魔力0で最強の大賢者～それは魔法ではない、物理だ！～

第55話 魔力0の大賢者、尾行する

　巨大なムカデを倒し、燃やし尽くして見せると、ハニーたちに感嘆されてしまった。

「そのご高名は耳にしておりましたが、まさかここまでとは、噂通り、いえ、噂以上の大魔法の数々！　しかとこの目に焼き付けさせていただきました！」

「ビッ！　ビビっ！」

　何かとんでもない誤解されてる！　いや、今に始まったことじゃないけど、あれ全部魔法じゃないんだよなぁ。本当あくまで物理的に起こした現象だからね。何か蜂と一緒に三嘆してきて困っちゃうな。それにしても本当息があってるね。

「うん？　あれは？」

「どうかされましたか？」

「ビッ？」

　目端に見えたそれを確認するため、僕は空を見上げ目を凝らす。ハニーと蜂たちも僕の挙動が気になったらしいけど、この様子だと見えていないのかな？

「ムカデの頭に乗ってたのが背中から羽をはやして向こうへ飛んでいこうとしているね」

　あの羽は多分体から生えたのではないね。ローブで隠れているけど……。

「ハッ！　きっとそれは背中に潜ませていた蟲です！　きっとアジトにしてる集落に逃げる気に違いありません！」

　やっぱりそうか。う～ん、ならこのまま落としてもいいけど……。

「集落の混蟲族の一派は、やっぱりまた来るかな？」

「それは、恐らく。これだけの蟲をやられたのですから、このまま黙っているとは思えません。なら、私が追いかけて今のうちに！」

「待って、追いかけるのはいいけど、どうせならそのまま尾行してしまおう」

「え？　尾行ですか？」

「うん、正直こんな何度も狙われるのは面倒だし、いい加減にして欲しいしね。ならいっその事、潜んでる一族ごと倒してしまった方がいいよね？」

「なるほど！　流石大賢者様の再来と言われるだけのことはあります！　では、是非私もお供させてください！　尾行するのであれば、蜂たちもお役にたてますので」

「え？　蜂が？」

「はい！　どうぞお乗りください。これに乗って追いかけましょう！」

「ビ～」

「ビッ！」

「ビビッ」

「……ビ～」

　へ～蜂に乗れるんだ。それは僕も初めてだね。それならお言葉に甘えさせてもらおうかな。

「……ビ～」

「あはは、大賢者様、ビロスが乗って欲しいみたい」

　え？　そうなの？　言われてみればいつの間に尾を近づけてきてフリフリしてる気がする。うん、それなら乗らせて貰おうかな。

「……ビ～♪」

「ビロスったら嬉しそう」

　そうなんだ。そのあたりは蜂と心を通わせているハニーだからわかるんだろうね。

「大賢者マゼルよ！　一体これは何が……むむむっ！　魔物か！」

「お兄様が蜂に！」

「あらあら、まぁまぁ」

「……マゼルが蜂に襲われて、いる？」

「お嬢様、あれはどちらかというと、大賢者様が襲っているように思われます」

　さぁいこうかと思ったら、皆がやってきたよ。蜂の姿を見て父様や妹は警戒しているみたいだけど、メイサさんの勘違いが酷い！

「違うよみんな。この蜂たちは僕らの味方で、あと襲ってないから！」

「はい、ここにいるのは私の大事な仲間です」

「えっと貴方は？」

「彼女はハニーだよ」

「ふぇ！　は、ハニー!?」

　うん？　何かラーサが目を丸くさせてるけど、とにかく、僕は簡単にこれまでの経緯を話してあげた。

「とんでもないムカデの化け物がでてきたとは思ったが、混蟲族か、話には聞いていたが……」

「でも、流石はお兄様です。あれだけの強敵でもなんなく倒されるのですから！」

「うふふふ、母さんも鼻が高いわ～」

「……それにしても流石大賢者。あれだけの魔法、中々お目にかかれない」

「そうですね。山を喰らう巨人を一刀両断にしたとされる伝説の神風魔法エスメラルラファーガや、高位の知識ある竜にしか使えないとされた竜魔法ドラゴニックフレアまで扱えるとは、正直感動しました」

　また知らない魔法来たこれ！　何それ知らない！　いや、山で暴れてた巨人は、確かに倒したことあるけど、竜魔法とやらも、別に魔法でもないのに竜にやたら感心されたことはあったけど……でもそんな名前一度も使ったことないからね！　神風魔法とか大層な呼ばれ方してるそれなんて本当の名前は真空断罪掌だから！　こっちは恥ずかしいから絶対言わないけど！

「とりあえず、事情は今話したとおりだから、僕はこれからハニーと蟲を操ってた相手を追いかけるよ」

「は、ハニー？　むむむぅ！　お、お兄様！　ならば私も連れて行ってください！」

「……いきなりハニー呼びされるとは油断ならない。勿論私もついていく」

「えぇ！」

　何か2人がググイッと詰め寄ってきて、そんなことをいい出したよ。ま、まいったな。それにしてもなんでそんなにハニーに反応してるんだろう？

「いや、でも流石に危険だし」

「大丈夫です。私だってお兄様のお役に立ちたいのです。それに敵のアジトを狙うなら人数は多いほうがいいはずです！」

「……ラーサに同意。それに私は補助が出来る」

　う、う～ん、まいちゃったな……僕はちらりとハニーを確認するけど。

「え～と、蜂は4匹いますからあと2人は可能といえば可能ですが……」

「決まりですね」

「……私たちがいけば丁度よい」

　僕は父様や母様にすがるような視線を向けた。いくらなんでも妹は危険と判断するよね？

「うむ、確かにラーサも今回は大活躍であったしな。それに大賢者マゼルと一緒であれば安心だろう」

「あらあら、ラーサもお兄ちゃんのことが大好きなのね。うふふ、仲がいいのは良いことよね」

　しまった！　父様は僕を妙に信頼しすぎているし、母様に関してはどこかずれている！　

　うぅ、これはラーサは連れて行くほかないか。心配だけど、でも確かにラーサの魔法は蟲にも有効だったしね。

　あとはアイラだけど……。

「私も問題ありません。大賢者マゼル様どうかお嬢様をよろしくお願い致します。押し倒してくれても構いませんので」

　何言ってるのこのメイド長さん！　なんでそこで押し倒すが出てくるの？　意味がわからないよ！

「では皆さん急ぎましょう、見失ってしまいます！」

　うん、ハニーの言うとおりだね。なので僕はビロスにハニーはビーダーに、アイラはビードル、ラーサはビバイトにまたがり、僕たちは飛び立った。

「うわぁ～こうやって何かに乗って飛ぶというのも気持ちいいものだねぇ」

「お兄様と一緒に空を駆け回ることが出来るなんて、夢のようです」

「……私もいる。でも、確かにこれ気持ちいい」

　蜂の乗り心地は結構よかったりする。乗りやすい位置に丁度ふかふかの毛が生えているんだよね。

　吹いてくる風も心地良いし、眺めもいい。蟲使いを追いかけるという目的がなければ普通に空の旅を楽しんでいたかも知れないよ。

「ですが、よく考えてみたら大賢者様ほどのお方ならご自分でお空を飛べるのでしょうね」

　ハニーがふとそんなことを口にする。う～んでも僕の場合魔法じゃないから、空中を蹴って移動する形で、飛んでるって感じじゃないんだよね。

「僕だってそんな大したこと出来るわけじゃないしハニーも買いかぶり過ぎだよ～」

「いや、既にものすごい魔法をみているのでそれは……」

　あのムカデを倒したことを言っているのかな？　う～ん、いつものことだけどあれ、魔法じゃないんだけどな。

「ところで、あの、ずっと気になっていたのですが、そのハニーというのは？」

「え？　うん、だから彼女がハニー。え～と、あ、そっか、さっき急いでたから簡単に説明しちゃったけど、ハニー・ワスプが彼女の名前だよ」

「へ？　名前なんですか？」

「名前だよ？」

「……正直紛らわしい」

　一体何がそんなに紛らわしいのか、僕にはよくわからないや……。

「混蟲族のあいつが速度を上げました。こちらもスピードを上げます！　振り落とされないようしっかり踏ん張っていてください！」

　ハニーが注意を促し、僕たちは言われたとおり蜂にしっかり掴まった。バトルホーネットの速度はぐんぐん上がっていく。凄いな。僕が知ってるバトルホーネットの速度はハイコンドルと同程度だったけど、ハニーが育てた蜂達はブーストコンドルと同程度ぐらいありそうだ。

　ブーストコンドルは馬車で3日かかる距離を1時間程度で移動できる魔物だ。それと同程度だからかなり速いよね。

「――皆さん気をつけてください。どうやら混蟲族の集落が近くなってきた影響か、縄張りを守っていると思われる蟲が出てきました！」

　ハニーの警告に僕は前方に注意を凝らす。そこに見えたのは大量の空飛ぶ蟲たちだった――