第20話 魔力0の大賢者、絶賛される!

 周囲が静まり返る中、僕はなんとなく砕けた魔導人形の破片に目を向けてみた。それで気がついたんだけど、これ、オリハルコンとハイミスリルを組み合わせた合金だね。


 でも、うわ、酷いなこのオリハルコン。純度が低すぎる。オリハルコンはかつては伝説の金属としても崇められた代物。だから物理的にも魔法的にも耐性が高い。それは確かなんだけど実はそれ相応の効果が得られるかは純度に掛かっている。


 というよりはっきり言えばオリハルコンは純度100%をわずかでも下がると極端に効果が落ちる。不純物に弱いからねオリハルコン。だけどこれがなかなか難しい。実際自然界に純度100%のオリハルコンは殆どないからね。


 でも、それでもこれは酷いけどね。このオリハルコンは純度0.5%ぐらいだもの。これももうほぼオリハルコンとは言えないね。ここまで酷いってことはオリダニに食われてしまったんだろうなぁ。


 オリダニはオリハルコンを食べるダニだからね。これに食われてしまうとオリハルコンは純度が極端に落ちる上、劣化も激しいんだ。


 う~んそれにしても不思議なことをするもんだなぁ。こんな粗雑なオリハルコンにハイミスリルを組み合わせるなんて。見る限りこのハイミスリルも決して質がいいとは言えないけど、それでもこんなくず鉄みたいなオリハルコンと組み合わせたらハイミスリルの良さが損なわれるだけなのに。


 あ、そうか! これはあくまで訓練用の魔導人形だからわざと壊れやすくしてるんだね。あれ? でもさっきはミスリル製と言ってた気もしたなぁ……ま、いっか。

 

 問題はその人形を派手に壊しちゃったことかな。ラクナの時は破損ぐらいは問題ないって話だけどやっぱりここまで粉々にするのは問題だったのかな?


 と、とにかく――


「……あれ? 僕、もしかしてやらかしちゃいました?」


 そう、探るように聞いてみた。ちょっと心臓がドキドキしてきたけど。


「「「「「「「「「す、凄い何これーーーーーー!」」」」」」」」」


 え? え? だけど返ってきた反応は僕が思っていたのとちょっと違う。え~と、凄い?


「うぉおお! 流石だマゼル! 大賢者マゼルよ! まさに大賢者の所業としか思えん見事な魔法だ!」

「え? え?」

「流石ですお兄様! やはりお兄様の魔法は最高にして至高にして究極です!」

 

 何か父様がやってきて僕の頭を撫で回し、ラーサは胸に飛び込んできて凄い喜んでた。

 え~と、でも本当にこれで良かったの?


「私の、私の、き、金貨10まん、まい……5体、はは、ひひっ……ひひっ」


 あれ? ガーランド将軍が何か涎を垂れ流しながらブツブツ呟いてるよ。え~と、金貨10枚? あ~そっか、あの3級以下の素材でも一応はハイミスリルだし、それぐらいはしちゃうんだろうね。オリハルコンには値がつかないだろうけどハイミスリルはそこそこしそうだもんね。


「ちょっと待てーーーー! 認めん! 私はこんなのは認めん! 無効だ無効! こんなものは無効だ!」


 すると、そこで異を唱えたのはあのワグナーだった。何か顔を真っ赤にさせて血管も浮き出てるよ。その後ろではラクナが床に膝と手をつけた状態でうなだれながらボロボロ涙を流して床をドンドン叩き続けているよ。

 

 う~ん、結局の所、これって余興みたいなものだと思うんだけどそんなに悔しかったのかな?

 とは言え、とにかくワグナーは何か言いたいことがあるみたいだね。


「ふむ、これのどこに不満があられるのかな? ワグナー卿」

 

 するとアザーズ侯が前に出てワグナーに問いかけた。ワグナーはアザーズ侯に問われたことで一瞬喉をつまらせたけど、すぐに表情を整えて口を開く。


「はい。勿論今の行為です。この勝負はあくまで魔法を使ってあの人形を倒せるかを競うもの。にも関わらずあのマゼルがやったことと言えばただ殴っただけ! とても魔法とはいえない!」


 あちゃ~やっぱりそこを突かれたか。僕もそこは失敗したなと思ったんだよね。流石にただ殴っただけじゃごまかしようもないもの。本当軽く小突いただけであそこまで派手に砕けるなんて思わなかったんだよね……。


「ふむ、ワグナー卿ともあろう方がおかしなことを申されるな。貴方にはあれが魔法には見えなかったとでも?」

「え?」

 

 はい? ワグナーじゃないけど僕もアザーズ侯の言葉には疑問符が浮かんでくる。


「そもそも、この魔導人形を用意した将軍の言葉を思い出せばわかると思うが、この人形はミスリル製の上、物理的攻撃を遮る術式が施されている……そうでしたなガーランド殿」

「…………」

「ガーランド殿?」

「ふぇ? え? あ、あぁ。そ、そうだな。確かに、そ、そのとおりだ」


 うん? 将軍まだちょっと本調子じゃないみたいだね。あ、やっぱりアレを壊されたことで何か色々考えているのだろうか? 金貨10枚らしいし、素材が大した事ないらしいけど一応は軍の所有物だものね。う~ん、もしかして損害賠償とか求められたりするのかな? 


「聞いてのとおりであるな」

「し、しかし現にただのパンチで壊れたではないか!」

「だからこそ、これはローラン家の子息たる大賢者マゼルが行使した魔法であるという証明なのだよ。つまり彼が行使したのは自己強化魔法。それにより身体能力を極端に上げ、この魔導人形を破壊したのだ」

「な!?」


 ええぇえええぇえ!? いやいや違う違う! これ本当ただ殴っただけだから! 


「しかも私が思うにこれは自己強化魔法だけではありませんな」

「ほう、判るかライスよ」

「はい父様。これでも私は学者の端くれですよ」

 

 眼鏡をクイクイっと直しながら嬉しそうに語っているのだけど既に嫌な予感しかしないよ!


「そう、だからわかりました。これは自己強化魔法に付与魔法を組み合わせていると。しかも付与した属性はかつて大賢者が得意としたという――衝撃です」

「おおぉおおお! なんと衝撃をか!」

「これまでも誰もが挑戦するも実現出来なかったという伝説の付与、衝撃とは!」

「まさか付与魔法の衝撃をこの目にできる日がくるなんて、今日と言う日に感謝ね」


 えええぇええぇ!? 何これ何これ! なんでみんなしてそんなメチャクチャな話に同意してるの!? そもそも付与に衝撃ってなに? 知らないよそんなの!


 あれ? でも待てよ。確か以前似たような状況でサイクロプスキングとサイクロプスの群れを一網打尽にした時、ナイスが、これぞ大賢者マゼルの大魔法にして至高の衝撃の付与魔法! なんて騒いでた気がしたけど……まさかあれがそのまま伝わってるの!?


「そ、そんな衝撃の付与なんて、そんなこと出来るわけが!」

「ですが、それ以外に説明がつきますか? もしこれがただの強化魔法やもしくは貴方が言うようにただ殴っただけとして、それであれば壊れるのはせいぜい一体。しかし彼はその拳の一撃だけで5体全ての魔導人形を破壊したのですぞ? そんなことが魔法も使わない行為で出来るわけがない」


 すみませんアザーズ侯。それ出来るんです。というか、今僕がやってみせたのがそれです。


「し、しかし、は、そうだ! これはきっとこの魔導人形が全て欠陥品だったんだ! そうに違いない!」


 あぁ~それはもしかしたらあるのかも。素材も三級品だったし、大事な物理耐性の術式に不備があったのかも。


「5体全てがですか?」

「う、うぅ、そういう偶然だってないとは言えん!」

「ふむ、だとして、それだと貴方はガーランド卿が用意した魔導人形を疑っているということになりますが?」

「――ハッ!?」


 アザーズ侯が切り返すとワグナーがガーランドを見た。僕も見てみるけど、わ~肩をプルプルさせて凄い形相だよ。これは大分頭に来てそうだ。


 やっぱりあの魔導人形はやりすぎたかな……。


「あ、あの、こ、これはその!」

「もういい。お前は黙ってろ! これ以上私に恥をかかせるな!」

「は、はい。申し訳ありません……」

「ところで、将軍はどう思われますかな? 今のマゼルくんの魔法は?」

「……確かに、大したものだな。大賢者と断言できるかは今後の成長次第だと思うが、いいものを見させてもらった」


 ……あれ? それだけ? 魔導人形を破壊してしまったことにもっと色々言われると思ったのに。


「……ローラン卿。いい息子さんを持ちましたな」

「いやいや、これはガーランド侯にお褒め頂けるとは光栄至極でございます」

「……確か今宵は米というものを使った料理も振る舞われるとか。それも期待させていただきますぞ」

「はい! ローラン家から寄りすぐりの米と料理人を用意しました故、御期待には応えさせていただきますぞ!」

 

 父様と言葉を交わした後、ガーランド将軍は兵に命じてバラバラになった魔導人形の破片を片付け始めた。

 

 何か申し訳なく思って僕も手伝おうとしたけど、ガーランド将軍に、貴様は触れるな! と怒鳴られてしまったよ。すぐに取り繕うように怒鳴って悪かったと謝ってきたけど、やっぱりかなりご立腹なのだろうか?


「う~ん、この魔導人形は賠償することになるのかな……」

「そんな心配は不要だと思うぞ」


 僕が一人悩んでると、あのオムス公国のお姫様が声をかけてきた。うわ、間近で見るとちょっとキツそうではあるけど、やっぱり綺麗な人だな。

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