電波塔

 私には霊感があるので、人には視えないその電波塔が視える。


 それは仙台市某所に建っている古い電波塔だ。生き物の頭の中に直接作用する電波を発している。誰かが管理しているわけではなく、その電波塔が単独で存在し、活動しているのだ。

「こんにちは。妖精さん」

『こんにちは。ニンゲンさん』

 羽が生えたふわふわの毛玉のような妖精さんが集まっている。

「なにをしているの?」

『みんなでピクニックをしているの』

「電波塔の下で?」

『ええ。だってとても心地よいもの』

「どうして?」

 柔らかな草木は生えているとはいえ、錆びた電波塔の下でピクニックをして気持ち良いのだろうか。

『聞こえてこない? 素敵な音楽が聞こえてくるの』

『私にはとっても楽しいラジオ番組!』

『あたしは川のせせらぎと小鳥の鳴き声が聞こえてくるの』

「みんな違ったものが聞こえるの?」

『ええ、そうなの。不思議な塔だわ』

 当人にとって気持ち良いものが聞こえてくるようだ。

『みんなで何が聞こえてきたか、教え合うのよ』

「へえ」

『あなたには、何が聞こえてきたの?』

「……クラシック音楽」

『くらしっく? ニンゲンの古典音楽ね。素敵だわ!』


 妖精さんと少しお話をしたあとは、足早にそこから離れた。それでもまだ、電波塔からのそれは聞こえてくる。

”………………………あなたはおかしくないわ”

「………………」

“あなたは普通の子なの“

“霊感なんて、みんな持っているの。当たり前のことよ“

「………………」

 クラシック音楽なんて嘘っぱち。ああ、心地よい言葉も過ぎれば本当に耳障りなことだ。

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