と父様、それに冒険者ギルドから派遣された3人と合計5人で向かう。
少ないようにも感じられたけど、僕たちは相手の戦力を図る意味合いも強い。先遣隊とも言える。
だから僕たちは直進してきているゴブリン軍団の進行上から外れた山をゆき、相手の様子がよく見える高台から俯瞰した。
兵力は5万と聞いていたけど、だからといっていきなり5万のゴブリンが全軍突撃してくるようなことはなかった。
見たところ第一陣は5000体ほどで、中にはゴブリンロードやゴブリンジェネラルの姿があった。雑兵となるゴブリンにはホブゴブリンも混じっているね。
「さきがけでもこの兵力……やはりゴブリンは相当な数を揃えているのだな」
「この兵力だけでナムライ領の兵力とほぼ変わらないじゃないか……どうするんだよこれ?」
「と、とにかく引き返して、報告しましょう。魔導信号弾も打ち上げて、急いで対策しないと」
「え? 引き返しちゃうんですか?」
「「「はい?」」」
意外だなと思って発言したんけど、何か3人の冒険者が目を白黒させているよ。え~でも流石にこのまま何もしないというのもどうかな? 大体戦ってみないとどの程度の力かわからないし。
「ふむ、流石大賢者マゼル。それで、何かいい手はあるのか?」
父様は僕の意図を汲んでくれたようだけど、やっぱり他の皆は納得してないようで。
「いやいや! 確かに大賢者様のご噂は聞いてますけど! その、失礼かもしれませんがまだ9歳ですよね?」
「そう、こういった戦に関してはまだまだ経験が浅い。個人の戦闘力が高いというのは噂から察せられるが、軍の力を舐めてもらっては困る」
「これはもう戦争と言っても差し支えない話になってますからね……一個人の力でどうこうできる話じゃありませんよ」
3人の冒険者からしてみたら、9歳の子どもでしかない僕が口を挟むのは納得できないみたいだね。
その気持ちはよくわかるよ。敢えて苦言を呈してくれているのも判る。でも、相手が軍として行動してるからこそ可能なら出鼻をくじいておきたいよね。
「……冒険者の皆さんの気持ちはよくわかる。だが、息子のマゼルとてこれまで様々な敵を相手取ってきた。中には今回のように軍に近い形で我が領に攻め入ったのもいた。しかしそれらを相手してもマゼルは決して怯むことなく立ち向かっていった。その力を信用して欲しい」
「ローラン卿のご高名は私も知るところです。ですが俺たちは5人で行動している。大賢者マゼルがいくら強いと言っても、このまま直接あの群れに飛び込むような真似は……」
「あ、それでしたら心配ご無用です。僕がいいたかったのは、折角ここのような条件の良い場所があるのに、活かさない手はないかなと、思ってのことなので」
「……いや、言っている意味が……確かに相手の兵力を確認するには丁度いいが、むっ!」
「あ、あれは! ゴブリン!」
ん? 魔術師のお姉さんが指さした先に、あ、本当だ。上空で飛び回っていた大型の鳥の上にゴブリンがまたがっていたね。そして僕たちを認めた後、そのまま去っていったよ。
「くっ、見つかったか。これはやはり一旦戻るしか……」
「はい、見つかった以上、すぐに行動に出るべきですね」
僕が発言すると、しらけた目の3人。う~ん、何か温度差を感じるね。
「……大賢者マゼルよ。何かいい手があるのだな?」
「はい父様。この場所から一方的に相手を攻撃できる手があるのです」
「いやいやありえないだろ! ここからゴブリンまでどれだけ距離が離れてると思ってるんだ!」
この場所で高低差は500mはあるし、距離も確かにかなり離れている。でも視界に入ってるならどうとでもなるよね。
「皆さんの気持ちもわかりますが、一つ息子に任せてやってほしい。きっと戦力差を埋める有効な一手になるはずだ」
父様が頭を下げると、冒険者が、どうする? と見合わせ。
「とりあえず、見てみよう。ここから出来るのだろう?」
「はい」
「なら見てみるとして、厳しそうならすぐ引き上げるぞ」
よかった納得してくれた。よし、皆の期待には応えないとね。いい具合に僕たちの立つこの足場の後ろには頑丈なことで知られてるカタの木が生え揃っている。
地面を蹴り、とりあえずそのうち100本ほどを伐採し、全て丸太に変えて先端を尖らせた。
「へ?」
「え? え? 大賢者はどこ? そしてなんで丸太が舞い上がってるの?」
「来たな、大賢者マゼルの大魔法が!」
いやいや、父様、これは木を伐採して加工して上に放り投げただけですからね。
それはそれとして、僕は丸太に向かって跳躍し、その全てを目標に向けて撃ち込んでいった。拳や蹴りの衝撃で100本の丸太が一直線にゴブリンの群れに降り注ぐ。
「「「「「「「「ギャァアアアアアァアアァアアア!」」」」」」」」
ゴブリンの絶叫がこだました。着弾したことでモクモクと煙があがった。とりあえず100本で様子見だけど、これでどれ位減るかな?
生き残った数で、大体の力が読み取れると思うのだけど。
そして煙が晴れていったけど。う~ん?
「……あれ、全滅してる?」
みたところ、動いているのが全くいないように思える。うん、確かにこの位置から撃てば一本でも衝撃である程度纏めて倒せると踏んだけど、あれ~? ロードやジェネラルってこんなに脆かったっけ?
「な、なんじゃこりゃあああぁあああ!」
「何が起きた? 今一体何が起きた!」
「し、信じられません! これはまさに大賢者マゼルが扱ったとされる伝説の大賢者流丸太魔法!
えええぇええぇ! いやいや冒険者のお姉さんがすごい大仰な口調で説明したけど、相変わらず知らない魔法飛び出したよ!
大体丸太魔法ってそんなピンポイントな魔法ありえないでしょう! ついには魔法名に名前が入ってるし!
「うむ、流石大賢者マゼルだ。信用はしていたが、まさか一瞬で5000もの兵を壊滅させるとは」
うん、それに関しては僕も驚きなんだけどね。う~ん、でもこれならそんなに苦労しなくて済むかな?
「何か、大賢者様の実力を疑って、申し訳ありませんでした~~~~!」
「一個人じゃ軍に勝てるわけないなんて生言って本当すまなかったーーーー!」
「こんな生意気な私に貴重な魔法を見せて頂きありがとうございますーーーー!」
すると何か急に3人が地面に頭を擦り付けるぐらいの勢いで謝ってきたよ! 1人だけ謝罪というかお礼だけど!
「いやいや! 頭を上げてください! 皆さんの指摘もご尤もだったのですから!」
「うむ、はっきりと言えば大賢者マゼルの魔法がとんでもないというだけであるからな」
いえ、物理なのです父様。あとそこまで大げさな評価はちょっと……木を切ったりやってることは結構まどろっこしいと思うし、そこは本来の魔法使いの魔法で済ました方が簡単だと思うんだよね。
「とりあえず、これで余裕を持って信号弾を撃てるな」
「折角だからあのゴブリンのいた場所あたりに罠を張っておくか。少しでも足止めが出来るかも知れない」
「それなら僕が落とし穴でも掘っておきましょう」
そして早速ジャンプしてゴブリンの死体が溢れた場所に着地。このまま放置しているとさっきみたいな偵察ゴブリンに死体が見つかるかも知れないから体温調整による炎で焼き尽くしてから穴を掘った。
さて、問題はここからだけど。僕は空気振動で3人に声を届ける。
『皆さん、ゴブリン軍を倒すのは魔窟の魔核を破壊するのが手っ取り早いと思うので、僕の方で行こうと思うのですがいかがでしょう?』
「うむ、大賢者の大落とし穴魔法に灼熱魔法、これらを見て皆驚いている。それだけ出来る大賢者マゼルなら安心して任せられるぞ」
落とし穴掘っただけなのに魔法扱いとは思わなかったよ……でもお父様は僕の作戦に賛成してくれた。3人の冒険者は暫くポカーンとしていたけど、すぐに納得してくれたね。
ただ、魔核破壊を優先させるから途中のゴブリン全員を倒すわけにはいかない。だけど、そのあたりは父様たちがなんとかしてくれそうだ。
信号弾ですぐ応援も駆けつけるだろうしね。
だから、僕は遠慮なく魔窟へ向かうことにする。どうしようか迷ったけど、うん電撃を使おう。静電気を物理的に増幅させ、雷を纏ったような状態で僕は疾駆する。
師匠が疾風迅雷とか呼んでくれてたな。この名前は結構好きかも。さてさていっくぞー!
◇◆◇
sideナモナイ
大賢者マゼルから声が届いた。念話の魔法だな。これも習得が難しいとされる魔法らしく冒険者の女魔術師が驚いていた。
その上、大賢者マゼルはまたもや伝説の賢者の魔法、
ふふ、本当に我が息子ながらとんでもないな。だが、大賢者マゼルならきっとゴブリン共を駆逐し魔核を破壊してしまうだろう。
任せたぞマゼル、お前こそが世界最強の大賢者なのだから!
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