第63話 魔力0の大賢者、王国騎士と会う

 アネはただ糸で服を編んでいるというわけでなくて、魔力も上手に注ぎ込んで形状を変えたりすることで上手いこと服を作ったそうだ。


 どうりで網目がやたらと細かいわけだね。一瞬にして衣類が作れたのも魔法によるところが大きいようで、こういったことが出来るのはやっぱり魔法の強みだよね。

 

 そしてこれには父様がやたら喜んでいた。これからは解れの修復などはアネにお任せしようとか言ってたな。


 僕は何もいってないのだけど、もう父様が屋敷まで連れて行く気満々だよ。


 そして僕たちは洞窟を出て、あの村まで向かった。


「本当にこいつらがあの連中なのかい? またえらく変わったものだねぇ」


 全員蟲人というのになったからね。腐敗はあまり進んでなかった。これも蟲人になった影響なのかも知れない。


「魔物に食われてる様子もないな」

「そりゃそうだろうねぇ。この蟲人ってのはどうにも食欲がわかないし」

「見た目からですか?」


 ラーサがアネに聞く。妹は蟲と一体化した蟲人にはわりと嫌悪感があるようだ。まぁ女の子は蟲が苦手なものだしね。


「見た目でいったら私だって下半身は蟲みたいなものだからね。気にはしないけど、何かこう嫌悪感が湧くのさ。生理的に無理ってもんだね。きっと他の連中も似たような感じだと思うよ」


 つまり魔物や魔獣が嫌うような要素がこの蟲人にあるってことか。襲われてきたら勿論反撃するけど自分から手を出したいとは思えないタイプとも付け加えていたよ。


 それからは冒険者が手分けして村を調査していく。あの研究所と言っていた洞窟にも向かい長が書き残したノートも回収した。


 村で調査することは全て終わったわけだけど、ギルドマスターは別の視点でこの場所に注目を示していた。何せこの辺りはこれまで未開の地として知られていた場所だ。


 だけど、この場所は上手く使えば探索する足がかりになる。上手く拠点に出来れば、冒険者の仕事にもってこいだ。大きな仕事につながると思う。


「早速冒険者を何人か派遣してベースキャンプにしたいところだが……」

「うむ、気持ちはわかるが、王国から騎士が事情を聞きにくることになっているのだ。そこで話を進めてからになるが、しかし場所的にはうちとカッター領が近い。共同で探索できるよう提案していくとしよう」


 このあたりはやっぱり父様の仕事だね。すごく頼もしく感じるよ。


「しかし、下手に手は出せないとして、その間ここはどうしたものか」

「このまま放置するのにも不安がありますね。魔物に荒らされるかも知れない」

「それなら私がこの周りに糸を張って縄張りにして上げるよ。そうすれば少なくともこの辺りにいる魔物なんかは近づいてこようとしないさ」


 なるほど。確かに自分より力量が上の魔獣にわざわざ歯向かおうとしないよね。このあたりは人間に比べると魔物や魔獣の方が直感的でわかりやすいと思う。


 そして蟲人の遺体の処理も終わり、方向性が決まったことで僕たちは再び領地に戻った。

 

 アネが屋敷まで来てメイドさん達はちょっと驚いていたけど、母様はいつものノリであっさり受け入れてくれた。


 しかもアネの糸を使った技術はメイドさん達に好評で、編み方を教わりたいと大人気だった。


 そうしてあっさりとアネも受け入れられてから更に数日過ぎて、町に王国騎士団がやってきたんだけど。


「久しぶりだな。ナモナイ卿にマゼルよ」


 驚いたことに騎士たちを率いてやってきたのはあのガーランドだった。それと両隣に女騎士と男騎士が一人ずつ。一人はウェーブの掛かった赤髪に紅瞳、スラリとした綺麗な女性だった。


 もう一人は眼鏡を掛けた頬の痩けた男で、何か僕を値踏みするようにジトジト見てきてるのが気になる……。


「よもや、ガーランド閣下にわざわざ出向いて頂けるとは――」


 父様も驚いていたね。どうやら将軍が来ることは知らされていなかったようだよ。

 

 そして主要な騎士が屋敷の一室に通されたのだけど、なぜか僕も同席することになってしまった。


 混蟲族の村まで行って戦ったのは僕たちだから仕方ないのかもしだけど。


「――以上が混蟲族に関しての顛末と報告となります。ここまでで何か気になる点などありますか?」


 父様が報告書の内容を読み上げ、最後に騎士たちに質問した。僕は特に問題になることもないかなと思ったけど……。


「気になる? なぜホワイ? ありえないノットノーマル! あたまおかしいクレイジーですかな貴方ユーは?」

「……ゆ、ユー? クレイジー?」


 父様が呆気に取られる。僕もちょっとびっくりした。声を上げたのはあの眼鏡の騎士だけど、何か妙な口調な人だね……。


「全く信じられないバットな報告プレゼンですよこれは。あまりにふざけてるノットノーマルバット! よくこんな内容で我ら由緒ある王国騎士団に報告できたものだ」

「……一体どこに問題がありましたでしょうか?」

「そんなこともわからないとは、伯爵カウントとして貴方はふさわしくないミステイクです! とんでもないことですよこれは!」

「なるほど、では再度お尋ねしますがその問題点とは?」

「やれやれオ~困ったものだ。わかりました教えてレクチャーして差し上げましょう。いいですかイエス? この報告書にはこうあります。混蟲族の集落になんですか? そこの随分と大層な肩書なビッグマウスのハゼルが」

「ヤカライ、彼の名前はマゼルですよ」

 

 あの綺麗な女騎士がわざわざ訂正してくれた。ヤカライ、確かヤカライ・ヤミが彼の名前だったね。女騎士の方はレイサ・カレントとさっき紹介を受けたよ。


「ふん、そうだったかな? ふん! バット、この際そんな名前ネームなどどうでもいいのです。しかし、そのようなお子様キッズにこのような大事な任務を任せるとはとても納得できるものじゃありませんよ」


 つまり、ヤカライは僕が混蟲族を何とかする為に動いたのが気に入らないといいたいわけか……。


「大体、今回の件、なぜ我々という王国騎士団キングキャバリエが到着するまで待てなかったのか。そもそもあの場所は未開拓地ノットテリトリー、領土の外側にあたります。それなのに独断と偏見で決めるなど、越権行為以外の何物でもありません!」

 

 机をバンっと強く叩き吠えた。何かちょっと面倒臭そうな人かも……。


「しかし、その報告書にもある通り我が領土は混蟲族の操る蟲によって危機的状況にありました。息子のマゼルに関しては閣下もご存じと思いますが魔法については腕の立つ魔導師が舌を巻くほどの実力であり、かつての大賢者を想起させるほどのものです。故に私は息子のマゼルであれば間違いないと信頼し、そして見事その使命を果たしてくれました。私はこの判断が間違ったとは思っていませんが」

「何をホワッと! とんでもないことをスーパークレイジー! 一体どれだけ愚かなのですか貴方は! 全くこんな男が伯爵を名乗っているとは、これは由々しき事態ですよ。超絶的スペシャルな失敗バットです!」


 また机をバンっと叩いて指で父様をさしながら文句を言いだしたよ。当事者として黙ってるわけにはいかないな。僕は立ち上がり、ヤカライに向けて発言する。


「あの、それの何が問題だったのでしょうか? あの時はこのまま見逃してしまっては混蟲族が態勢を立て直して再び攻め込んでくる可能性もありました。確かにスメナイ山地は領地外ですが、領内に直接的な危機が迫っている状況であれば領主の判断で動くのは王国法としても問題ないはずでは?」


 これは実際、父様が所持していた法関連の書物を読んだから間違いない。実際魔物の脅威にさらされることは少ないことではないし、そのたびに領地がどうとかで言い争っていては無駄に領地が荒らされるだけなので、危険が迫っている時は領地外でも行動に移せる筈だ。


「ふん、これだから世間知らずの子どもチャイルドは。ちょっと本を読んだぐらいで知ったふうな口を。大賢者などともてはやされてうぬぼれがすぎるな」

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