第38話 魔力0の大賢者、ボス部屋に挑戦

 僕たちは第五層にたどり着いた。ダンジョンでは五層ごとにボスが現れることになっている。


 ボスの部屋はわかりやすい扉で仕切られているし、そもそもボス部屋のある階層にはボス以外の魔物が現れない。


「遂にボス部屋だ~」

「噂には聞いていたけど目の前にするとドキドキするな」

「やっぱりボスは手強いかな……」

「俺は罠張りに徹するよ」


 破角の牝牛は緊張しているようだね。ここまで来た彼女たちなら問題ないと思うけど。


「騎士として恥ずかしい姿は見せられませんな」

「私も出来るだけのことはするぞ」

「お兄様、ボス戦では私の魔法も見てください!」

「うん、でも気をつけてね」


 騎士のタルトさんもやる気がビンビンに伝わるよ。姫様やラーサも戦うつもりみたいだね。2人は怪我させるわけにいかないからしっかりみておかないと。

 

 そして僕たちはボス部屋の扉を開けて中へと入り込んだ。それから少しして扉がしまり施錠される。


 これでもうボスを倒すまで部屋からは出られない。広さは冒険者が20人ぐらい入って動き回っても余裕があるぐらいはあるし、天井も高い。


 これなら戦うにも余裕があるかな。部屋の奥の魔法陣が輝き、中から一体の魔物が姿を見せた。


 銀色の全身鎧に身を包まれた騎士のような見た目。これは――


「シルバーナイトだね」

 

 わりとまんまな気もするけど名前の通り銀色の鎧が意思を持った魔物だ。上から下までガッチリと鎧に包まれているようだけど実際は中身はなし。


 う~ん、でもこれがボスなのか。普通にダンジョン内を徘徊してそうな相手だけど。

 ただ、皆の目は真剣だ。余計なことは口にせず、見守っていよう。


「大賢者様は今回は基本見ていて頂ければ。楽な相手ではありませんが、倒せないことはない相手です」

「シルバーナイトは直接攻撃にも魔法攻撃にも耐性があるけど、協力すれば崩せない相手ではないはずよ」

「いつまでも大賢者におんぶに抱っこってわけにもいかねーしな」

「よっし! 一丁やってやるか!」

「私は弓で援護するよ」

「なら私も続くとしよう」

「お兄様に認めてもらえるようがんばります!」


 こうして戦闘が始まった。


「光の粒子、象る衣、覆う白、守りの輝き――ライトドレス!」


 姫様が魔法を行使。光の中級魔法だ。こんなのも使えたんだね。これは魔法の効果で魔法抵抗が上がる。


 シルバーナイトは武器に魔力を浴びせて攻撃してくるからこれは有効だ。

 

 そしてラーサも杖を握りしめ詠唱に入る。


「震える緑、放たれる力、踊る風、暴れまわる刃――インテリペリ!」


 ラーサの杖から四方八方に風の刃が飛び出し、かと思えばラーサを見守るように回り続ける。あの魔法で現出した風の刃、敵対者が近づいてくると自動で攻撃してくれる。自分の意思で飛ばすことも可能だ。


「飛炎の鳥、燃え上がる朱、意思を持つ火、獲物を狙う翼――ファイヤーバード!」


 更に今度は新しく覚えたらしい魔法だ。これは中型の火の鳥を相手に向けて放つ魔法。この鳥はある程度の意思を持って相手を追尾してくれる。


 魔力の込め方で一度に顕現出来る数も変わるけど、流石ラーサは魔力が高いだけに一度に8羽も行使してみせた。


「この間教えたばかりなのにもう中級魔法って……自信なくなりそう……でも!」


 フレイさんもギュッと杖を握りしめ、シルバーナイトをしっかりと見据えながら詠唱を開始。

 その間にラーサの先制魔法が命中し、それを合図にアローさんと姫様が弓を連射、アッシュさんが罠を仕掛け始め、姉御さんとタルトさんは魔法で自身を強化しシルバーナイトに剣戟を叩き込んでいった。


「朱色の肌、顕現する炎、追い回す獣、燃え上がる猟犬――フレイムハウンド!」


 フレイさんの魔法が完成。ラーサが宙を征く火の鳥なら、フレイさんは大地を駆ける火の猟犬だ。

 火まみれになった猟犬が3匹、シルバーナイトに襲いかかる。


 シルバーナイトは魔法や矢による攻撃を受けつつもタルトさんと暫く切り結んでいたけど、たまらず大きく後方に下がる。するとアッシュさんの仕掛けたトラバサミに足を取られ動きが封じられる。


 それでも相手は剣に魔力を帯びさせ、斬撃を飛ばしてくるけど、振りが大きいので狙いはわかりやすい。結局姉御さんとタルトさんに挟み込まれてからは戦いは一方的なものとなり僕が参加しなくても勝負は決まったかなと思ったのだけど――もう少しで倒せそうなその時、シルバーナイトの魔力の流れに違和感を覚えた。


 あ、そういえばシルバーナイトは――


 シルバーナイトが剣を振り上げ地面に突き刺した。その瞬間1点に込められたシルバーナイトの全魔力が爆発し衝撃がタルトさんと姉御さんを襲う――だけど既に僕は地面に拳を打ち下ろし地面に流した氣で2人を守るように地面をせり上げさせた。


 これによってタルトさんと姉御さんの目の前に厚い壁が出来上がりシルバーナイトの最期の抵抗から守ることに成功した。


 あの魔物はピンチになると時折この手に出るからね。でもこれを使うとシルバーナイトも倒れるからまぁ道連れを狙った技みたいなものだね。


「また大賢者様に助けてもらうことになりましたな」

「あんな一瞬で判断できるなんてやっぱ凄いんだなぁ」

「無詠唱であの速さですから、やはり尊敬してしまいます」

「お兄様の的確な状況判断。これも大賢者たる所以です」

「いや、本当僕は最後に手を出しただけで、このボス戦は皆の力が大きいよ」


 色々言われてるけど今回もやっぱり魔法じゃないからね。

 とにかく落ち着いたところで、しまっていた扉は再び開き、シルバーナイトの消えた後には魔石と宝箱。そして扉の外側から何かが崩れたような音が聞こえてきた。

 

 とりあえず魔石を回収。そして宝箱を確認するとミスリル製の盾が入っていた。タルトさんに丁度良さそうなので使ってもらうことに。

 

 その後は音のあった方が気になって戻ってみると壁が一箇所破壊され別な部屋に繋がっていた。

 部屋に入ってみると、周囲の壁が一面銀色であり。


「これはすべて銀ですな。これはこの部屋だけで相当な銀が掘り起こせますぞ」


 どうやら有益な銀の鉱脈だったようだね。ヒーゲ男爵に教えてあげればきっと喜んでくれるだろう。


 その後はボス部屋の奥も確認する。更に地下に続く階段があったけど、話し合って僕たちはここまでで出ることにした。最初の探索としては銀の鉱脈も見つかったし上々だと思う。


 ボス部屋はボスがいない間はダンジョンの入り口まで瞬時に戻れる魔法陣が残される。それに乗ってダンジョンから出た。


 その足で町に戻り、冒険者ギルドとヒーゲ男爵に報告。男爵も随分と喜んでくれた上。


「あんたの腕を疑ってしまいさんざん迷惑までかけて本当に申し訳なかった~~~~!」


 ムスタッシュが地面に頭を擦り付けて謝ってくれた。どうやらトンネルが出来たことに文句を言ったということで相当町で嫌われてしまったらしい。そこにきて僕がダンジョンを見つけた事もあって、全面的に自分が悪いことに気がついたんだとか。


 僕ももうそれに関しては気にしてないよ、と謝罪を受け取り、話は終わった。


 こうして僕たちは無事ローランの町に戻り、ギルドに行って次元に放り込んでおいたオルトロスとかを出してみせたんだけど。


「ぎぇえええぇえ、お、オルトロスですか! それにトロルとか、ひぇええぇええ!」


 僕が取り出した素材に随分と驚かれてしまった。ただそのあとギルドマスターのドドリゲスさんが出てきて僕を見るなり、大賢者様なら納得とか言われちゃったけどね。


「今回も色々な経験をさせてもらったよ」

「大賢者様の驚異的魔法の数々もこの目に出来ましたし満足です」

「今後は俺たちもダンジョンに挑めるしいいこと尽くめだったね」

「ダンジョンを見つけてしまうのはびっくりしたけどね」


 ギルドを出てそんなやり取りをした後、破角の牝牛ともお別れした。今回はダンジョンでの戦利品もあってか大分儲かったんだとか。


 さて、これで一通りやることは終わったし、屋敷に戻るとしようかな。

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