第51話 魔力0の大賢者、西の森の異変に気がつく
僕が西部の農地につくと、丁度破角の牝牛とモブマンやネガメが魔物と交戦中だった。
「ファイヤーボルト! ファイヤーボルト! ファイヤーボルト!」
「いいよモブマン、そのオイルバグは火に弱いからね! あ、姉御さん、その魔物はお腹が弱いです!」
おお、ネガメの鑑定魔法が大活躍だね。相手の弱点を教えてしっかりサポートしてるよ。オイルバグは外皮が油まみれな蟲の魔物でヌルヌルして物理攻撃が通りにくいけど、その分火に弱いし、他の魔物も破角の牝牛に順調にやられていた。
「炎なら私にお任せ!」
特にモブマンに負けじと活躍しているのは破角の牝牛の火魔法の使い手フレイさんだ。炎の犬が次々とオイルバグに喰らいつき、燃やしていっている。
モブマンも頑張っているけど、やっぱり本職のフレイさんの方が討伐数が多いね。
「こんにゃろ! あたいをなめんじゃないよ!」
姉御さんは丸まって体当りしてくる魔物を避け、再び元の形状に戻ったタイミングで刃を差し込んでいた。
魔物はクラッシュロリポリという名前で、ダンゴムシを巨大化させたような魔物だ。丸まってから転がっての体当たりを得意としている。転がっている間は、ダメージが通りにくいし、外皮も硬い。これは蟲系の魔物に多い特徴だ。
ただ、節が多く、その部分は柔らかいから、カトラスのように元々鎧の隙間を狙うのに適してるような武器なら上手く狙うことが出来れば難なく貫く事が出来る。
「こしゃくな蟲だね!」
アローさんが相手をしているのはベルベットワームという魔物だ。見た目は大きなナメクジといったところでドロドロの粘液を浴びせようとしてくる。粘液は4~5mぐらい飛ぶのだけど、アローさんの矢の方が飛距離があるから問題なさそうだね。ベタベタしてて切りにくいけど、貫通系には弱いし、何より動きが遅い。
「そこだーーーー!」
アッシュさんが一見何もなさそうな空間をナイフで切りつける。だけど、うめき声が聴こえ、魔物の姿が顕になった。
細長い胴体に針のような口が特徴のアサシンバグだ。だけどこの魔物で一番の特徴は擬態能力。これで風景に溶け込みつつ獲物に近づいて、その針のような口吻でブスっと刺して体液を吸い取ってしまう。ついでに毒も注入させて身動きも取れなくさせる、まさにアサシンといった魔物だけど、元盗賊のアッシュさんには見抜かれていた。
ネガメの鑑定魔法で事前に相手の特徴が判っていたのが大きいのかも知れないね。擬態してくるとわかればアッシュさんなら盗賊魔法である程度気配が読めるはずだし、魔物にとっては天敵で、アッシュさんにとっては最適な相手だ。
うん、やっぱりベテランの破角の牝牛だけあって、安心感が違うよ。こここそは問題なく終わりそう、あれ?
ふと、西の森、といってもここからだと東になるんだけど、そこから伸びてくる黒い筋が目についた。それはだんだんとこちらに近づいてきている。
目を凝らしてみてみると、それは蟻の大群だった。あれは、ソルジャーアントか! 蟲系の魔物の中で蟻の姿をしたものは注意が必要なタイプの一つだ。
何せあの手の魔物は統率力が高く、しかも個々の戦闘力も高い。元々の蟻もそうだけど、蟻の特徴を持つソルジャーアントは力が強い。
そしてソルジャーアントは武器も扱う。ソルジャーアントの女王は鉄分たっぷりの液を外に排出する特徴があって、ソルジャーアントはその体液を加工して武器を作ることが出来る。
ソルジャーアントは槍を好んで使うわけだけど、ご多聞に漏れず、全員が槍を手に、こちらに向かってきているよ。
しかし、あれは100匹はいるね。今こられると、既に争っている魔物と挟撃される形になるから厄介だ。
それに、森から来ているというのが気になる。つまり、巣は森に出来たということになるからだ。
西の森にはゴールデンスカラベが暮らしている。ゴールデンスカラベは外皮が硬いけど、それでもソルジャーアントに群がられたらひとたまりもない。
ただ、察知範囲を広げてゴールデンスカラベを探ったけど、無事だった。けれど、こうしてみると森に妙な気配がわらわらと出てきている。
うん、よし、この場は皆に任せておけそうだし、僕はアレをなんとかするとしよう。ソルジャーアントは確かにパワーの面でも優れているし、肉体的にも頑丈だ。だけど、僕は前世で何度か相手している。だからどの程度の戦闘力かも理解しているつもりだ。
多少の差はあるかもしれないけど、感じ取れる力量にそこまで大きな差はない。これなら!
僕は地面を蹴って、一気に加速、牛が角を立てて突進するように、僕もソルジャーアントの列目掛けて突撃した。
「「「「「「「「「「ギギッ!?」」」」」」」」」」
蟻の驚く声が耳に残るけど、関係なくそのまま森へ向かう。走り抜けた僕の後方では空中に次々放り出される黒い蟻の姿。気のせいか人の驚く声も聞こえる。
「わ! 何あれ?」
「蟻だ! 大きな蟻が飛んだんだ!」
「飛んだと言うか、ぶっ飛ばされたって感じね」
「あぁ、ありゃきっとマゼルだね」
「流石大賢者様。きっとまたものすごい魔法を使ったのでしょう」
「冷静にみてられるようになった私が怖いよ」
「よっしゃ! 俺も負けてられないよ~」
う~ん、結局声は掛けてないけど、何故か僕が見に来ていたのがバレている気がする。
とにかく、僕はそのまま森の中へ入った。2匹のゴールデンスカラベが仲良く、というより怯えて寄り添っているように感じる。周囲にソルジャーアントの気配。
どうやら獲物と認識されてしまったようだ。急ぎたいけど、森のなかではそこまで速度が出せない。
だから森に生える木の中から抜いても大丈夫なのを選別、それを加工して杭にした後、次々と放り投げていく。
ついでにその内の一本に飛び乗った。弓なりを描きながら、ゴールデンスカラベのいる場所に杭が雨のように降り注ぎ、近づいてきていたソルジャーアントを次々と貫いていった。
そして僕は乗っていた杭から飛び降りて、残ったソルジャーアントを片付けていく。
よし、これで全滅。ゴールデンスカラベも無事だ。僕が助けたためか、ゴールデンスカラベが頭を擦り付けてくる。こうしてみるとなかなか可愛くも思える。
さて、僕にはまだやることがある。蟻の巣があるなら叩いておく必要があるからだ。
場所はもう判った。ただ、なんだろう? 何か妙なんだよね。でも、いかないと仕方がないし、ゴールデンスカラベを撫でて安心させてから、僕はアリの巣へ向かう。
森の一画にそれはあった。巨大な蟻塚が出来ていたけど、ソルジャーアントにとってのこれは入り口で中で地下に掘られている巣につながっている。
しかし、そんな気はしたけど、恐らく見張りに立っていたのであろうソルジャーアントが倒れピクピクと痙攣していた。生命反応が弱々しいなと思ったけど、これが原因なようだ。
それにしても、一体誰がこれを? 天敵が現れたのだろうが? ただ、この森で人以外でソルジャーアントに勝てる生物はいない。
グリーンウルフじゃ束になっても勝てない相手だ。
とにかく、巣の中に入り進んでいく。同じ様に痙攣している蟻や、既に息絶えている蟻ばかりだ。僕の出る幕がないほどでもある。
かなり巣の規模が拡大しているけど、気配でクイーンアントのいる場所は判る。そして――とにかく急いで最奥部にたどり着いた僕だけど。
「皆頑張って! この女王は私たちが倒す!」
「「「「「ビー! ビー!」」」」
そこにいたのは、巨大な女王蟻とそれと戦っている女の子と、大きな蜂達だった――
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